格差は悪くない 金持ちが増えない社会ですべきこと
お隣の国、韓国では先月、朴元大統領が罷免されるという報道がありました。この背景には、韓国で進む経済格差に憤りを感じた国民感情も重なったといわれています。またアメリカのトランプ大統領を誕生させた要因にも、経済格差に対する蓄積した怒りがあったと指摘されています。では、日本はどうなっているでしょうか? 現状を分析し、私たちのキャリアプランへの影響も探ります。
そもそも格差は悪いこと?
経済格差――この言葉を聞くとどんな印象を持ちますか? ポジティブな印象を持つ人は少ないでしょう。
しかし、少し待ってください。格差は本当にいけないことなのでしょうか? なんでも平等が大切なのでしょうか。
例えば、あなたが勤務先の売上高アップに貢献したり、努力したりして資格を取得したとします。でも、平等なのが大事だからと、売り上げが低い人や努力を怠っている人と給料が同じだったら切ないですよね。
経済格差そのものが悪いのではなく、一度でも仕事で失敗したり、病気になって働けなくなったりしてキャリアを中断したら、どれだけ努力しても給料アップの見込みが無くなるような状況がまずいのです。つまり、経済格差が固定化されてしまうような状況ができあがってしまうことが社会の課題なのです。
日本の経済格差は?
では、日本の経済格差の状況はどうなっているのでしょうか。
もちろん経済格差といっても、実際はさまざまです。例えば、男女格差、地方と都市の格差、資産格差……など。ここでは、所得格差(日本全体で、給料の金額が人によってどの程度、差があるかを見たものにほぼ等しい)に焦点を当てて考えてみましょう。
2016年9月に厚生労働省から、「所得再分配調査」という所得格差に関するレポート(2013年までのデータが対象)が発表されました。
この中のジニ係数(ここではあらゆる税制によって再分配された後の所得格差を対象)という数字が大きいほど所得格差が大きく、逆ならば格差は小さく、所得の受け取り具合が平等化していることを示します。
そして、結果は……。
なんと、日本は所得格差が縮小していたのです! 2010年の0.4067から、2013年の0.4057へと、ジニ係数が低下していました。
一般的には格差社会といわれるだけに、意外な結果です。でも、なぜ所得格差は縮小したのでしょうか。その背景は、さらに意外な結果でした。
なぜ所得格差は縮小したの?
ここに総務省が発表している「家計調査」というデータがあります。この中では、年間所得(税込み)を200万円以下、200-250万円、……1500万円以上と18の階級に分けたデータが開示されています。さらに、その階級ごとの世帯数の比率が含まれています。
2002年から2012年までのデータを見ると、年収が500万円以上の全体に占める世帯数が、軒並み低下。一方で、年収が500万円以下の世帯比率が上昇しています。
つまり、日本の経済格差は縮小といっても、長引く景気後退で豊かな世帯数が減ったことが主因なのです。結果、平均的にみんなの所得が低下しているということです。みんなが豊かになって格差が縮小しているわけではない。むしろ中間層の減少や貧困層の拡大は日本の課題です。
格差というと、お金持ちが増えている印象がありますが、アメリカ、イギリスでは実際に「お金持ちが増える現象」が起きています。しかし、日本の場合はその逆で、お金持ちが減っています。それにより経済格差が縮小したものの、みんなの所得が平均的に減少したことで新たな経済課題が生まれているんです。
では、全体的に所得が縮小傾向にある中で、私たちはどうすべきでしょうか。
政府としては、こうした課題のためにお金を支給するわけにいきません。ただ、あらゆる形で税控除を設ける可能性が高いと予想されます。
キャリアアップへの努力はもちろんですが、見落としがちな税制優遇や、確実にリターンのある税控除など、税制についての知識を持つことが、今すぐできるリスク回避なのかもしれません。私も今年は税制について改めて勉強する年にしようと思います!
マクロエコノミスト。Good News and Companies代表。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。化粧品会社エイボン・プロダクツ社外取締役。1983年生まれ。神戸大学経済学部、一橋大学大学院(ICS)卒業。大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)では株式アナリストとして活動し、最年少女性アナリストとして株式解説者に抜てきされる。2012年に独立。経済学を軸にニュース・資本市場解説をメディアや大学等で行う。若年層の経済・金融リテラシー向上をミッションに掲げる。
[nikkei WOMAN Online 2017年3月22日付記事を再構成]
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