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ファミリア岡崎社長 『べっぴんさん』祖母の志を胸に

2017/5/19

日経DUAL

ファミリア銀座本店で開催された「ファミリアの軌跡展」の様子(5月7日で終了)(写真:鈴木芳果)

 子どもを育てるパパ・ママなら知らない人はいないだろう、ベビー子ども服メーカーのファミリア。「ファミちゃん」と名付けられたかわいいこぐまのキャラクターが目印で、神戸発のブランドらしいどこか上品な色使いやデザインが特徴だ。

 ファミリアは戦後間もない1950(昭和25)年、神戸市の商店街の一角で4人の女性たちによって創業された。2016年度後期の連続テレビ小説『べっぴんさん』は、そんな彼女たちをモデルにした。なかでも、ヒロイン・すみれのモデルとなっている坂野惇子さんは、現在、同社社長を務める岡崎忠彦氏の祖母に当たる。

 「働きながら子どもを育てる女性」がまだまだ珍しかった時代に、ブランドを名門企業へと成長させたおばあさまはどんな方だったのか。創業当時から変わらないファミリアのものづくりのこだわりは? おしゃれのエリート教育を受けてきた岡崎氏が提案する「服育」って? 岡崎氏に話を聞きました。

■ファミリア創業者である祖母は元祖デュアラー

――岡崎さんのおばあさまに当たる、ファミリアの創業者の一人、坂野惇子さんをヒロインのモデルとした連続テレビ小説『べっぴんさん』が放送されました。反響はいかがですか。ブランドそのものへの影響はありますか。

岡崎忠彦ファミリア社長。1969年東京都生まれ、神戸育ち。甲南大学経済学部卒業後、97年、カリフォルニアアートカレッジ卒業。Tamotsu Yagi Designを経て、2003年にファミリアに入社。2011年、代表取締役社長に就任(写真:鈴木芳果)

 まず、お店にお客さんがたくさん来てくださるようになりました。売り上げが伸びるとかではなくて、ドラマを見た方がお店に足を運んで、色々なお話をしてくださるようになったんです。それはうれしいですね。そこでまた新しい“気づき”があったりしますからね。

 認知度も上がりました。神戸のブランドなので関西ではたくさんの方に知っていただいていますが、全国的にはまだまだ。しかも、ただ認知度が上がるだけでなくて、ファミリアのものづくりに対する姿勢を伝えることができた。ドラマのタイトルにもなっているように、僕たちは手にした人の心に残るような「特別にあつらえた品」=「別品(べっぴん)」を目指して、見えないところも手を抜かず真面目にものづくりをしてきたので、そこを多くの方に知っていただけたのは本当に嬉しいですね。

 『べっぴんさん』はあくまでフィクションですが、そこで描かれるテーマの1つは働くお母さんと子どもの葛藤です。それがドラマになることで、お母さんたちの悩みが「見える化」された。当時としては珍しかったけど、今は仕事をしているお母さんはすごく多くて、時代に合っていますよね。そういう意味でもNHKのチームはクリエーティブだなぁと思います。

 何より、おばあちゃんが喜んでいると思いますよ、“べっぴんさん”にしてもらって(笑)。

――ドラマでヒロイン・すみれは仕事に没頭するあまり、時間を忘れて帰宅が遅くなったり、子どもと一緒に朝食を食べる約束を守れなかったり……多忙な様子が描かれます。実際、おばあさまも仕事に忙しい日々を送っていらっしゃいましたか?

 ほとんど寝てなかったんじゃないかな。おばあちゃんの家によく泊まりに行っていたのですが、仕事で遅くなることも多く、帰ってきたら帰ってきたで、ずっと書き物していましたから。おじいちゃんのほうが早く寝てましたね。僕は30代のころまでおばあちゃんの家の近くに住んでいたこともあって多くのことを学びましたが、なかでも好奇心についてですね。おばあちゃんは「人間、好奇心がなくなったときが死ぬときだ」とよく言っていました。僕もいろんなことに好奇心を持って、日々発見があるような生活を送れるようにしたいと、常々思っています。

■ファミリアはママ友によるベンチャー企業?

――1950(昭和25)年のファミリア創業当時と2017(平成29)年の現在では、時代背景や子ども服に対する考え方も大きく変わりました。とはいえ、ブランドやものづくりにおいて、創業当時から変わらず守り続けているこだわりはありますか。

 ファミリアという会社は今でいうところの「4人のママ友が立ち上げたベンチャー企業」なんです。ドラマのなかでもヒロインの口グセになっていますが、お母さんたちが「なんかなぁ……」と不満に思ったことをヒントにものづくりをして、「それ、ええねぇ」と感じたものを商品化する。お母さんたちが今求めているものをママ目線でつくる、問題解決していく会社なんですね。そして、その根底にあるのが「すべては子どものために」という母親の愛情。そこは守り続けていかないとと思っています。

 あとは、戦後間もなく創業した当時の時代観から、長く残るものをつくりたいという思いも強く、徹底的にしっかりとした商品づくりをしています。そこも変えずにやってきました。

――確かに、関西では“ファミカバン”の愛称でおなじみの「デニムバッグ」をはじめ、ファミリアには長年愛され続けているロングセラー商品が数多くあります。

 「デニムバッグ」は持ち手と底に合皮が貼ってあり、重さに耐えられるよう持ち手から底にかけて芯となるテープが縫い付けられています。現在も1点ずつ手刺しゅうです。さらに、持ち手部分についてはお直しのサービスもやっていて、そのサービスはワンピースやドレスの襟についても同じです。ディテールまでこだわった品質の良いものを、修理しながら大切に長く使っていただく。こうした形でお客様とコミットすることで、ブランドの価値を高めていけたらと思っています。

 ファミリアはベビー子ども服のブランドですが、出発地点は「服」ではなく、「育児法」なんですね。だから、コンテンツがすごく大事。そこは洋服だけをつくっている会社とは少し違うと思っていて、とくに、これからはハードとソフトを両立させている会社じゃないと生き残れないんじゃないかなぁと。ファストフードにファストファッションと時代とともにどんどんコンビニエンスな世界になっていきますが、僕たちは世の中をより便利にする「文明」ではなく、世の中を豊かにする「子育ての文化」をつくる企業でありたいですね。

 そういう意味でも、最近は原点に立ち返っています。ファミリアの企業理念である「子どもの可能性をクリエイトする」ということです。銀座本店には3年ほど前にイベントスペースを併設し、内外の様々なアーティストの作品を紹介しています。子どもたちが最初に触れるモノやコト、目にするもの、身に着けるものなど、子どもたちの可能性を引き出す「本物」を発信していきます。

岡崎社長がデザインを手がけた神戸のファミリア本社。開放的な空間は外国のオフィスのよう

■ショップで洋服を買う時代はもう終わり?

――では逆に、今の時代に合わせて、ブランドを進化させた点は?

 創業時と比べて一番大きく変わったのは、流通の仕組みです。売り場が百貨店から郊外型のショッピングセンターに移り、さらにインターネットの普及により、現在ではネットショッピングが一般的になりました。昔のお母さんと今のお母さんでは、子ども服の買い方が全く違います。

 そこで、今のお母さんたちに喜んでいただく店づくりを目指してオープンさせたのが代官山店です。「店で洋服を買う時代は終わり」と考え、代官山店ではファミリアというブランドを一緒に体感して、好きになってもらえるような工夫を店内に凝らしました。そして、気に入った商品があれば、その場で買って帰るのではなく、家に帰ったらその商品が届いている。店ではスタイリストと話をするだけ、帰宅したら自分に合った商品が届く。ニューヨークをはじめ、海外には既にそうしたスタイルのセレクトショップはありますからね。それくらいまでサービスレベルを上げていきたいと思っています。

――今働きながら子育てをするママたちのなかにはファストファッションで育った世代も多く、ファストファッションブランドは子ども服にとっても選択肢の1つになりました。

 ファストファッションを脅威だと感じたことはないですね。なぜなら、僕らにはファストファッションはつくれない、というより、ファストにはつくれないから。ファミリアでは今も1950年代の織り機を使っていて、風合いはもちろん、肌触りや品質がファストファッションとは全然違う。でも、どちらを選ぶかはお客様が決めることです。そのために、代官山店のような店をつくったので、足を運んでいただいて、実際に商品に触ってもらって体感してもらいたい。

 加えて、自信を持ってつくった商品の良さを、真剣にお客さまに伝えるチームづくりも大切だと思っています。ただし、外部から優秀な人材を連れてくるのではなく、今いるメンバーがいかにクリエーティブになれるか、がポイント。最近、神戸本社が引っ越しし、オフィスデザインは僕が担当したんですが、壁をすべて取っ払い、社長室もありません。そうしたオフィスの在り方も含め、どんどん面白い会社にしていきたいと思っています。なぜなら、面白い会社には面白い人が集まってくるし、面白い人が集まれば、面白いことができますから。いずれはグーグルを超えるような会社にしたいと、本気で思っています。

子どもの自由なコーディネートを褒める「服育」

――創業65周年を迎えた2015年4月には保育園「ファミリア プリスクール」を東京・白金台に開園されました。いわゆる普通の保育園との違いはなんでしょう。

 英会話やアート、体操、食育、服育など、しっかりとしたカリキュラムに基づいて子どもたちが学べるということです。保育事業については創業時から温めてきたアイデアで、「子どもの可能性をクリエイトする」という原点に立ち返ったとき、ファミリアにしかできないアプローチで子どもたちの未来に貢献することができるのではないかと考え、事業に参入しました。初めてのことだらけだったので本当に大変でしたが、ようやく波に乗り、2016年9月には兵庫県西宮市に2園目となる「ファミリア プリスクール夙川」を開園させることができました。今後も増やしていく予定です。

――カリキュラムのなかでも、ユニークなのが「服育(ふくいく)」です。ベビー子ども服メーカーであるファミリアならではですね。

 「ファミリア プリスクール」は、あえて制服がないんです。もちろん園生活で使用する帽子やエプロン、バッグといったアイテムはすべてご用意していますよ。ただ、制服はない。毎日着るものなので、「これを着なさい」というのではなく、好きな色や好きなデザインのものを、その日の気分に合わせて、子どもが自分で選んで自由に着ればいいと考えています。そこもこだわりの1つですね。

 子どもの「服育」で一番大切なのは、褒めること。子どもが自由に選んだコーディネートをまずは褒めてあげる。そして、「天気が悪い日は茶色と赤、どっちの色がいい? 明るい色を着ると、楽しい気分になるよね」など、遊びの要素を取り入れながら、コーディネートを提案してあげること。僕もおばあちゃんにそうやって服選びを教えてもらったので、いまだに体に染み付いています。あとは、いろんな色やデザインに触れる機会をつくってあげることも子どものセンスを育てるのに役立ちますよ。

(ライター 毛谷村真木)

[日経DUAL 2017年3月22日付記事を再構成]

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