日経エンタテインメント!

家事と子どもの世話に追われる主婦ロジータ(ブタ)、歌手を夢見るギャング一家の息子ジョニー(ゴリラ)、歌唱力は抜群だが極度のアガリ症のミーナ(ゾウ)など、『ペット』のように多彩なキャラクターのやりとりが観客を楽しませる一方、動物たちが歌で前向きに変わっていく姿が観客の共感を呼んでいる。

『モアナ』同様、ヒットのポイントは歌。ミュージカル・アニメーションではないが、歌唱オーディションを描く内容なので、歌が満載。フランク・シナトラ、テイラー・スウィフト、レディー・ガガ、スティービー・ワンダーなどヒットソングや名曲が60曲以上も使用されている。こちらも日本語吹き替え版がヒットの原動力だ。

アニメの中心客層である家族客を狙うには、吹き替え版が欠かせない。配給する東宝東和では製作会社に対し「歌を含めて全編の吹き替え版を作りたい」と説得。日本でのみ許可が出たという。東宝東和ではキャラクターのイメージに合い、なおかつ歌える人間を俳優、歌手、声優、タレントと幅広いジャンルからピックアップ。主人公バスター役の内村光良(ウッチャンナンチャン)をはじめ、MISIA、長澤まさみ、大橋卓弥(スキマスイッチ)、斎藤司(トレンディエンジェル)、山寺宏一、宮野真守、水樹奈々、大地真央などをキャスティング。日本語吹き替え版音楽プロデューサーに蔦谷好位置、日本語歌詞監修にいしわたり淳治といったヒットメーカーを起用し、クオリティーの高い吹き替え版を作った。

『モアナ』は吹き替え版中心の上映だが、『シング』は字幕版と吹き替え版の2バージョンでの上映を重視。字幕版ではリース・ウィザースプーンやスカーレット・ヨハンソンら有名スターが歌声を披露しており、洋画ファンも取り込む戦略だ。1館で2スクリーンの上映を増やした結果、全国361館588スクリーンという大規模上映となった。

『シング』を製作したのはイルミネーション・エンターテイメント。ユニバーサル・スタジオと提携を結び、2010年の『怪盗グルーの月泥棒3D』を皮切りに製作を続けている。日本の映画市場では『ドラえもん』や『名探偵コナン』、スタジオジブリ作品など和製アニメ映画が強く、洋画アニメはディズニーとピクサー作品以外、苦戦を強いられている。イルミネーションも『怪盗グルー』の興収は12億円だったものの、その後同じシリーズである『怪盗グルーのミニオン危機一発』(25億円)、『ミニオンズ』(52.1億円)が右肩上がりで興収を増加。昨年はシリーズ外の『ペット』が42.4億円を記録した。『シング』の大ヒットでイルミネーションのブランド力がさらに高まったといえそうだ。

『美女と野獣』 4月21日より全国ロードショー 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (c) 2017 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

それにしても、今年は歌を前面に押し出した映画のヒットが相次いでいる。アニメではないが、先に公開されたミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』も興収40億円超えが見える大ヒット中。4月には、ディズニー・アニメーションの人気作をディズニー自ら実写化したミュージカル映画『美女と野獣』も公開される。こちらは興収100億円超えを予想する映画関係者も多い。「歌う映画」のブームはさらに広がりを見せそうだ。

(ライター 相良智弘)