「食べたら太る」にシラケます
作家、石田衣良
せっかくみんなで楽しく食事しているのに、決まって「こんなに食べたら太っちゃうわ」とか「明日から粗食にしなきゃ」などと言う人がいて、ホントにシラケます。そう言う人は来てほしくないと感じてしまう私は、心が狭いのでしょうか。(東京都・40代・女性)
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これはお気持ちお察しします。あなたの心は狭くありません。せっかくこれからみんなで楽しくご馳走をたべようという瞬間に、カロリーがどうのとか、太って困るとか口にする人がいると、座の空気が悪くなることはなはだしいですよね。誰だっていい気分にならない。
しかも、その手のことをわざとらしくいう人は、たいていの場合口先だけで、実際には高価でおいしくてハイカロリーなメインディッシュを平然とひとり占めしたりする。周囲の気を悪くしておいて、自分はぜんぜん遠慮などしないのです。さっきちょっと反省したからいいやと、免罪符でも得たようにたべまくるのだ。困ったものです。
ぼくも40代の後半を迎えるまで、好きなものを好きな量、好きな時間にたべていました。飲み会のあと夜明けのトンコツラーメン&餃子もへっちゃら。なんならライスもつけたりして。みんな太るとかいうけど、なんでかなあと不思議に思っていたくらいです。
でも、ある日を境に中年の基礎代謝の低下は必ずやってくる。かんたんにコントロールできると思っていた体重が圧倒的な下方硬直性を獲得するのです。水をのんでも、空気を吸っても太る。太めの友人が嘆いていたのはこういうことかと膝を打ちました。
あなたは今、40代。きっとすべてのたべものが脂肪に変わる恐怖をひしひしと実感しておられることでしょう。食事会は同性の女性だけだと思いますので、最初にひと言「困った友人」より先に宣言してしまうというのはいかがでしょうか。
偉そうで面倒な男たちから離れ、四六時中手間がかかる家族からも解放されて、我らはこのテーブルに集ったのだ。気分よくご馳走を楽しむ癒やしの場にしようではないか。同志よ、カロリーのこと、肥満のこと、内臓脂肪のこと、さらに重力に負けつつある身体中のたるみのことは、絶対口にしないようにしようではないか。自由に乾杯!
太ろうが太るまいが、目のまえに出された皿は、どうせ空っぽにして返すのです。明日は明日の風が吹く。体重のコントロールは翌朝からにして、楽しむときには楽しみましょう。太っても平気なふりで、ご馳走はいい気分で楽しみましょう。
[NIKKEIプラス1 2017年5月6日付]
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