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一生懸命すぎるあなたへ「頑張らない努力」の方法

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2017/3/15

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 アメリカで注目が集まっている「ハピネス研究」。これは「働く人の精神がどう仕事に影響するか」についての研究で、実践の場でも取り入れられています。翻訳・通訳者の相磯展子が、「ハピネス研究」をはじめとする海外の仕事観を紹介していきます。

 最近仕事について考えるとますます「Less is More」という言葉が浮かんできます。文脈によって意味も変わってきますが、ここでは「少ない方が多くが得られる」「ほどほどがベスト」といったニュアンスということにしておきましょう。

 しかし、この「ほどほど」というのがなかなか難しい。たくさんの仕事をこなさなくてはいけない環境でこれはかなり難しい。あ、2回繰り返してしまいました…。

 まじめな人であるほど、この「ほどほど」ができないような気がします。

 朝一番に携帯のメールを確認し、お昼はパソコン画面をのぞき込みながらご飯を口に運び、夜遅くまで働き、そしてまた寝る直前に「念のため」仕事のメールをチェックする。そして、それだけやってもいっこうに終わりが見えない。

 しまいには「なんでこんなにやってるのに終わらないんだろう。ひょっとすると私って仕事ができないのかしら、努力が足りないのかしら……」と自分を責める。そうすると、同じ仕事量のはずなのに悠然としている同僚たちがなんだかうらめしくなってくるのです。

 自分がなぜダメなのか問題点を洗い出し、頭の中で考える。きりがないので以降省略。とにかく、なんとも疲れるサイクルなのです。

 今回はそんな一生懸命すぎる人たちに「息抜きのススメ」なるものをしたいと思います。

■「頑張らない努力」について考えてみる

 いつからでしょうか、気づくと「努力」「労苦」は大人が勲章のように身に付け、高々と誇示するようなものだと思うようになっていました。

 テレビでは金メダリストの栄光が血のにじむ努力の賜物として描かれています。ドラマでもそうです。よくおせっかいおじさんが「こいつぁ、こう見えてもかなりの苦労人なんだよ~」みたいなことを言って若造が周囲の同情を買う。こんなのを繰り返し見ているとなんだか努力がすべての特効薬のように思えてくる。しまいには、「努力」「苦労」していないと後ろめたささえ感じてしまうのです。

 おかげでなんだか大変な方へ、大変な方へと自分を追い込むのがくせになってしまいました。

 頑張らなくてはいけないのが不可抗力だとしたら、どうせなら力の抜き方を教えてもらいたかったと、今となってはぼやきたくなります。

 がむしゃらに頑張ることには代償がある――猛烈に働いたおじさんがある年になると病気であっけなくあの世行きという話はたまに耳にします。

 もちろん、そんな生き方を選びたい人はそれでいいのですが、私はどうせならキャリアを長続きさせたい。しかも、仕事から充実感を得たい。そして、馬力もそうないので限られた体力、気力でなんとかそれを成し遂げたい。

 体はそんなに強くないような気がします。睡眠一つとってもそうです。

■6時間以下の睡眠でバーンアウトまっしぐら

 睡眠不足がパフォーマンスの低下や燃え尽き症候群につながることは、科学の領域でも以前から指摘されてきたことです。

 なんと6時間以下の睡眠で人はバーンアウトしてしまいます。

[引用] 昨年[2012年]発表された400人近い従業員を対象とした研究では、少なすぎる睡眠――この研究においては6時間以下の睡眠――が、仕事での燃え尽きの最大の兆候であることが分かった。(*1)

[引用] スタンフォード大学の研究者シェリー=D=マーは、バスケットボール選手に10時間の睡眠を取らせたところ、練習でのパフォーマンスが格段に向上した。フリースローやスリーポイントシュートの命中率は平均で9%上がった。(*1)

 あなたはどれくらい良質な睡眠が確保できていますか? 6時間以下の人は、日ごろから低パフォーマンスで仕事をし続けていることを認識しましょう。「私は仕事ができないのかしら……」とモヤモヤし始める前に体を回復させることをすべきです。

 たいてい疲れている時に考えることは、元気な状態からすればどうしようもないものが多いのです。これは本来の自分ではないと思ってやり過ごしましょう。

 人間の集中力は有限です。高い集中力を維持できるのは一日のうちたった4時間ほど。

 え? ということは8時間労働でも4時間は本調子じゃないってこと?

 そう、そうなんです。

■そんなにやっても無駄? 集中力があるのはたった4時間

[引用] フロリダ州立大学のK=アンダース・エリクソン教授らは、ミュージシャン、アスリート、俳優、チェスプレーヤーなどを含むエリートパフォーマーを対象に研究を行った。そこでエリクソン博士は各分野の最も優れたパフォーマーはたいてい90分に満たない休憩なしのインターバルで練習をしていることが分かった。彼らは朝から練習を始め、インターバルの間は休憩を取り、練習は4時間半を超えることはほとんどない。(*1)

 こうしたパフォーマーの特徴は疲れ切ってしまう前に仕事を切り上げること。こうすることによって、高い集中力を持続できるのです。

[引用] エリクソン博士はこう結論付けた。「長期的な活動から最大限の効果を得るためには、極度な疲労は避け、活動量は一日、一週間単位で完全に回復できる量にとどめなくてはいけない。」(*1)

 そうなんです。一日単位、一週間単位で回復できる程度の仕事量にとどめておかないとどんどんパフォーマンスが低下していく。つまり、だんだん普通にできていたことが同じ効率の良さでできなくなっていく。

 結果「なんでこんなに仕事が進まないんだろう……」「こんな膨大な仕事処理しきれない……」という、頭の中で悲鳴をあげる自分にムチを打ち、苦し紛れに仕事をする時間がそれだけ多くなるということ。

 そんなこと言っても目の前には大量の仕事が波のように迫ってきます。クライアントにも上司にも同僚にも迷惑をかけるわけにはいかない。信頼を失ってはいけない。そうやって追い詰められれば追い詰められるほど、私たちはますますアクセルを踏み込み、空回りするタイヤで前に進もうとするのです。

■「無理」と思ったら家族や友達に助けてもらおう

 しかし、こんな状況で必要なのは忍耐力でも体力でも我慢でもなく、「大丈夫」と思っていったん「諦める」こと。

 膨大な仕事を前にしてお尻に火が付いた自分を落ち着かせ、仕事を早々に切り上げる思いきりが重要なのです。

 つまるところ、必要なのは切り替え力。疲れたら心も体もお休み。なんとも単純なことですが、これがなかなかできない。できない理由は「こわい」から。

 でも周囲からしてみれば、結果が同じであれば、徹夜しようが4時間で仕上げようが関係ないんです。どうせ同じ作業をやるならいい状態でやりたくありませんか?

 しかし、途中で諦めるなんて、余裕のない心にはけっこう難しいんです。本当のところ不安に押し潰されるくらいなら、無理してでも長時間仕事をした方がラク。

 息抜きがどうしても難しいなら、家族や友人に力を借りてください。そこは頑張らなくてよろしい。

 帰る時間になったらメールしてもらうとか、「ああ! もっとやらねばー」と焦った時に電話してみるとか、要領がいい先輩にアドバイスをもらうとかそんなことです。

 頑張りグセも何年もかけて築き上げたとしたら、それを息抜きグセに変えるのも時間がかかる。活用できるサポートは大いに活用してください。求めれば、みんな案外助けてくれます。

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■自分のこと甘やかしてますか?

 こう聞かれてポカンとしたことがあります。自分はもう既に甘ったれているからそんなことをしたら大変だと思い続けてきたからです。

 仕事をうまくこなしている人はおそらく自分を甘やかすのも上手なはず。ちゃんとガス抜きができているから仕事にも精一杯打ち込める。

 持続的に働き続けるためにはオフの部分をつくったり、やりたくないことは極力やらなくていい状況をつくることが重要です。もう限界だと感じている人はぜひともベクトルを逆にがんばってみてほしい。

 また追い詰められている人に限って自分の中のコンパスがバカになっています。「マスト」を自分に押し付けている。「いい社員」「いい同僚」「いい部下」「いい友達」そして時間を遡ってみると「いい子」でい続けるために、自分と他人の境界線が曖昧になっているのかもしれません。

 自分の欲求を差し押さえて他人の欲求を満たさなくてはいけないのだからこれは当然疲れるし、長続きしない。

 以前性カウンセラーの劒持奈央(けんもつ・なお)さんが1年半家事放棄した話を読んで、ものすごく納得したのを覚えています。

[引用] 私はやりたくないことを徹底的にやめていく、という作業をしました。ちょっとでも嫌だと思うことはいっさいやらない。後編で詳しくお話しますが、1年半家事放棄をしたこともあります。(*2)

 サラッと書いてありますが、これをするには相当な意志力が必要なんじゃないかと思いました。こんなことは普通周囲が気になってできない。

 しかし、自分の中の境界線をはっきりさせておくことは仕事との付き合い方、人との付き合い方の成長につながるようです。劒持さんはやりたくないことをやめた結果こう言っています。

[引用] そしたら、やりたくないことを意外とたくさんやっていたことに気付いたんですね。 (*2)

 やりたくないことをたくさんやっていたら当然疲れるし、自分の状態を維持できないですよね。

■あなたこそ、息抜きする「努力」を

 努力ありきの人がここまでやるのは相当な抵抗があるはずですが、結果的に自分の中の境界線をはっきりさせない限り努力の結果も出てこない。周囲は満足しても、自分は満足できない。そして自分と相手の欲求が一緒くたになっている限りうまく関係も築けない。

 そう考えると忙しくて悲鳴を上げているあなた、疲れてくたくたのあなたこそ息抜き上手への「努力」をすべきなのです。それは自分にも周囲にもいいことのはず。

 必要なのはちょっとした勇気と自分への愛情。

(*1) ニューヨークタイムズ「Relax! You’ll Be More Productive」

(*2) 日経ウーマンオンライン「草食男子、セックスレス…日本人のセックス離れ。健全に“性”と向き合うために大切なこと」

相磯展子(あいそ のぶこ)
 翻訳・通訳者。アート専門の翻訳、通訳、プロジェクトの企画運営などを行うArt Translators Collective副代表。ネイティブレベルの英語力を生かし、書き手・話者の視点に寄り添う翻訳・通訳に定評がある。美術館、財団、雑誌などの出版物の翻訳、ウェブメディア記事の翻訳・執筆のほか、イベントやシンポジウム等の通訳や海外とのコレスポンデンスなども行う。

[nikkei WOMAN Online 2017年2月21日付記事を再構成]

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