四季島、瑞風、ななつ星 鉄ちゃん視点で見る豪華列車

日経トレンディネット

(3)展望車に見る思想の違い

クルーズトレインの魅力は何か。クルーによる心温まるもてなしや、食堂車で味わう料理なども大きな要素ではあるが、それだけではホテルと変わらない。鉄道の旅ならではの魅力は、何といっても移ろいゆく車窓だろう。そのために各列車とも展望車を設けている。

ただ、その設計は大きく異なる。ななつ星の展望車といえば、JR九州の唐池社長(当時)が「30億円の額縁」と名付けたエピソードが有名。30億円はななつ星プロジェクトの総額。では額縁とは何か。ななつ星の最前部と最後部は平面の一枚窓(縦1.5m、横2.3m)になっており、木の大きな窓枠で囲われている。つまり、額縁の中に風景が見えるというわけだ。

風景は額縁に入れたほうが際立って見えるというのが水戸岡氏の考え。同氏の手掛けた車両を見ると、横長の大きな窓ではなく、1席に1つずつの正方形の窓が多い。「富士山ビュー特急」(富士急行)のように、もともと大きかった窓の中に、あえて木の窓枠を作って小さくしたケースすらあるのだ。水戸岡氏いわく「窓が大きすぎると、光が入ってきすぎて疲れる」。確かにそれも一理ある。

四季島の展望車は窓が天井まで回り込み、開放的。前面展望が運転台越しになってしまうのは残念だが、景色に包み込まれた感覚になれるのは、おそらく3列車の中でトップクラスだろう。日中は四方八方から光が差し込み、そのうえ壁やソファが純白なので、とにかく明るい。これは奥山氏が狙ってやっていること。ほかの車両は照度や窓の大きさを変え、落ち着いた雰囲気にしており、「さまざまな車両を歩き回って明るさの変化を楽しんでほしい」(奥山氏)。

ガラス張りというイメージの四季島。白い本革のソファはイタリアから輸入したもの

瑞風は、運転台の下の部分に展望デッキを設置。事故防止のため先頭には出られないが、最後尾なら走行中も外に出ることができる。デザインと同様、戦前に流行した展望デッキ付きの豪華列車へのオマージュだ。

加えて展望デッキの設置は、列車名に含まれる「風」を肌で感じてもらおうという趣向でもある。ちなみに各個室にも開閉できる窓を設置。窓が開くのは、豪華列車では珍しい。

運転台の下に出られるようになっている
展望デッキからの眺め。走り去る風景を風を感じながら眺められる
ヘッドライトを丸くするなど、レトロなイメージを強調

(4)ななつ星と同じところ、変えたところ

日本の在来線の車両は、欧米の鉄道車両と比べて小ぶり。限られたスペースの中でどれだけゆったりとした個室を作れるか。ななつ星の挑戦はそこから始まった。

水戸岡氏がたどり着いたのが、線路と同じ方向に置かれたソファを手前に引き出すとベッドになるギミック。限られた空間でも昼と夜の快適性を両立させた。車両の片側が通路になっているため、客室から両方の景色が楽しめないという問題は、入口の扉をエッチング入りのガラス張りにすることで、プライバシー性と眺望を両立。狭い感覚も緩和させている。

四季島の「スイート」と瑞風の「ロイヤルツイン」は、どちらもななつ星と同じようなソファとベットの兼用タイプを採用。これは必然と言えるかもしれないが、個室の細部には違いがある。

四季島は「長時間いても落ち着ける空間」(奥山氏)にすべく、窓の大きさは控えめにし、照度も絞っている。個室が設置されているほうと反対側の景色を見るためには、廊下に出る必要がある。廊下の窓は、ちょうど顔の高さに小さな窓が並ぶ独特の形状。水戸岡氏の言う“額縁効果”を別の形で狙ったものだ。

四季島のスイート。少し暗めで落ち着いた雰囲気
廊下には正方形の小窓が並ぶ。ちょうど目線の高さだ

一方、瑞風の窓はとにかく大きい。前述の通り、一部の窓は開閉できるようになっていて、景色や空気を五感で楽しむ。また、個室と廊下の間仕切りを大きく開け放つことができ、プライバシーは犠牲になるものの、両側の景色を見ることができる。瑞風の場合、瀬戸内海は個室側、日本海は通路側となるので、両方に対応できる構造が必要だったのだろう。

瑞風の個室のドアは大きく開け、両方の眺望が楽しめる
個室の窓の一部は開閉式になっている

また、さらに上級となる四季島の「四季島スイート・デラックススイート」と瑞風の「ザ・スイート」には、ななつ星にはなかったバスタブが設置されている。

四季島のバスタブは、なんとヒノキ風呂。窓には障子がはめられており、まさに和の空間となっている。車体の振動で湯がこぼれるのを抑えるため、浴槽の内側に波を静めるでっぱりが付いているのが面白い。

四季島の最上級個室にあるヒノキ風呂。ここだけ見ると車内のようには見えない
浴槽の内側に付いている棒は手すりではなく、波を鎮める役目を果たす

アール・デコ調の瑞風は、クラシックな脚付きのバスタブを設置。ちなみにこのザ・スイートは1両まるごとが1部屋になっているという、世界的にも珍しい個室。2人用だが、ソファをベッドにすれば4人まで利用できる。とはいえ1両の定員が4人というのは、日本最小である。

瑞風は洋風のデザイン。バスタブにつかりながら風景を眺められる

瑞風でもう一つ特徴的なのが、1人用の個室「ロイヤルシングル」がある点。ななつ星、四季島も2人用の個室を1人で使うことはできるが、2人利用が原則となっている。

ロイヤルシングルのベッドなどの配置は、15年に引退した旧トワイライトの「ロイヤル」を思わせる。エキストラベッドを出して2人で利用することもでき、その場合は2段ベッドになる。これも往年の寝台列車を思わせ、懐かしさを感じる。

ロイヤルシングルの2人利用時の様子。ベッドを引き出して2段ベッドに

(日経トレンディ 佐藤嘉彦、写真 山本さとる、都築雅人、水野浩志)

[日経トレンディネット 2017年5月8日付の記事を再構成]

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