姫路市ではやはり姫路城を見てみたい。法隆寺とともに真っ先に世界遺産に認定され、国宝の城でもある。「播磨灘物語」では城主の官兵衛が秀吉にさっと姫路城を譲るシーンが描かれる。官兵衛が活躍する舞台を播州から「天下」へ飛躍させるきっかけともなった。現在の姫路城は「平成の大改修」を終え、シンボルの天守閣にも落ち着いた風合いが出てきている。JR姫路駅から徒歩10分ほどだが、新幹線の窓から見てもそれとわかる巨大な平山城だ。天守閣までくまなくみて回るには2時間ほどみておきたい。
子規、秋山兄弟が生まれた松山
松山市の「坂の上の雲ミュージアム」は今年で10周年を迎えた。その名の通り司馬作品の代表作のひとつ、「坂の上の雲」の世界をテーマにしている。明治期の日本を舞台にし、「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている」で始まる書き出しは最も知られた一節だろう。秋山好古・秋山真之・正岡子規の3人の主人公は松山の出身で同市の街づくりに生かそうというユニークな試みを続けている。
坂の上の雲ミュージアムはJR松山駅から市内電車で約10分。地上4階地下1階建てで、やはり安藤忠雄氏が設計した。2階から4階まで三角形を描くスロープ上に沿っていくつもの展示室を回遊していく構成で、好古・真之・子規の3人の主役をイメージしたのかもしれない。4年3カ月間連載した新聞の切り抜き、1296回分が壁一面に張り巡らされ、秋山兄弟の手紙など直筆資料の展示も多い。
三角形の順路を巡っているうちに、フィクションの小説世界とノンフィクションの近代日本史が頭の中で渾然(こんぜん)一体となってくる。現在は企画展「好古・真之・子規-明治20年代初頭」を来年2月まで開催中だ。資料や写真約130点を公開している。石丸耕一学芸員は「国家としては憲法制定、さらに好古のフランス留学、真之の海軍兵学校入学、正岡は『子規』の俳号を使い始めるなど節目の時代にあたる」と解説する。