花見に合う日本ワイン7選 予算3000円で花蜜の香り
近年ますますおいしくなり、ブームも定着しつつある日本ワイン。日本ワインは国産のぶどうを100%使用し、日本で醸造したワインのことで、輸入した果汁で造ったワインも含む「国産ワイン」と明確に区別するために名付けられた。「日本ワイン」の名称が広がるのと同時に、品質もどんどん向上している。
お花見シーズンのお供には、和食にも合わせやすく和の風情たっぷりの日本ワインを選ぶのが粋だ。グラスにこだわるのが難しい外飲みの場では、気軽に楽しめることも重要。今回は3000円以下の、コストパフォーマンスに優れたおいしい日本ワインを7種厳選して紹介する。
京都発、風味たっぷりの微発泡にごりワイン
和食に合うワインづくりを追求し、京都の料亭からもラブコールが多いという丹波ワインは、みやびなひとときを彩るにはぴったりのワインだ。発酵途中のワインをそのまま生詰めした微発泡にごりワイン「てぐみ」は、酸化防止剤をいっさい使用せず無ろ過のため外観はにごっているが、このにごりが独特の風味と旨味(うまみ)を生みだすのだ。クラフトビールのようなニュアンスもあり、難しいことなしにビール感覚でぐいぐいいける。ワインをふだん飲まない方にもおすすめだ。ビール同様、振ると吹きだす可能性があるので、できるだけ振動をくわえず、しっかり冷やして飲みたい。
ラベルのデザインは、発酵中のタンクで湧きあがる泡模様、グラスに注いだときに弾ける細やかな泡をイメージしたもの。キャップシールがわりの和紙に描かれた柄杓(ひしゃく)の模様は、1本1本手作業で瓶詰していた「手汲み(てぐみ)」の証。日本ならではの、はんなりしたワインは、花見の風情をさらに引き立ててくれるだろう。白、ロゼの2種類があり、「白は野菜の煮ものに、特にロゼはタケノコや根菜と合います」と営業担当の方が教えてくれたが、和食系の花見のつまみなら何でも合うに違いない。「とりあえずビール!」ではなく「とりあえず日本のスパークリングワイン!」なんて、思わず参加したくなる宴(うたげ)だ。
販売元:丹波ワイン TEL0771-82-2002
希望小売価格:1500円(税抜き)
公式オンラインショップ[注2] http://www.tambawine.com/
輸入元:同上
希望小売価格:1500円(税抜き)
130年続く老舗ワイナリーのクラシックな味わい
ワインというこじゃれた呼び名より、昔ながらの「葡萄酒」という言葉が似合う。栃木県の一大観光地、那須塩原にある那須ワインは、知る人ぞ知る老舗ワイナリー。歴史は約130年前、明治初期までさかのぼる。4代目当主の渡辺嘉也(わたなべ・よしなり)さんはボルドーの有名シャトーで修行をつんだ辣腕醸造家。帰国後、現地で得た技術を那須塩原の地に応用し、「これが日本のワイン?」と驚くような高品質なワインをつくっている。
「NASU WINE」とアルファベット表記のモダンシリーズもプロデュースする一方、今回花見ワインとして紹介したいのは、初代から受け継いだクラシックシリーズ。右から文字を読むと「純粋生葡萄酒」と書かれた昔ながらのラベルには、桜の紋章がついている。ナイアガラ種という食用ぶどうから造られたワインは、花蜜のような甘い香り。香りの甘さに反して味わいはすっきりとした辛口だが、凝縮した果実味が口いっぱいに広がる。余韻に感じる塩気が食欲をそそり、ついついつまみに手が伸びてしまうこと請けあいだ。130年前、日本で「ワイン」が普及するずっと前にも、こうして「葡萄酒」を飲みながら桜を見たのだろうか。忘れかけていた古き良き日本を思い出させてくれる1本だ。
販売元:NASU WINE 渡辺葡萄園醸造 TEL0287-62-0548
希望小売価格:1850円(税抜き)
ワインの「一番搾り」桜色が魅力の甲州ワイン
グラスに注いだ瞬間、白ともロゼともいえぬはかなく美しい色合いに心奪われた。五味葡萄酒の「ペントピア 甲州 桜花 2016」は、まさに桜の花びらを思わせるワイン。スモモやかんきつの爽やかな香りと、りんとした味わいが心地よく、するすると身体にしみ込んでいく澄んだ味わいだ。
山梨県甲州市にある五味葡萄酒は、家族経営のワイナリー。ホームページもなく都内でも販売ルートが限られているため知名度は低いが、日本ワインコンクールでも多数の賞を獲得している実力派である。山梨で長年ワイン造りに携わり業界での信頼も厚い近藤修通(こんどう・のぶゆき)さんを2015年から栽培・醸造責任者に迎え、これからの進化がますます楽しみなワイナリーでもある。
ソメイヨシノをイメージしたという淡い桜色は、日本固有のぶどう品種、甲州種の皮を果汁に漬け込むことで、引きだしている。ただし、ワインは酸素にふれてどんどん変化していくもの。熟成したワインが茶色になっていくように、この桜色も失われてしまうのでは、と疑問をぶつけると、「キレイな桜色が保てる期間内に飲んでいただける生産量にします」と近藤さん。目指すのは、雑味のないクリアな香味。そのため醸造にはフリーランジュース(ブドウの実の果皮が破けたときに自然に流れ出る果汁)のみを使用し、酸素にできるだけ触れさせず、酸化防止剤も最小限にとどめているという。2016年が初リリースで、少量生産。桜に映える時期、ワインの桜色が一番きれいなときに飲みたい「桜花」は、諸行無常を愛する日本の美意識がこめられた1本だ。
販売元:五味葡萄酒株式会社 TEL0553-33-3058
希望小売価格:2200円(税抜き)
甲州市勝沼ぶどうの丘オンラインショップ http://budounooka.com/shop/
人気ワイナリーの季節限定「さくらろぜ」
日本ワインはここ十数年ほどで飛躍的においしくなったといわれるが、そのパイオニアの一つが、栃木県足利市にあるココ・ファーム・ワイナリーだ。日本ワインをふだん飲まなくても、ここのワインは知っている、という人は多いのではないか。毎年11月に開催される収穫祭は、朝から大勢の人でにぎわっている。もともと知的障がい者支援施設「こころみ学園」の前身となったぶどう畑の開墾からスタート。1980年代、米国人醸造家ブルース・ガットラヴ氏が加わったことにより、「世界に通じるワイン」をめざして本格的なワイン造りが始まった。農作業を通してたくましく育ってほしい、という社会的使命だけでなく、品質にも妥協を許さず徹底した本物志向を貫き、九州沖縄サミット(2000年)、北海道洞爺湖サミット(2008年)の食事会に採用されるほどのトップワイナリーに成長した。
どのワインを飲んでも安定しておいしいのだが、この時期飲むなら季節限定ラベルの「さくらろぜ」をおすすめしたい。さくらんぼやイチゴのような赤い果実に、甘いキャンディー香がふわりと香る。チャーミングでありながら多彩な表情を持つロゼは、赤でも白でもない「ロゼ」ワインとしての魅力を放っている。
販売元:ココ・ファーム・ワイナリー TEL0284-42-1194
希望小売価格:1700円(税込み)
公式オンラインショップ http://cocowineshop.com/
女性醸造家がつくる本格派ロゼワイン
もう1本、こだわりのロゼを紹介したい。「グレイスワイン」の名で知られる中央葡萄酒といえば、甲州種を世界に広めた立役者。世界最大のワインコンクール「デカンタ・ワールド・ワイン・アワード」でも名誉ある賞を何度も受賞している。5代目、三沢彩奈さんはボルドー大学卒業後、世界各地でワイン修行をつみ、いまや日本を代表する女性醸造家となった。
彩奈さんが手がけるロゼワインは、中途半端なロゼとは一線を画している。留学先のボルドーでは、特に暑い時期にテラスでよくロゼを飲んでいたことから「日本でも複雑な味わいのロゼを」と思い、2008年より造り始めたのがグレイスのロゼだ。ぶどうが育つのは、日照時間が日本一、ひまわり畑で有名な山梨県明野町の自社農園。だが2016年は秋口の長雨でぶどうの色づきが悪く、苦労を強いられた年だった。できあがった2016年のロゼワインは、逆境をバネにストイックにぶどうと向き合った彩奈さんの魂がこもったワイン。旧樽(きゅうだる)で発酵、貯蔵しているため、すっきり爽やかだけでは終わらないのが特徴で、きりっと冷やせば白ワインのように、温度が上がるにつれ赤ワインのようにタンニンやスパイシーさが楽しめる万能なロゼだ。花見のおともに1本持っていけば、重宝すること間違いない。
販売:中央葡萄酒株式会社 TEL0553-44-1230
希望小売価格:2700円(税込み)
公式オンラインショップ https://www.grace-wine.com/shop/
今が飲みごろ、するする飲める微発泡自然派赤ワイン
徐々に暖かくなり泡・白・ロゼが抜群においしく感じる季節だが、宴が進めば、やはり赤ワインが飲みたくなるもの。かといって、きちんとしたグラスでゆっくり楽しみたい高級ワインは、花見の外飲みには向かない。花見シーンにぴったりなのが、山形県で二番目に古い歴史をもつタケダワイナリーの「サン・スフル赤」。『日本人なら知っておきたい 日本ワイン厳選3本』でも紹介した「ドメイヌ・タケダ ベリーA古木 樽熟成」がいいグラスでじっくり味わいたいワインだとしたら、こちらはコップでカジュアルにも楽しめるワイン。発酵途中で瓶詰めを行い、微発泡のため王冠を使用しているところも、抜栓しやすく外のみに最適。
「2013ヴィンテージはちょうどこなれてきて、いまちょうど飲みごろ」とタケダワイナリー専務の岸平和寛(きしだいら・かずひろ)さんがいうように、リリース直後に飲んだときよりも、まろやかで、格段に旨味がのっている。酸化防止剤の亜硫酸を使用しない「サンスフル」、さらに無ろ過という自然なつくりのため、ワインはデリケート。おいしく飲むには冷暗所で保管することをおすすめする。ワインはほのかに濁り、ボトルの底には澱(おり)があるが、旨味成分だと思って安心してほしい。日本固有のぶどう品種、マスカット・ベリーAの特徴でもあるキャンディー香は控えめで、ぶどう本来の力強さと凝縮感が存分に楽しめる1本。花見のつまみの定番、焼き鳥などはもちろん、やや土っぽさを感じるので、根菜を使った料理とも相性がいい。舌の肥えた知人にラベルを隠して飲んでもらい、値段を当ててもらったところ、「これで4000円位だったらうれしい」と回答、正解をいうと仰天していた。一度飲めば、自宅用に買い足したくなるだろう。2013年ものが無くなる前に筆者も数本買い足したい。
販売:有限会社タケダワイナリー TEL023-672-0040
希望小売価格:1800円(税抜き)
公式オンラインショップ http://www.takeda-wine.jp/
希少品種から造られた思わず笑顔になる甘口ワイン
最後に、大人数の席で魅力を発揮する、とっておきの日本ワインを紹介したい。「香りが華やかで、暖かくなる春の時期におすすめです」と奥野田ワイナリーマダムの中村亜貴子さんがすすめてくれたのは、甘口のロゼ「ラ・フロレット・ローズ・ロゼ」。女性らしく優しい雰囲気のバラのラベルは、ワインの外観、香り、味わいからイメージを膨らませ、マダム自ら描いたもの。このワインを飲んで、おいしいと言わない人はいないだろう。ワインに使われるミルズという黒ぶどう品種は、山梨県でも栽培面積が少ない希少な品種。一度嗅いだら忘れられないライチや白桃のような華やかな香り、とろりとした舌触り。ぶどう本来の甘みとリッチな味わいが魅力の1本だ。マダムおすすめのマリアージュは、「お重のなかにある甘辛い食べ物。とくに塩気のあるゴルゴンゾーラチーズなどとは絶妙の相性です」。甘口ワインはデザートに合わせるのが鉄板だが、あえて塩気のある食事と合わせると、違った楽しみ方ができるそう。「2人で1本というよりは、複数人でのお花見のときなど、多種多様なワインのなかの1本として楽しんで頂くと、より個性的なキャラクターが生きる」とたのしみ方を教えてくれた。だれしもを笑顔にするワイン、お花見のおともにぜひ加えたい。
販売:奥野田葡萄酒醸造(株) TEL0553-33-9988
価格:1800円(税抜き)
公式オンラインショップ http://okunota.jp/
なお、日本ワインは生産量が少ないものが多い。公式オンラインショップで在庫がない場合もある。今回紹介したワインの多くは、日本ワインに力を入れている千葉市のワインショップいまでやのサイト「IMADAY」で手に入る。
(ライター 水上彩)
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