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写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

カルロス・ゴーン氏を主役に据え、2015年から開かれている「逆風下のリーダーシップ養成講座」(日産財団主催)。その成果をまとめた本「カルロス・ゴーンの経営論」(日本経済新聞出版社)が出版されました。本書の中からグローバル・リーダーシップをめぐるゴーン氏との質疑の一部を連載していきます。4回目は「リーダーのコミュニケーション」について、ゴーン氏が答えます。

リーダーのコミュニケーション

リーダーは優秀なコミュニケーターでなければならない

Q リーダーのメディアとのコミュニケーションの重要性や、とりかたをどう考えていますか。

リーダーは優秀なコミュニケーターでなければ、仕事がうまくいきません。立てた経営計画や定めた戦略を、いかに従業員に浸透させるか。また、対外的には、人々やマスメディアなどに、いかに自分や自分の会社を理解してもらうか。コミュニケーションはリーダーの仕事の基本です。それを怠っていては戦略や事業を成功させることはできません。

過去であれば、リーダーがコミュニケーションを軽視していても、どうにかなっていたかもしれません。メディアもウェブサイトも発達していなかったからです。社会も、企業のリーダーに対しては今より曖昧なイメージしか持っていませんでした。

ところが、今はリーダーの姿はウェブサイトなどを通じてはっきりと見えてしまいます。この24時間、企業のリーダーがどこに行って誰に会い、何を話したのかといった情報は、つぶさに社会に伝えられます。時に事実とは異なる噂までが、ソーシャルメディアなどでは飛び交います。

マスメディアの存在も重要となりました。世界が複雑化していく一方で、相対的にマスメディアが報じる内容は単純化していきます。多くのできごとを、短い時間で端的に伝えなければならないからです。すると、リーダーが一言で示したような象徴的な言葉がマスメディアなどを通じて独り歩きし、社会で「あの人の発言はなんて子供っぽいのだ」といった印象を与えることにもなりかねません。たんなるボヤ騒ぎが、メディアによって大火災が起きたかのように伝えられてしまうこともある。これはリーダーにとって由々しき問題です。

ソーシャルネットワークのようなものも、テレビの報道も含め、メディアは現実をそのまま伝えることはしないし、できません。それにメディアというものは、スクープを報じることに興味を持っています。ですから、リーダーは情報を提供する時、慎重になってもなりすぎることはありません。きちんとメディアに対するマネジメントができなければ、痛い目に遭う場合もあります。メディアが事実無根のことをあたかも事実のように報じてしまえば、従業員はそれを信じて不公平感を抱くおそれがありますし、社会もそれを信じて、その企業への疑念を抱くおそれがあります。

コミュニケーションは手段に過ぎない。ただし、重要な手段である

Q リーダーにとって、高いコミュニケーション能力を持っていることはどれだけ重要なことだと思いますか。

リーダーにとって、コミュニケーション能力は重要です。リーダーシップは人々の集団のなかで発揮されるものであり、リーダーがリーダーシップを発揮するのにコミュニケーションは必須だからです。

リーダーというものは、人々の集団があってはじめて生じるものです。その集団には、いっしょに物事を楽しめる人々がいる。そして、「みんなといっしょに楽しんでいる」という感覚を分かち合っている。そうした心のつながりがある集団で、人々に奉仕できる人こそがリーダーシップを持っている人なのだと言えます。山のなかで1人、孤独にキャンプをしているような人はリーダーではありません。対話、相互作用、ギブアンドテイクといった相互的な関係のなかで発揮されるものがリーダーシップなのです。

けれども、コミュニケーションをとることは、あくまで手段でしかありません。コミュニケーションをとること自体が目的にはならないのです。ですから、ある人が素晴らしいコミュニケーション能力を持っているとしても、それだけではリーダーとして優れているということにはならないのです。素晴らしいコミュニケーション能力を持ちながら、リーダーとしては失格という場合もあるわけです。

とはいえ、コミュニケーションは手段として重要です。人々との交流において、コミュニケーション能力があれば、早く相手のことを理解できます。もしコミュニケーション能力がなければ、人々を混乱させるようなメッセージを発信してしまうかもしれません。そんなわけの分からない人がリーダーでいるというのは嫌でしょう。

※「カルロス・ゴーンの経営論」(日産財団監修、太田正孝・池上重輔編著、日本経済新聞出版社)より転載

※隔週火曜更新です。次回は5月30日(火)の予定です。

カルロス・ゴーンの経営論 グローバル・リーダーシップ講座

著者 : 日産財団(監修)、太田正孝・池上重輔(編著)
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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