しかし、取り組みの焦点となっているのは重工業だ。2017年3月、政府は103カ所の石炭火力発電所の閉鎖および計画中止を発表した。鉄鋼の生産能力も、さらに5000万トン分削減するという。
政府を動かす力となったのは、大気汚染に対する国民の怒りだ。最初の削減策の効果が現れはじめた2014年と2015年には、北京周辺の微粒子汚染のレベルは25%低下した。しかし2016年末から2017年初頭にかけて、数値は再び急上昇に転じた。これについては、グリーンピースが以下のように分析している。生産能力の削減を行ったにも関わらず、2016年の鉄鋼の生産量は増加しており、その原因は中央政府が需要を刺激し、地方の役人が地元の工場を保護したことであった。
環境汚染に対する国民の抗議の声は、中央政府が大なたを振るう上で都合の良い口実となっている。そもそも鉄鋼やセメント、ガラス、発電といった部門における過剰な生産能力は、経済を揺るがしかねない時限爆弾だ。政府もいずれこれに対処しなければならないことはよくわかっている。
しかし重工業は雇用を提供し、有力な国有企業に独占されていることから、「手をつけるのが非常に難しい部門」だと、ロンドンを拠点に環境問題を扱うウェブサイト『チャイナダイアログ(Chinadialogue)』の北京編集主幹、マ・ティアンジー氏は言う。「大気の質に関して、都市部の中産階級から抗議の声が上がることで、政府はかねてより実施の機会を狙っていた困難な改革を推し進めるための、正当な理由を得ることができたのです」
驚くべき情報の透明性
中国の環境汚染との闘いにおいて特に注目すべき点は、政府がいつもの警戒的な態度を捨て、かつてないほどの透明性を見せていることだろう。
政府は驚異的なスピードで、PM2.5のレベルを観測するモニターの全国的なネットワークを構築した。(参考記事:「インドで最悪級の大気汚染、PM2.5基準の16倍」)
さらに驚くべきことに、モニターの観測データは一般に公開されている。中国でスマートフォンを持っている人なら誰でも、地元の大気の質をリアルタイムでチェックしたり、特定の施設が排出制限に違反しているかどうかを確認したり、ソーシャルメディアを通じて地元の執行機関に違反行為を報告したりできる。情報公開のレベルは、米国のそれと比べても遜色がない。
こうした流れは、中国の国民と政府の関係性に真の変化をもたらすと語るのは、政府のデータを利用するアプリを作成した環境NGO「公衆環境研究センター」のリーダー、マー・ジュン氏だ。
「ここには、従来とは違ったやり方を試すチャンスがあります。いわば従来とは違う統治のしかたが試されているわけです。これはとても貴重な機会です」
当然ながら、中国は今も一党独裁統治の国だ。北京にいる指導者たちが、地方の業績を判断する。しかし判断基準が改められたことによって、人々の姿勢も変わってきているとシェ氏は言う。旧制度においては、地方の役人はほぼ経済的な繁栄だけを基準に評価を受けてきたが、現在では大気の質を中心とした環境問題に重点が置かれるようになっている。