日経Gooday

そうなんです。じつは訪問看護を頼むには、医師の「指示書」が必要です。当時、母は介護認定3でした。地元の母の主治医に相談したら、「お母さんはまだ自分で寝起きもできるし、指示書はちょっと難しい」と言われました。「訪問看護は一般的に寝たきりの人に必要だから」と……。ちょうどその頃、以前テレビで共演させていただいた国立長寿医療研究センターの遠藤英俊先生が自宅に母を診に来てくださったので、すぐに相談して指示書を書いていただきました。

日本の介護が厳しいのは、例えば「訪問看護が受けられるのは寝たきりの人」というように杓子(しゃくし)定規な対応をされることがあるだけでなく、身体的な問題を中心に考えられていて、心の問題が置いていかれていることだと思います。本当に必要なのは、「風呂に入らない」という母の行動の意味を考えて、それに対してどう仕掛けて動いたら母がその気になってくれるのか、計画を立てて実行することなのですが、壁になるのは案外、介護業界や医師たちだったりしますね。でも、私は壁が高ければ高いほどワクワクして燃えます。簡単には諦めない。そのことが母をケアしていくうえで役立っているのかなと思います。

もっと考えたい 介護される側の気持ち

――関口さんは、「介護」という言葉にも違和感を覚えるということですが。

じつは私は介護という言葉が嫌いです。「介入して護(まも)る」と書きますよね。介護する側が主体で、「上から目線」のように感じます。でも、母は、守ってもらいたいとは思っていない。そもそも自分が認知症だと思っていないことが多い。それなのに、例えば、デイサービスではトイレに行くと、スタッフがついてくる。母は「この人、なんでトイレまでついてくるの? 気持ち悪い」ってなるんですよ。それって普通の感覚でしょう?

トイレに入るのをいちいち他人に手伝ってもらいたくないし、お風呂に入っているときに洋服を着ている人がいたらおかしい。介護する人には、介護される側がそういうふうに思っているかもしれないというイマジネーションが大切です。「してあげるのが仕事」「かわいそうだから、してあげないと」と考える一方的な「上から目線」の態度が一番ダメだと思います。

――関口監督はそういう日本の認知症ケアに疑問を感じて、『毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編』で、イギリス(英国)のパーソン・センタード・ケアを取材されたわけですね?

イギリスに「パーソン・センタード・ケア(P.C.C.=認知症の本人を尊重するケア)」という認知症ケアの考え方があると知り、提唱者である心理学者トム・キットウッド教授(故人)の原書を読んだのが始まりです。その後、イギリスのアングリア・ラスキン大学と交流するようになり、イギリス東部ノーリッチに「ハマートンコート認知症ケア・アカデミー」という、パーソン・センタード・ケアを取り入れたすごい認知症医療施設があると教えてもらい、これは行きたいと思ったのです。

ハマートンコートの認知症ケア・アカデミーでのワークショップの一コマ(C)2014 NY GALS FILMS

英国発の“人”にスポットを当てた認知症ケアとは?

――日本では聞き慣れない認知症ケアですが、パーソン・センタード・ケアとは、どのようなものですか?

パーソン・センタード・ケアは、認知症の人を一人の“人”として尊重し、その人の視点や立場に立って理解し、個別なケアを行おうとする認知症ケアの考え方です。キットウッド教授が提唱し、英国では、NSF(National Service Framework for elder people 2001:高齢者サービスを行う際の国家基準2001年版)に取り入れられています。

パーソン・センタード・ケアの観点から見れば、主役はケアをする「私」ではなく「母」です。常に母の視点で世界を見ようとし、そこから何をどうすればいいか導き出すのです。

――具体的に、ハマートンコート認知症ケア・アカデミーではどのようなケアをしているのですか?

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