「日本人は曖昧すぎる」とあきれられる3つの英語
デイビッド・セイン「影の英語」(22)曖昧を避ける
ひとつの言葉は様々な顔を持っています。日本人の言葉が意図していない意味合いで伝わることもあります。日本人向けの英語教育で豊富な経験を持つデイビッド・セインさんが、日本人が使いがちな言葉から「影にある意味」を紹介します。今回は曖昧になりがちな返事をする場面です。
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控えめな日本人にとって、英語を話す場合の関門のひとつがいかに明確に自分の意見を述べるかということでしょう。「あれ、しましょう」「あれなんですけど」のように代名詞だけで話が伝わっていくハイコンテクスト・カルチャーの日本人が英語で外国人と接する場合はvague 「曖昧であること」を避けることが命題のひとつではないでしょうか。
*ハイコンテクスト・カルチャー:「コンテクスト」とは「言語」や「共通認識」あるいは「価値観」のこと。日本人であれば、総じて同じ認識や価値観を持っているため、言葉を連ねなくても、何となく分かり合えます。それがハイコンテクスト・カルチャーです。しかし、これは同じ言語や共通認識・価値観を土台にしていることが前提になります。
When do you think you'll be able to do it? これ、いつできると思いますか?
正直言って、今はかなり無理そうだなあ。そんな時、何て答えればいいでしょう。
正しい訳:今週のどこかでやります。
影の意味:今週って言ってもいつかは約束できないなあ。
sometime ではいつのことだか分かりません。その日の午後かもしれませんし、あるいは金曜日の終業時間前かもしれません。それでは頼んだ相手が困ってしまいます
正しい訳:多分今日できます。
影の意味:なるべくやりますけど(でも、多分は多分です)。
maybe「たぶん」の確率は、実は50%。「半々」ということです。「たぶん」で一番確率が高いのがprobably で70%程度です。
正しい訳:なるべく早くやります。
影の意味:すぐにはできないけど、なるべく早くやります。
いわゆる「なるはや」ですが、「直ちにやります」とはニュアンスが異なります。「上司にすぐ来るように」と言われて I'll be there as soon as possible. と言えば「コイツやる気ないのか」と思われるかもしれません。I'll be there right away. 「ただちにうかがいます」が正解。
これなら「影の意味」はない!
木曜日の4時にやります。
相手は「いつやってくれるのか?」を知りたいはずです。そしてそれによって自分の仕事の計画を立てているかもしれません。今はできない、という状況は必ずありますが、このように相手にきちんと日時や時間を告げることが大切です。
もし今日できなくても、明日の1時までにはやります。
相手は「今日」を期待しているかもしれません。今日はやれないかもしれないということをきちんと示唆し、出来る時間を告げています。これなら相手も安心するでしょう。
3時に差し迫った締め切りがあるので、その後すぐにやります。
相手の希望や要求に直ちに応えられないのは仕方がありません。あなたのスケジュールをとにかく伝えることです。
あなたが知らない本当の使い方―― vague の本当の使い方
・I'm sorry for being vague about the details. 詳細については明言を避けてすみません。
*be vague: 曖昧である、具体的に明言を避ける
・They have some vague concerns about our service. 私たちのサービスに対して、彼らは漠然とした懸念を持っています。
*vague concerns: 漠然とした懸念
・ABC agreed to compromise, but I still have a vague feeling of anxiety. ABC社は妥協案に応じてくれましたが、未だに漠然とした不安感があります。
* a vague feeling of anxiety: 漠然とした不安回
*compromise to agree: 妥協案に応じる、妥協することで合意する
・Try not to be so vague in your responses. 曖昧な態度をとらないようにしなさい。
* be vague in one's responses: 曖昧な態度を取る、曖昧でいる
・I'm vaguely familiar with the details of the plan. 計画の詳細は何となく聞いた覚えがあります。
*be vaguely familiar: 何となく馴染みがある、見覚え/聞き覚えがある
・I vaguely remember asking Nancy to submit the report. ナンシーに報告書を出すように言った記憶がなんとなくあります。
*vaguely remember: うっすらと覚えている、何となく記憶がある
*remember … ing: ~したことを覚えている/記憶がある
*remember to …: 忘れずに~をする
* … ing は「過去のこと」 to … は「これから(未来)のこと」 と覚えると覚えやすいでしょう。
It's nice to see you. 「お目にかかれて嬉しいです」初めての出会いで。
It's nice seeing you. 「お目にかかれたことを嬉しく思います」別れの場で。
・George sounded like he was being intentionally vague. ジョージは意図的に曖昧にしているように聞こえました。
*be intentionally vague: 意図的に曖昧にする
・ABC is still vague on the price, but I'll try to get a clear answer today. ABC社は価格について未だにハッキリしていませんが、今日明確な回答をもらうようにします。
*be vague on: ~に対して曖昧である、ハッキリしない
・I can see a scratch in the surface, but only vaguely. 表面に傷は見えますが、かすかです。
*but only vaguely: かすかに過ぎない
・I don't think we should remain vague on this issue any longer. この件に関してこれ以上曖昧なままでいるべきではないと思います。
*remain vague: いまだ曖昧なままでいる/漠然としている
アメリカ人ってストレートですよね、と時々言われます。きっとそういう印象があるのかもしれません。曖昧にすることを防ごうとするという意味では真実かもしれません。しかし、アメリカ人が正しいことだけをストレートに言うというのは間違っています。相手の気持ちも考えますし、場を読もうとするのも基本は同じです。ただなるべく相手の理解を得ようと努力はします。
特にビジネスでの曖昧さはなるべく避けたいものです。仕方がない場合もありますが、なるべく相手の問いに対しては、具体的な情報を入れて答えましょう。気をつけないと Why are you being so vague? 「なぜそんなに曖昧なの?」 とか Can't you be more specific? 「もっと具体的に言ってもらえますか?」などと言われることになるかもしれません
ちなみに、ハイコンテクスト・カルチャーの反対は、ローコンテクスト・カルチャー。アメリカ、ヨーロッパなどの多くの国では「共通言語」や「共通認識(価値観)」ではなく、明確な言葉を使ってコミュニケーションを図ろうとします。これがローコンテクスト・カルチャーです。「阿吽(あうん)の呼吸」だけでは通用しません。これからはますます外国人と触れ合う場面が多くなります。そのあたりは意識していきましょう。
Try and try again!
:D セイン
米国出身、20数年前に来日。 翻訳、通訳、執筆、英語学校経営など活動は多岐にわたる。企業や学校の人気セミナー講師。英語関連の出版物の企画・編集を手掛けるAtoZ(http://www.atozenglish.jp)・AtoZ 英語学校代表。