國村隼が快挙 韓国映画、気を吐く日本のベテラン俳優
「隻眼(せきがん)の虎」の大杉漣(65)、「密偵」の鶴見辰吾(52)――世界で高い評価を得ている韓国映画界で、日本のベテラン俳優たちが韓国の人気俳優たちと肩を並べて活躍を見せている。なかでも、大きな話題となっているのが、「哭声/コクソン」に出演した國村隼(61)だ。
「哭声/コクソン」は、日本でもファンが多い「チェイサー」「哀(かな)しき獣」などのナ・ホンジン監督が手がけたサスペンス・スリラー。2016年カンヌ国際映画祭で上映されるや、その異常で残虐、かつ先の全く読めない展開が大反響を呼び、韓国国内だけで700万人を動員する大ヒット作になった。
「よそ者」怪演に強烈な存在感
國村は、平和な田舎に起こる村人たちを惑わす得体(えたい)の知れない"よそ者"を怪演。血まみれになったり激しい祈祷(きとう)を行うなど、圧倒的な存在感で強烈な印象を残し、韓国で最も権威のある映画賞「第37回青龍映画賞」で外国人俳優としては史上初の男優助演賞と人気スター賞の2部門受賞という快挙を成し遂げた。後者は一般投票によって選ばれ、例年受賞するのは大物スターや人気アイドルという賞だけに、國村がいかに韓国の映画ファンの心をつかみ、人気者になったかが分かるというものだ。
その起用に当たって、ナ・ホンジン監督は「シナリオが出来上がったときに日本人の俳優が必要となり、60代前後の俳優を調べました。國村さんは、カットごとに表情がくるくる変わるのが素晴らしいと思った。"よそ者"は、観客にこの人物はどういう存在なのかという疑問を投げかける重要なキャラクター。この役を演じ切れるのは國村さんしかいないと確信し、来日してオファーしました。もし演じていただけなければ、映画自体が大きく違ったものになっていた」と話す。
なぜ、日本人俳優の、しかもベテランの韓国進出が相次ぐのか。
韓国に拠点を置き日韓で映画制作に携わる映画プロデューサー・土田真樹氏によれば、「以前は話題作りで日本人の若手俳優が起用されることも多かったが、出演しても映画のストーリーに深く関わることはない、いわゆるお客さん扱いだった」という。ところが、最近の韓国人若手監督たちは、日本の映画やアニメを本当によく見ている。「例えば、北野武監督は韓国でも人気だけに、その常連俳優の大杉漣は目につくし、國村隼も『アウトレイジ』に出演。そういったところで知り、自分の作品へということもあるのではないか」と見る。
近年、日本植民地時代を描いた韓国映画が増えているのも後押ししているようだ。パク・チャヌク監督の最新作「お嬢さん」(公開中)も日本植民地時代の韓国が舞台。「かつては日本人の役を韓国人が演じていたが、日本人の役は日本人俳優が演じるのがトレンドになっている」(土田氏)ことから、日本出身で韓国を拠点に活躍する在日3世の俳優、キム・イヌ(51)も出演。キムは、昨年、韓国で公開された「ドンジュ」では悪辣な日本の刑事役を演じて強烈な印象を残している。
中国「禁韓令」で日本寄りに
さらに、意外な背景も。昨夏、韓国が米軍のTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)の配備に同意したことから、中国政府は韓流コンテンツを締め出す「禁韓令」を出している。
「これまで韓国のエンタテインメント界にとって、中国は頼みの綱でしたが、今後の行方は不透明です。日韓関係も歴史的、政治的には最悪ですが、文化交流レベルでは関係なく続いている。事実、アニメ映画『君の名は。』が韓国では観客動員数360万人超の大ヒットを記録しています。また昨年は日本映画『鍵泥棒のメソッド』が韓国でリメイクされて大ヒットするなど、韓国映画界は一層、日本寄りの様相を深めるのではないかと思います」(土田氏)
映画大国で知られ、アジアはもちろん、欧米での影響度も大きい韓国映画。今後も日本人俳優、しかも名優たちの進出の機会は十分あり得る。
(「日経エンタテインメント!」4月号から再構成。文・前田かおり)
[日本経済新聞夕刊2017年4月1日付]
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