ひうらさとる 6時に仕事を強制終了、生産性高まる

日経DUAL

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「干物女」という言葉を世に広め、ドラマ化でも話題を呼んだ『ホタルノヒカリ』の作者である漫画家のひうらさとるさん。20代から生活の大半を仕事に費やすハードワークの日々を送り、41歳のときに結婚。43歳で出産した長女は現在7歳に。生活が大きく変化する中で感じたことや、以前よりも仕事の効率が上がったというひうらさん流ワーク・ライフ・バランスについてお聞きしました。

漫画家のひうらさとるさん(写真:吉澤咲子)

『ホタルノヒカリ』の原点

――漫画家の仕事というと、アシスタントさんたちと一緒に夜中まで原稿を描いて、徹夜も当たり前で、というイメージがあります。実際そうなのでしょうか。

30代前半まではまさにそんな生活でしたよ。10代のときに少女漫画誌『なかよし』でデビューして、10年くらいは毎月32ページをコンスタントに描く感じでしたが、27歳でフリーになってからは連載をかけ持ちするように。最高で月に160ページくらい量産したこともありました。3LDKのマンションに7~8人のアシスタントが入れ代わり立ち代わり来て、私は自分で人物を描きながら、背景や小物などはこう描いてと指示を出すんです。いわゆるプレーイングマネジャーみたいな感じですね。

そうやって締め切り前は徹夜で仕上げて、原稿を出したらみんなで昼から焼き肉屋さんへ。食べて飲んで、帰ってきて倒れるように寝て、翌日からはまた仕事という感じでした。

――それはかなりハードな生活ですね。

夜中に原稿を上げてからクラブへ踊りに行ったりして、遊びもしっかり楽しんでいました。でもさすがにだんだん疲れてしまって。34歳くらいのときに少し仕事を減らし、同時に住まいも都心のど真ん中から少し落ち着いた住宅街へ引っ越したんです。

近くに住んでいた友達の家が平屋で、そこでネーム(漫画の草稿)を描いていると、塀の上を猫が通ったりするのが窓越しに見えるんですよ。そのの~んびりした感じがいいなあと思ったことが、『ホタルノヒカリ』の原点になりました。

(写真:吉澤咲子)

結婚のきっかけは…物件探し

――結婚は41歳のとき。何かきっかけがあったのでしょうか。

夫とは20代からの友人で、ずっと付かず離れずといった関係でした。『ホタルノヒカリ』のドラマ化が決まったころ、また都心に住もうかなということと、ホームページをちゃんと作ろうということを思い立ったんです。それで、交友関係の広い夫にウェブデザイナーを紹介してもらおうと久しぶりに会いました。そしたら、ちょうど彼も引っ越しを考えているというので、お互い情報交換をしたり、一緒に物件を見に行ったりしているうちに、なぜか一緒に住むことになったんです。

――話が一気に飛躍した気がするのですが(笑)。

とてもいい物件を見つけたんですが、家賃が予算よりちょっと高かったんです。それで迷っていたら、シェアハウス暮らしに慣れていた夫が、「ワイが一部屋借りるからそれで共同生活すればええやん」って。

ところが、それぞれ両親にその話をしたら、「いい年してふざけるな、ちゃんと考えているのか!」と言われてしまった。じゃあ3カ月くらい住んでみて、問題なかったら籍を入れるか、という話になりました。2人とも恋愛を経て結婚というプロセスが面倒だなと思っていたので、気も合うし、いいんじゃないの、となったわけです。

でも住んでみたらやっぱりぶつかるところが結構あって、最初はけんかしっぱなしでしたね。半年くらい経ってお互いの生活のリズムがつかめてきたころに、無事に入籍しました。

結婚も妊娠もしなかったら幸せじゃないの?

――そして、2009年に43歳で長女を出産。世間的には心配されたりもする年齢ですが、不安はありませんでしたか。

それが、本当に健康的な妊婦生活だったんですよ。そのころは徹夜もほとんどしていなかったし、よく食べてよく寝て。子育てに追われる日々が始まる前の、最後の夏休みみたいな感じでリラックスして過ごしました。ただ、臨月にちょうど『ホタルノヒカリ』の最終回を迎えることになって、体力的に制約のある中でクライマックスに向けたテンションに持っていけるかが少し不安でした。でも、気負わずにやろうと気持ちを切り替えました。

――妊婦生活をつづったコミックエッセイ『ヒゲの妊婦(43)』には、そのころに少し精神的に不安定になったという話も描かれていますね。

(写真:吉澤咲子)

独身生活が長いと、いろんな人に「何で結婚しないの」って言われますよね。で、結婚して妊娠すると「幸せになってよかったね」と言われる。「じゃあ私、結婚も妊娠もしなかったら幸せじゃないの」とモヤッとしたんです。子どもを授かってうれしい半面、その思いが、ずっと仕事を頑張ってきた過去の自分を否定するような気がしていて。出産に向けて体が変わっていく自分の気持ちとの折り合いがつかず、忙しさも相まって不安定になっていたんだと思います。

でも結局、そうやってモヤモヤしていても、描いている作品に影響することはほとんどなかった。母親になることで波にのまれるような何かが起こるわけでもないし、今までの自分といがみ合う必要なんてないのかな、って自然に思えるようになりました。

『ホタルノヒカリ』は6年半くらい続いた連載だったので、終わった後には半年くらい休みを取る予定でした。そのタイミングで妊娠、出産があり、ちょうど育休に充てられたので、しばらく育児に専念して徐々に仕事に復帰していけたのもよかったと思います。

毎日コンスタントに続け、年間の生産量が増す

――今は1日のスケジュールはどんな感じでしょうか。

朝の3時か4時に起きて、子どもが起き出す6時半まで仕事をします。6時半からは朝の用事をバタバタっとやって、7時半に子どもを小学校に送り出す。夫も8時くらいに出勤していきます。

それから1時間くらい家事をして、9時から仕事を再開。娘は今春から2年生で放課後は学童に行っているので、娘が帰宅する6時までは仕事に集中します。その後、夕ごはんを食べて夫婦で晩酌して、9時に娘と一緒に私もベッドに入ります。

――すっかり健康的でメリハリのついた生活ですね。

出産前は夜中の12時か1時まで仕事をしていたので、夜の3時間分を朝に回した感じです。仕事の進め方も、「今日は〇ページ仕上げたら寝る」というやり方だったのが、今は夕方6時に強制終了。初めは全然進まない気がして焦ったりもしましたが、毎日コンスタントに続けることで、実は年間で考えるとむしろ今のほうが生産量が増えているんです。びっくりでしょう? 1日の中で終わりがあることが精神的に楽みたいで、体調もいい。集中力も以前に比べ高まったかなと思います。

私は毎日、A6サイズくらいのメモ帳にその日にやることをまず細かく書いて、終わると線を引いて消していくんです。もちろんやり残しはあるんですが、終わったメモをためておくと「これだけできた!」っていうのが目に見えて分かり、やりがいがあります。

それに、キリのいいところで終わるよりも、ちょっと残しておいたほうが翌日取っかかりやすいというのもあるんですよ。真っ白なページから描き始めるよりもプレッシャーがなくて、スタートを切りやすいんです。

――自分を乗せるのがお上手です!ちなみに、家のことは夫婦の間でどう分担されているのでしょうか。

夫は家事がすごく得意。料理も私よりずっと上手で片付けもてきぱきしています。そう言うと周りには羨ましがられますが、それだけできる人なので私のやることにとてもうるさい(笑)。飲食店を経営していたことがあるので、「この料理にこのお皿は合わない」とか「雑味がある」とか言ってくるんですよ。本人はアドバイスのつもりなんでしょうけど、初めはそういうのにいちいちカチンときてぶつかっていました。でも、私が料理をしないことに対しては何も言わないので、「じゃあ任せた!」と、料理に関してはあるときからしゅ~っと手を引きました。

反対に、私は整理整頓が得意で夫は苦手。いらないものを仕分けしたりするのは私の仕事です。掃除はロボット掃除機に任せて、洗濯や買い物は半々。そんなふうにして、自然と分担ができていきました。

ひうらさとる
大阪府出身。1984年に『なかよし』でデビュー。主な作品に『ホタルノヒカリ』『メゾンde長屋さん』『ヒゲの妊婦(43)』『女子高生チヨ(64)』など。現在、月刊『Kiss』(講談社)で『ホタルノヒカリSP』を連載。同作品の最新刊第5巻が発売中。月刊『YOU』(集英社)でも5月号から「貴族探偵」の連載がスタートした。http://www.facebook.com/hiurasatoru

(ライター 谷口絵美)

[日経DUAL 2017年3月28日付記事を再構成]

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