ドーム状になった最上階は非常に角度が急な階段教室になっており、その底には小さな台が置かれている。入り口前には、内臓や筋肉がむき出しになっているヒトの絵が掛けられ、いかにもおどろおどろしい場所へ入っていくような雰囲気なのだが、中に入ると一転してアカデミア特有の好奇心にあふれた部屋であることが分かる。

解剖学実習室として使われていた部屋。どの角度からも手元が見えるように、急な角度がついた座席になっている

その昔、ここで死体が解剖されたという事実はあるのだが、なるべく多くの学生が解剖している者の手先まで細かく見ることができるようになっている部屋の構造は、残酷さというよりはむしろ学問をするための清らかな場のように感じられるところが、非常に不思議である。

スウェーデンには日本からの直行便がないため、最も近道でもフィンランド経由で行くことしかできない。さらにウプサラへ行くにはストックホルム空港からストックホルム市街へ出るのとは反対方向の電車に乗らなければならず、北欧を周遊するような感じでこの街を訪れることはまずないのではないだろうか。

しかしながら、私がついていたスウェーデン人の教授が言っていた「ウプサラを見て死ね」という言葉は、今の私には深く理解できる気がする。日本で有名な欧州諸国とは明らかに異なった文化・歴史を持つ北欧諸国において、古くからその歴史の中心を担ってきた都市に、北欧最古の大学が建てられたのは当然のことである。

ウプサラ大学憲章に「To think freely is great, but to think rightly is greater(自由に考えることは素晴らしいが、正しく考えることはもっと素晴らしい)」とある。何事にも曲げられない凜(りん)とした秩序がこの街には残されており、それこそがアカデミアの聖地と言えるウプサラなのである。北欧を訪れる方は、ぜひスウェーデン滞在を1日延ばして足を運んでみることをお勧めする。

五十嵐圭日子(いがらし・きよひこ)
東京大学准教授、フィンランド技術研究センター(VTT)客員教授。東京大学農学部林産学科卒、同大大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻博士課程修了。2009年から同大学院農学生命科学研究科の准教授。バイオマスを分解する酵素の研究で、米科学誌「サイエンス」を含む100を超える論文の著者。2016年からVTTで客員教授も務める。