格安SIM首位に楽天モバイル 長所と欠点を探る
2016年9月末時点で600社以上もの通信会社から提供されている格安SIMでは、もともと通信サービスを提供してきたインターネットプロバイダーだけでなく、流通や不動産といった異業種からの参入も多い。
なかでも近年、急成長しているのが、ネット通販大手の楽天が提供する格安SIMサービス「楽天モバイル」だ。2016年10月にMMD研究所が発表した調査結果によると、楽天モバイルは「メインで利用されている格安SIM」で1位を獲得。2014年10月のサービス開始から2年で、格安SIM市場のトップに躍り出る成長ぶりを見せている。
楽天モバイルは「格安スマホの品ぞろえ」「リアル店舗」「楽天スーパーポイント」の3つに力を入れている。特に、大手携帯電話会社からの乗り換え需要を見越し、スタッフと相談しながら契約を進めたり、スマホの使い勝手を実際に確かめたりできる楽天モバイルショップの展開を全国で進めており、2017年3月末までに150店舗の開設を目指している。これらの施策が功を奏したのだろう。
そこで今回は、格安SIM市場で人気1位の楽天モバイルの長所と欠点を、ライバルの通信会社と比べながら探っていきたい。
初心者向けの料金プランもある
2017年3月時点で、楽天モバイルでは通信容量が月3.1GBまでの標準的なプラン(音声通話SIMの月額料金1600円)をはじめ、月30GBまでの大容量プラン(同6150円)、通信速度は低速ながら毎月使い放題のプラン(同1250円)など、合計6種類の料金プランを提供している。どのプランも、前月に余った通信容量を最大5回線で共有する「データシェア」オプション(月額100円/1回線)が利用できる。
このうち、音声通話に対応するSIMでは、各通話最初の5分間が無料で通話できる「楽天でんわ5分かけ放題 by 楽天モバイル」(月額850円)をオプション契約できる。5分を超えた分の通話料金も、通常の半額となる30秒当たり10円になる。
また、楽天モバイルでは、好きな通信会社で使える「SIMフリースマホ」と楽天モバイルの格安SIMをセットにした「格安スマホ」も販売しており、一部の格安スマホでは、スマホの端末代と5分かけ放題オプションがセットになった専用プラン「コミコミプラン」を契約できる。コミコミプランはスマホの機種や毎月の予算から選ぶだけで手軽に格安スマホをスタートできる、シンプルさが特徴の初心者向けプランとなっている。
楽天スーパーポイントが利用できるのも楽天モバイルならではの特徴だ。楽天モバイルを使うことで100円当たり1ポイントがたまるほかに、楽天モバイルの月額料金や格安スマホの本体・オプション品購入時に、楽天スーパーポイントを使って支払うこともできる。楽天モバイルの音声通話SIMを契約していると、楽天市場利用時のポイントが常に2倍になる特典もある。
どんな端末を買えるのか?
前述のように、楽天モバイルではSIMフリースマホと格安SIMをセットにした格安スマホを扱っている。2017年2月時点では13機種のスマホが販売されており、この他にもケータイ1機種、タブレット5機種なども取り扱っている。
代表的な機種は、格安スマホとしては楽天モバイルが独占販売するファーウェイの「Mate 9」(一括販売価格6万800円)や「honor 8」(同4万2800円)だ。どちらも2つの背面カメラを搭載する写真撮影に強いスマホで、Mate 9は処理性能が優れている一方、honor 8はコストを抑えた機種になっている。
また、大手携帯電話会社のスマホではおなじみのおサイフケータイや防水防じんといった機能を持つシャープの「AQUOS SH-M04」(同2万9800円)や、耐衝撃性能も備えた富士通の「arrows M03」(同3万2800円)も販売している。
なお、基本料金・通話定額オプションの料金・スマホの端末代がすべてセットになった「コミコミプラン」でも、honor 8・AQUOS SH-M04・arrows M03が購入できる。honor 8は月額料金3480円(1年目。2年目は4480円)の「コミコミプランLL」で購入可能。AQUOS SH-M04は月額料金2480円(同3480円)の「コミコミプランM」、arrows M03は月額料金2980円(同3980円)の「コミコミプランL」を選べる。
IIJmioにない20GB、30GBのプランを用意
それでは、家族でまるごと乗り換える場合、楽天モバイルは他の格安SIMよりもお得だろうか。格安SIMのライバルであるIIJのIIJmioモバイルサービス(以下「IIJmio」)と比較してみよう。
楽天モバイルでは通信容量に上限がある月3.1GBから月30GBまでの5つのプランと低速使い放題のプランの、合計6種類の料金プランが提供されている。家族の間で余った通信容量を共有できるデータシェアも、1回線当たり月額100円で利用可能だ。
一方のIIJmioでは、楽天モバイル同様NTTドコモのネットワークを使う「タイプD」に加え、auのネットワークを使う「タイプA」のSIMも提供している。音声通話SIMの通信容量・月額料金はタイプD・タイプAともに共通で、月3GBまで(月額料金1600円)・月6GBまで(同2220円)・月10GBまで(同3260円)の3種類だ。
IIJmioには楽天モバイルのデータシェアに相当するオプションはないが、月3GBまで・月6GBまでのプランでは最大2枚、月10GBまでのプランでは最大10枚(音声通話SIMは5枚まで)のSIMで当月の通信容量を共有できる。SIM枚数が多い月10GBまでのプランは、家族での乗り換えに向いている。
下の表に、楽天モバイルとIIJmioの音声通話SIMについて、通信容量ごとの月額料金をまとめた。
家族間の通話が安いIIJmio
楽天モバイルとIIJmioは、どちらも通話定額オプションを提供している。楽天モバイルの通話定額オプションは、前述のように各通話最初の5分間が無料になる。5分を超えた分の通話料は30秒当たり10円だ。
一方のIIJmioでは、無料対象の時間別に2種類の通話定額オプションが提供されており、月額料金は各通話最初の3分間(家族同士なら10分間)が無料の場合は600円、各通話最初の5分間(家族同士なら30分間)が無料の場合は830円となっている。また、無料の時間を超えた分の通話料は30秒当たり10円だが、家族同士なら30秒当たり8円で通話できる。家族間の通話料が大幅に安くなるのが、IIJmioの通話定額オプションの大きな特徴だ。
格安スマホ専用の料金プランもある
前述のように、楽天モバイルでは基本料金・スマホの端末代・通話定額オプション料金をすべてセットにしたシンプルな料金プラン「コミコミプラン」を提供している。
一方のIIJmioでは、タイプAに対応する格安スマホ専用の料金プランとして、使った通信量に応じて月額料金が割り引かれる「エコプラン」を提供している。ただし、スマホの端末代や通話定額オプションはセットになっておらず、別途料金が掛かる。
エコプランの通信容量は月3GBまで(音声通話SIMの月額料金1200円~1600円)と月7GBまで(同1200円~2400円)の2種類だ。通信容量が余った場合、0.5GBごとに100円ずつ月額料金が割り引かれる(月3GBまでのプランでは最大2GB分、月7GBまでのプランでは最大6GB分まで)。最低料金はどちらも1200円となる。
購入できるスマホ端末が多い楽天モバイル
楽天モバイルはファーウェイの「Mate 9」や富士通の「arrows M03」をはじめ、2017年2月時点で合計13機種のスマホを選べる。高性能なハイエンド機種からスタンダードで購入しやすいエントリー機種まで幅広くそろえている。
一方のIIJmioでは、ASUS(エイスーステック・コンピューター)の人気シリーズ「ZenFone 3」をはじめ、楽天モバイルでも取り扱いのあるarrows M03やAQUOS SH-M04など、合計10機種のスマホや1機種のケータイなどを販売している。際立って性能の高いスマホは販売しておらず、価格が比較的安くコストパフォーマンスの良い機種を集中して取りそろえている。
楽天とIIJの違い、強みと弱みは?
楽天モバイルのIIJmioに対するメリットのひとつは、月20GBまで・月30GBまでの大容量プランが選べるところだ。
近年は若者を中心に、スマホで動画を視聴する時間が長くなる傾向にある。さらに最近では定額制の動画・音楽配信サービスも広がりを見せている。通信量が多い家族がいる場合、大容量プランという選択肢が用意されている楽天モバイルは心強い。
格安スマホのラインアップが幅広いことも、楽天モバイルの特徴だ。性能が高いMate 9をはじめ、おサイフケータイや防水に対応するシャープや富士通のSIMフリースマホも取り扱う。IIJmioも多くのスマホをラインナップするものの、高性能な機種には乏しい。
また、楽天モバイルには格安スマホ向けのシンプルな専用プラン「コミコミプラン」がある。選べるスマホはやや制限されるが、カメラ機能に優れたhonor 8をはじめとした9機種から選べる。基本料金・スマホの端末代・通話定額オプションの料金があらかじめセットになっているので、毎月支払う通信費を把握しやすいのもメリットだ。
一方、楽天モバイルにはIIJmioに比べて弱い点もある。
まず、通話定額オプションはIIJmioのほうが柔軟だ。楽天モバイルでは5分間の通話定額オプションを月額850円で提供しているが、IIJmioでは5分間の通話定額オプションを楽天モバイルよりも20円安い月額830円で契約できる。楽天モバイルにはない3分間の通話定額オプションも、IIJmioには月額600円で用意されている。
また、家族同士で通話する場合、IIJmioの通話定額オプションでは無料時間が拡大する。5分間のオプションでは家族同士なら30分間、3分間のオプションでも10分間まで無料で通話できるのだ。さらに、無料時間を超えた分の通話料も、家族なら30秒当たり2円安い8円になる。こうした家族間通話の割引が提供されていない点は、楽天モバイルのデメリットと言える。
通信量が少なかった月の月額料金が安くなる「エコプラン」の存在も、楽天モバイルにはないIIJmioならではの特徴だ。auのネットワークを利用するタイプAかつ、格安スマホ専用のプランではあるが、月3GBまでのプランで通信量が1GB未満だった場合、月額料金は400円安い1200円で済む。
「家族での利用」という視点で評価すると、楽天モバイルは音楽・動画の視聴で通信量が多くなりがちな家族に強い一方、通話が多い家族には弱いといえる。
また、楽天市場のオンラインショッピングをよく利用する家庭にも、楽天スーパーポイントと連携する楽天モバイルはおすすめだ。ショッピングでたまったポイントを使って楽天モバイルの料金を支払ったり、楽天モバイルを利用することでポイントをためたりできる。
格安スマホや格安SIMが難しそうに思って乗り換えに踏み切れないでいる家庭には、楽天モバイルのコミコミプランをおすすめしたい。大手携帯電話会社のように、通話定額オプションやスマホの端末代まで含めた毎月のコストが最初から明示されているので、気に入った機種や毎月の予算からプランを選びやすい。
一方、あまり通信を利用しないライトユーザーが多い家庭は、通信量が少ない月は月額料金が割り引かれるIIJmioのエコプランや、より少ない通信容量の料金プランを選べる他社の格安SIMを選ぶといい。特にIIJmioでは家族同士の通話料金が大幅に安くなるので、音声通話を重視する家族にはIIJmioがおすすめだ。
(ライター 松村武宏)
[日経トレンディネット 2017年3月1日付の記事を再構成]
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