又吉直樹、『劇場』を語る 「今の僕は負けから入る」

師弟関係を結んだ漫才師の交流を描いた小説第1作「火花」は2015年に第153回芥川賞を受賞、電子書籍を含めた累計発行部数は300万部を超えた。「劇場」は「火花」より前に書き始めていたが、一旦中断。1年前から執筆を再開して完成させた。

長編小説第2作の「劇場」

感情移入にパワー

「『劇場』は結末を考えずに書いていたので、『永田』と『沙希』がどうなっていくのかがみえない。特に『永田』に対して『おまえ、大丈夫か』という視点が書いている僕の中にあって、いかに描くかに一番パワーを使いました。ただ、『永田』は徹底的に他者を認めないという人間ではなく、むしろ周りの能力の高さや魅力に気づいているからこそ苦しんでいて認めたくない。そこに感情移入していくのは大変やったんですけど、想像するとなるほどなと思う部分もありましたね」

「僕自身、ねたみ、そねみとかを若いころに感じたことは一瞬あったと思うんですが、今は見ないようにしている。最初から負けるって決めた方が楽やなという思いがある。実際、僕なんかはダメなやつと思われていて、男女のことでも仕事でも『又吉だったら』と大目にみてくれる。それに対して『永田』は負けを認めず、勝っているとウソもつかず、一番筋肉を使う、しんどいやり方を選んでいる。こうしたタイプは嫌いではないです」

「『火花』への反響はたくさんあって、だいたい褒めてくださる。中には自分で感じていない部分の指摘もあった。『劇場』を書くにあたっては、肯定的な声は生かし、批判された部分は修正しようとしました。最初に書いた(400字詰め原稿用紙)60枚ほどの原稿から、登場人物の職業を変えてみたり、わかりやすくしようとしたり、3回ぐらい書き直した。みんなの要望に応えようとしていたわけですが、ふと気づきました。自分はみんなに好かれている人間ではないと。吹っ切れたといいうか、気づいたというか。多少直しましたが、最初に書いたものでいこうと決めました」

エンタメ!連載記事一覧
エンタメ!連載記事一覧