洋服はカップめん、きものはラッピング 着方は無限に伊藤元重 矢嶋孝敏 共著「きもの文化と日本」(5)

きものは脱ぐと平面になる

伊藤 洋服とまったく逆ですね。フォルムがひとつしかないのに、スタイルは無限にある。だから、きものの場合は、着るのに上手下手が出てくる。

矢嶋 毎回毎回、形を自分で作るわけだからね。襟(えり)をどこで合わせるか、きつめに着るのかゆるめに着るのか、どの位置で帯を結ぶのか……。場合によっちゃあ、きものの下にシャツを着てもいいし、ブラウスを着てもいい。無限の着方がある。だから、うまく着れない日もある。毎日着ている僕だって、10回に1回ぐらい、帯を結び直すときがあるからね。でも、それが面白いんだよ。料理と同じこと。

伊藤 形を自分で作るとなると、無意識ではやれませんね。ワイシャツを着るときみたいに、何か考えごとをしながら、というわけにいかない。

矢嶋 ある会社の社長がきものを作ったんだけど、2日ぐらいして感想がきて、「いかに普段、着るという行為を意識してなかったか気付いた」と。毎日スーツで過ごしている人は、無意識で服を着てるから、新鮮だったんでしょう。

伊藤 きものって、着ることを意識する貴重な体験かもしれない。

矢嶋 この社長じゃないけど、きものを着ると、精神状態が変わってくる。昨日までと同じ場所にいても、まったく新しい自分が発見できる。インナートリップなんだよ。時間の流れ方が変わるし、自分の所作(しょさ)が変わるのを実感できると思う。だから、読者の皆さんには、ぜひ体験してみてほしい。

=おわり

矢嶋孝敏氏(左)と伊藤元重氏
伊藤元重
東京大学名誉教授、学習院大学国際社会科学部教授。1951年静岡県生まれ。東大経済学部卒業。ロチェスター大学ph.d。専門は国際経済学。政府の経済財政諮問会議民間議員などを兼務。
矢嶋孝敏
やまと会長。1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政治経済学部卒業。88年きもの小売「やまと」の社長に就任、2010年より現職。17年に創業100周年を迎える同社できもの改革に取り組む。

第4回「日本初『製造小売り』の風雲児 きものを物語で売る」もあわせてお読みください。

「きもの文化と日本」記事一覧

きもの文化と日本 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 矢嶋 孝敏, 伊藤 元重
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 940円 (税込み)

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