吸血鬼や狼男はなぜ生まれた? 伝説誕生の経緯を検証科学で挑む人類の謎

記録に残っているものとしては、ペトルス・ゴンザレスが最初の多毛症の患者だ。(KHM-Museumsverband)

記録に残っているものとしては、ペトルス・ゴンザレス(1537~1618)が最初の例だろう。あまりに毛深い外見から、フランスのアンリ2世の宮廷で見世物として暮らした。ゴンザレスの5人の子は、3人の娘も含めこの症状を受け継いだ。娘たちは『驚異の毛深い姉妹』という本の中でその名を歴史にとどめることになった。

だが、多毛症がごくまれであることを考えると、1500年から1700年までに3万件にものぼった人狼の目撃例は、この症状だけでは説明できない。

狂犬病が人狼伝説を生んだのか

小さな子どもを殺して食べると恐れられた人狼を、ヨーロッパを席巻したいくつかの流行病と結び付ける説もある。その一つが狂犬病だ。きわめて致死率の高い疫病で、ウイルスは感染した動物に咬まれることで伝染する。犬がこの病気に冒されると凶暴になり相手に咬みつこうとすることがある。

18世紀は狂犬病が特に流行した時期だ。例えば、マット・カプランの『モンスターの科学』という本には、1738年、フランスで狂犬病にかかった1頭の狼が70人にかみついたという記述がある。人が狂犬病にかかって正気を失い乱暴になるのではないかという憶測が広まり、血に飢えたモンスターの物語を生んだとも考えられる。

ごくまれではあるが、人狼の話を聞いただけで自分も人狼になると思い込む人もいた。精神医学的には狼化妄想と呼ばれるもの。その患者の一人とされるのがペーター・シュトゥッベという16世紀のドイツの農民だ。シュトゥッベは13人もの人を惨殺し、悪魔がくれた魔法のベルトが自分を狼にしたと訴えたという。

中世ヨーロッパでは、流行病、突然変異遺伝子、精神病などが、広く恐れられた人狼伝説を生んだと言える。人狼伝説は今もなお、映画やドラマ、コミックなど、様々な大衆文化の中に生き続けている。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[書籍『科学で解き明かす超常現象 ナショジオが挑む55の謎』を再構成]

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