タイガーマスクW、オカダとの激闘で「正体」が覚醒

3月6日、東京・大田区総合体育館で開かれた新日本プロレスリング創立45周年「旗揚げ記念日」大会。アントニオ猪木、藤波辰爾ら少数のメンバーで1972年に産声を上げた老舗プロレス団体のメインイベントを飾ったのは、不動のエース「レインメーカー」ことオカダ・カズチカと、テレビの人気アニメから飛び出したタイガーマスクWの一戦だった。オカダとの闘いにタイガーマスクWのプロレスラーとしての「本能」が目を覚まし、30分に迫る激闘に会場に詰め掛けた約4000人の観客が酔いしれた。
テレビ朝日系列で放送中の「タイガーマスクW」(一部地域を除いて毎週土曜深夜2時30分から)には、オカダ、棚橋弘至ら新日本プロレスの現役レスラーが登場するほか、新日本プロレスのテレビ中継「ワールドプロレスリング」の直前に放送されるなど、アニメとリアルの連動が目玉だ。
昨年10月10日の東京・両国国技館大会でレッドデスマスクを相手に衝撃のデビューを飾ったタイガーマスクWは、今年1月4日の東京ドーム大会でタイガー・ザ・ダークと第2戦を闘った。もっとも試合順は両国が第0試合、東京ドームが第1試合であり、対戦相手もアニメのキャラクターとエキシビションマッチのような色彩が濃く、ファンの間からは試合数の増加やメインイベントに近いところでの闘いを望む声も聞かれた。
流れを変えたのは2月5日に北海道立総合体育センターで開かれた札幌大会だ。難敵、鈴木みのるを退けてIWGPヘビー級王座を防衛したオカダが「タイガーマスクWと闘いたい」とアピールしたのを受けて、旗揚げ記念大会でのシングルマッチが決まった。アニメではタッグマッチでの対戦にとどまっており、テレビを飛び出したドリームマッチの実現にファンの期待が高まった。
プロレスでは注目されるシングルマッチの前にタッグマッチを前哨戦として組み、ファンの期待を高めるのも重要な興行戦略の一つである。3月1日・後楽園ホール大会ではタイガーマスクWが4代目タイガーマスクとタッグを結成し、オカダ&外道組と対戦した。


2カ月ぶりに登場したタイガーマスクWのある「変化」をファンは見逃さなかった。立体的なつくりから闘いにくさを指摘されたマスクの鼻のあたりが改良され、オカダとの一戦に懸ける意気込みがうかがえた。さらに、インターネットの動画配信サービス「新日本プロレスワールド」では3年前の「旗揚げ記念日大会」でメインイベントを闘ったオカダの試合を放送し、ファンの関心をあおる心憎い演出もあった。
試合に入ろう。タイガーマスクWは4代目タイガーマスクをセコンドに連れて入場し、後からリングインしたオカダと激しくにらみ合った。

試合開始のゴングから間もなくオカダの攻めを受けて、タイガーマスクWの正体と目されるプロレスラーの「本能」にスイッチが入ったのだろうか。コーナーポストからのラ・ケブラーダなど得意の空中殺法を見せつつも、蹴りやパンチなど強烈な打撃技も披露。トップロープからの「雪崩式タイガードライバー」や、オカダの得意技「レインメーカー」を切り返したハイキックなども繰り出し、息詰まる両者の攻防に観客は固唾をのんで見守った。


試合は30分1本勝負。10分、20分と経過し、大半の観客が時間切れ引き分けを予想し始めた25分すぎ、タイガーマスクWのフライング・ボディー・アタックを捕まえたオカダが体勢を直して高角度のジャーマン・スープレックス・ホールドでダメージを与え、最後はレインメーカーを決めて勝利の雄叫びを上げた。27分3秒、プロレス史に残る激闘だった。


終了後、健闘をたたえて握手を求めたオカダに対し、タイガーマスクWは拒否。セコンドの肩を借りて引き上げ、マスクを手で覆い悔しさをあらわにするタイガーマスクWの姿が印象的だった。テレビアニメのヒーローというよりも、プロレスラーとしての本能がそうさせたのだろう。


オカダと互角の闘いを見せたタイガーマスクWだけに、今後の動向からますます目が離せなくなってきた。シリーズへの参戦、IWGPヘビー級王座を懸けたオカダとの闘い、人気絶頂の内藤哲也が保持するIWGPインターコンチネンタル王座への挑戦なども視野に入ってくるだろう。体格的には体重100キログラム未満のジュニア・ヘビー級に近いので、セコンドについた4代目タイガーマスクとのタッグでIWGPジュニアヘビー級タッグ王座に挑んでも面白そうだ。
佐山サトルが扮した初代タイガーマスクは新日本プロレスで活躍した2年余りの間に、シングルマッチではたった1回しか負けていない。それも最大のライバル、ダイナマイト・キッドとの対戦で反則負けになっただけである。
タイガーマスクWはシングルマッチ3試合目にして、3カウントでの初黒星を喫した。とはいえ、トップレスラー、オカダとの闘いで実力を証明しただけに、ファンに夢と希望を与えた敗戦といえるかもしれない。テレビアニメの枠にとどまらず、オカダら真のライバルとしのぎを削ってこそ光り輝くプロレスラーなのだろう。
(コンテンツ編集部 苅谷直政)
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