ブータンの幸福追求 「新しい働き方」に生かす

日本は経済的には、かなり豊かです。もし、困っている人一人ひとりに「何かあったら助けてくれる人」が50人もいたとしたら……。多少の物の不足なら、貸し借りで済んでしまうかもしれません。「ちょっと子どもを見ていて」と頼める人間関係が近所にあれば、追いつめられる親は減るはずです。

もちろん、衣食住などの必要を満たせるだけの経済力がなければ「心が幸福」と言っても空威張りになります。内閣府経済社会総合研究所の桑原総務部長の報告によれば、日本では1人あたりGDPと主観的幸福度合いに相関がありそうだ、ということです。また、自殺率と失業率などの相関もかなりはっきりしているようです。今の医療や社会保障制度を支える税収を確保するためには、経済発展を諦めるのは現実的ではありません。ただ、経済以外の要素も併せて考える、という発想は重要だと思いました。

この日発表されたブータンのGNH調査結果によると、生活環境が改善し、多くの指標で前回調査より良い結果が出たそうです。その一方で、都市と農村部の格差、男女の差、教育の格差といった新たな課題も見えたといいます。

ワークライフ・バランス満足度が低い「未婚男性」

ここから先は4時間弱に及んだセミナーの中から、特に子育て世代に関係しそうな要素をご報告します。

私からは、男性のワークライフ・バランスに関する問題提起をしました。東京大学社会科学研究所の調査を引用しつつ、未婚男性のワークライフ・バランス満足度が低い事実を指摘しました。

一般的に言って、女性は男性より、既婚者は未婚者より家庭内の仕事が多いため、忙しくて大変と思われがちです。一方で「この人には家庭責任がある」と認識されることが職場における配慮につながり、仕事と私生活のバランスが取りやすいこともあります。見た目に分かりにくい男性の家庭責任ニーズは無視されたり、認識すらされないことが少なくありません。

さらに、未婚男性は「夜遅くまで仕事ができる」もしくは「したいと思っている」と周囲から思い込まれ、仕事をどんどん振られる傾向があります。ワークライフ・バランスは「母親の育児」だけの問題ではないと認識し、未婚の人や男性の「ライフ」充実も進めていくことが「幸せな社会」においては大事だと話しました。

この点について、司会を務めていたJICA南アジア部次長の松本勝男さんから、組織内における働き方改革の重要性と難しさについての話を伺いました。「JICAでもワークライフ・バランスを進める“スマート・ジャイカ”という取り組みをしている。特に未婚男女の長時間労働が問題視されている。ただ、なかなか休みを取りにくい」(松本さん)。

これに関連して、養老先生からは「日本人は休むのが苦手。会場にいる方で、有給休暇をすべて使っている、という方はおられますか? やはり、いらっしゃらない。まずは霞が関から休みを取ることを実践してはどうか」というお話がありました。特に「都会の人が3カ月くらい田舎で過ごし、田舎の人が3カ月くらい都会で過ごす」という養老先生の提案は、子育て世代としては、ぜひトライしてみたいと思いました。

電車も走らず、自然に満ちあふれ、のんびりと……

私は昨年の夏休み、島根県の山間の町に家族で旅行にいきました。近くにJRの駅があるものの、既に廃線が決まっています。青い空と山の緑があり、蝉の声を聴きながら歩いたり、プールで遊んだりして静かな時間を楽しみました。「こういうところで、しばらく暮らしてみたいなあ」と思いながら帰ってきました。町があっせんする空き家の家賃は1カ月、1万円弱。

例えば初年度は夏休みの間1カ月を過ごし、うまくいけば翌年は1学期間、子どもは現地の学校に通わせて、リモートワークができたらいいな、と考えたりします。会議の大半をスカイプでこなし、1日4~5時間程度の短時間仕事で1年のうち数カ月を暮らせるようになったら、私の幸福量は確実に増えると思います。こんなふうに、それぞれの人が「自分にとって幸福量が増えることは何か」、自由に発想してみるのは楽しいでしょう。