更年期で記憶力低下 女性ホルモンの「ゆらぎ」が原因
もの忘れが増えると"ひょっとしたら認知症!?"と思いがちだが、40歳前後からもの忘れが増えるのは自然なこと。更年期になると女性ホルモンのゆらぎでもの忘れが増えることもわかってきた。どのように家事や運動をすれば記憶力は向上するのか。最新情報を3回に分けてお届けする。2回目は、女性ホルモンと認知機能の関係について解説しよう。
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実は女性ホルモン(エストロゲン)と認知機能には深い関係があることがわかっているという。東京医科歯科大学大学院の寺内公一教授は「女性ホルモンが大きくゆらぐ更年期にはさまざまな不調が起きるが、もの忘れもそのひとつ。更年期外来を受診した345人に調査したところ、週に1回以上もの忘れを自覚すると答えた人は7割にのぼった」と語る。
では、どうして女性はこのタイミングに記憶力が低下しがちなのだろうか。
「更年期、つまり閉経を挟んだ前後10年間(45~55歳ぐらい)のもの忘れは、MCIや認知症との関連は低いと考える。この時期は、エストロゲン値が大きくゆらぐので、気分の落ち込みや不安感など"うつ状態"になりやすい。更年期特有のもの忘れは、このうつ症状に伴って表れやすいことがわかっている」と寺内教授は話す。女性ホルモンのバランスが変化するPMS(月経前症候群)で記憶力が落ちたりミスが増えたりするケースも同様のメカニズムだ。
ということは、更年期が過ぎてしまえば記憶力は安定するのだろうか。
「エストロゲンの基礎値は高くても低くても、認知機能とはあまり関係がない。つまり、更年期が過ぎ、エストロゲン値が安定化すればうつ状態になりにくいため、もの忘れも落ち着いていく傾向がある」と寺内教授。
そもそも、エストロゲンと脳はどのような関係があるのだろうか。「エストロゲンには、神経伝達物質(セロトニンなど)の量を増やし、作用を増強する働きがある。脳のエストロゲン受容体は、学習と記憶に関わる海馬や、情動反応の処理に関わる扁桃体などの大脳辺縁系に局在する。更年期にエストロゲン値が大きく変動すると、セロトニンなどの神経伝達物質が不足し、海馬や扁桃体の処理速度が低下するためもの忘れもしやすくなる」と寺内教授は解説する。
更年期にできるもの忘れ対策のひとつに、寺内教授はホルモン補充療法を挙げる。「もの忘れに加えて、更年期のさまざまな症状がきつい場合には、ホルモン補充療法も選択肢。ホルモン値が安定するので不安感やもの忘れなどの症状が軽くなるかもしれない。女性のこの時期は家族や仕事のストレスが重なっていることが多い。自分を追い込まないことも大切」と話す。もの忘れする自分を責めるばかりでなく、たまには自分を甘やかすことも必要かもしれない。
女性ホルモンのゆらぎを安定化する「ホルモン補充療法」
「うつ症状を有する44~55歳の閉経期女性にホルモン補充療法を行ったところ、80%の人で症状が改善。一方、50~90歳の、閉経後の女性にホルモン補充療法を行っても症状は改善されなかったというデータがある。もの忘れはうつ症状に伴って起きやすい。もしホルモン補充療法を希望する場合は、閉経前後のホルモンが大きくゆらいでいる時期に婦人科医に相談してほしい」(寺内教授)。
ホルモン補充療法では問診や検査の後、経口薬、貼り薬、塗り薬(ジェル)の3つから、体の状態や希望に合わせて成分・薬剤形状が選ばれ処方される。なお、健康保険の適用対象だ。
ひろかわクリニック(京都府・宇治市)院長。認知症予防と働く人のメンタルヘルスに特化した「ひろかわクリニック」「品川駅前MCI相談室」で診療を行う。著書に『あなたの認知症は40歳からわかる!』(悟空出版)など。
東京医科歯科大学(東京都・文京区)大学院医歯学総合研究科・女性健康医学講座教授。医学博士。主に更年期障害や骨粗しょう症の診療・研究を行う。特に中高年女性の抑うつ・不安・不眠の特性とその対応、女性の身体的・精神的機能の加齢による変化などに詳しい。
諏訪東京理科大学(長野県・茅野市)教授。専門は健康教育学、脳科学。学習、運動、遊びなど、日常的な脳活動を調べ、教材・製品・サービス開発などに生かす。『最新科学で解き明かす 最強の記憶術』 (洋泉社)など著書・共著多数。
(ライター 渡邉由希、構成:日経ヘルス 太田留奈)
[日経ヘルス2017年5月号の記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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