紫外線は「目」も傷める 屋外スポーツ時の対策忘れず
5月から夏にかけては紫外線が気になる季節だ。実は、紫外線がダメージを与えるのは肌だけではない。最近は「目」に対する影響も注目されており、紫外線によって白内障や瞼裂斑(けんれつはん)といった目の病気を発症することが知られている。4月18日、東京・原宿で金沢医科大学眼科学講座の佐々木洋主任教授が行った講演「紫外線が眼に与える影響と対策」の内容をお届けしよう。
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紫外線の量は季節によって大きく変わる。しかし地面からの反射などもあるため、頭頂部に比べると「目に入る紫外線」は季節による差が少なく、春や秋でも油断できない。特に東洋人は顔が平たいため、西洋人の1.5~2倍近い紫外線が目に入るという。
紫外線で眼病の発症リスクが高まる
紫外線によって肌にシワやシミができることは広く知られているが、目にも紫外線は良くない。紫外線を浴びる量が多いと「老眼や白内障を早く発症しやすくなるうえ、瞼裂斑、翼状片(よくじょうへん)など様々な眼病の発症リスクが高まります」と佐々木教授は指摘する。
白内障はご存じの方も多いだろうが、目のレンズに当たる水晶体が白く濁ってくる病気。加齢によって起こるが、紫外線を浴びる量が多いと発症が早くなる。瞼裂斑は白目にできる黄色く盛り上がったシミ。翼状片は白目から細い血管を伴った白い膜が黒目に向かって伸びてくる病気で、見た目だけではなく、視力にも大きな影響を与える。
赤道直下のタンザニアは北極圏にあるアイスランドの約7倍の紫外線が降り注ぐ。佐々木教授らの調査によると、50歳以上の翼状片の有病率はアイスランド(レイキャビク)が0.2%、日本(石川県輪島市門前町)が7.2%に対し、タンザニア(ムクランガ)は実に46.9%と、緯度が低く、紫外線量が多くなるほど高くなっていた。
佐々木教授らは中学生の瞼裂斑も調べている。日本の中学生では36.4%(1年生25.9%、2年生41.4%、3年生41.9%)に初期の瞼裂斑が見られたが、タンザニアでは検査対象となった中学生全員で確認されたという。
「これらの調査から、瞼裂斑は紫外線被曝(ひばく)量の指標となることが分かりました。つまり、瞼裂斑がある人は、翼状片、老眼、白内障を早くから発症する可能性があるといえます」(佐々木教授)
屋外スポーツは目へのダメージが大きい
2016年12月から2017年1月にかけて、佐々木教授のグループはスポーツの名門校・金沢星稜大学の運動部の学生223人を対象に、瞼裂斑の調査を行った。そのうちサッカー、野球、テニス、陸上などの屋外スポーツをしている学生は167人。バレーボール、バスケットボール、バドミントンなど屋内スポーツは56人だった。
全体で見ると26.9%が瞼裂斑なし、25.6%が紫外線蛍光撮影(UVFP)で確認される軽度から中度の瞼裂斑あり、そして、47.5%に肉眼でも分かる強い瞼裂斑が見られた。
やはり、屋外スポーツをやっている学生は瞼裂斑の割合が高い。強い瞼裂斑が見られた学生は屋内スポーツで17.9%だったのに対し、屋外スポーツでは57.5%と3倍以上。特に高かったサッカー部は83.3%、野球・ソフトボール部は63.0%に強い瞼裂斑が見られた。
サッカー部の発症率が最も高かったのは、帽子を被らずに長時間日光を浴び続けるせいかもしれない。瞼裂斑の面積も、屋外スポーツをしている学生のほうが大きかったという。
さらに、屋外スポーツをしている学生で、メガネやコンタクトレンズの効果を調べた。その結果、メガネやUV(紫外線)カットのコンタクトレンズを使っていると、裸眼に比べて瞼裂斑の面積が明らかに小さかった。一方、UVカットのないコンタクトレンズは裸眼と変わらず、「メガネとUVカットのコンタクトレンズは瞼裂斑の予防に有効であることが分かりました」と佐々木教授は話す。
現在のメガネは基本的にすべてUVカットだ。ただ、一般的なメガネの場合、横から紫外線が入ってくるのに対し、UVカットのコンタクトレンズは横からの紫外線も防げるという。「屋外でスポーツをするとき、近視の人はUVカットのコンタクトレンズを使うことをお勧めします。小学生でも高学年になればコンタクトレンズを使ってもいいでしょう」と佐々木教授。もっと小さい子どもにはメガネや帽子を使わせよう。
強い近視の人は特に注意が必要
かつて「日本人といえばメガネ」といわれたこともあったが、実際に日本は近視の人が多い。パソコンやスマートフォン(スマホ)の普及もあって、「昔に比べて40~50代の近視も増えています」と佐々木教授は話す。
岐阜県多治見市で40歳以上の3021人を対象に行われた調査によると、近視は全体の41.8%。40代では男性の70.3%、女性の67.8%が、50代では男性の49.6%、女性の42.4%が近視だった。さらに、40代男性の17.7%、40代女性の15.0%はマイナス5ジオプターより強い(一般に視力0.1以下程度)強度の近視だった[注1]。
[注1]Ophthalmology. 2008;115(2):363-370.
若い世代ではもっと多い。佐々木教授らの調査によると、「金沢医科大学では97.4%が近視で、37.6%が強度近視だった」という。
一般に白内障は加齢によって起こり、80歳を過ぎるとほとんどの人が白内障になるといわれるが、紫外線の被曝量が多いとなりやすく、早くから発症しやすい。また、近視の人も白内障になるリスクが高いことが分かっている。そこで佐々木教授らは日本、台湾、中国で合計1526人を対象に、近視と紫外線被曝量によって白内障になるリスクがどのように変化するかを調べた。
視力が正常または軽い近視の人が白内障になるリスクを1としたとき、強度近視の人が白内障になるリスクは3.81倍だった。強度近視に加えて紫外線の被曝量が多くなる(日本では1日8時間以上を屋外で過ごした場合)と、なんと24倍も白内障のリスクが高くなることが分かった。
「この調査から、強度近視の人が大量の紫外線を浴びると、早くから白内障になりやすいことが分かりました。屋外スポーツをしている人、強度近視の人でUVカットのないコンタクトレンズを使っていると、瞼裂斑や白内障のリスクが高くなるということです」と佐々木教授。
肌だけではなく、紫外線対策は「目」にも必要。大切な目を末永く使いたいと思ったら、近視の人はメガネかUVカットのコンタクトレンズで、視力のいい人はサングラスや帽子で、目に入る紫外線を防ぐことを考えよう。
金沢医科大学眼科学講座主任教授。1987年、金沢大学医学部卒業。米オークランド大学眼研究所研究員、自治医科大学眼科助手を経て、96年に金沢医科大学眼科学講座講師。2005年より現職。日本眼科学会評議員。日本眼薬理学会評議員。日本白内障学会理事。水晶体研究会代表世話人。
(ライター 伊藤和弘)
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