花見に行きたい城10選 名城から知られざる秘城まで
かみゆ歴史編集部 滝沢弘康
四季折々の美しい姿を見せてくれる日本の城。その中でも、日本の美を象徴する桜と、豪快かつ優美な城とのコラボレーションは格別だ。桜の植樹が積極的に行われ、花見の名所となっている城も数多い。今回は、誰もが知る天下の名城から知られざる秘城まで、お花見と城鑑賞の両方が楽しめる全国の城10カ所を厳選した。北上する桜前線にあわせて、九州の城から紹介しよう。
岡城(大分県竹田市)――九州を代表する「天空の城」の桜景色
岡城の鑑賞ポイントは、何と言っても山上に延々と連なる高石垣。「天空の城」といえば兵庫県の竹田城が一躍有名になったが、山上に浮かぶ石垣群という点では、岡城は九州を代表する「天空の城」だ。この城は歌曲「荒城の月」のモデルとなった城でもある。作曲家の滝廉太郎は、幼少期を城がある竹田で過ごしており、この城から曲のインスピレーションを受けたという。
壮大にして武骨な高石垣だが、桜が加わると印象が和らぐ。岡城の桜は、立すいの余地もなく咲き乱れるというような規模ではないが、まばらに咲くだけに石垣との組み合わせが妙で、どこか雅(みやび)な風情を醸し出す。これはどの城にもいえることだが、普段見る城と桜が咲いているときに見る城では印象が異なる。一度行ったことがある城でも、桜の季節に訪れると、また違った表情が楽しめるだろう。
イベント:岡城桜まつり(4月2日予定)
アクセス:JR豊後竹田駅から徒歩約20分、またはバス
能島城(愛媛県今治市)――「海賊の砦(とりで)」で味わう花の宴
能島城は、瀬戸内海に浮かぶ周囲720メートルの小島を丸ごと城砦(じょうさい)化した、海賊たちの居城だ。2013年に刊行されてベストセラーとなった和田竜の小説「村上海賊の娘」の舞台となった城でもある。海賊といっても城主である能島村上氏は戦国大名であり、瀬戸内海の海運を警備し、行き交う船から通行料を徴収することをなりわいとした。島内に建物は残らないが、本丸を中央に配した城の構造はわかりやすく、岩礁には船を留めるピット(柱穴)が無数に残されている。
江戸時代以降は無人島だった能島に、桜が植えられるようになったのは昭和以降のこと。植樹は近隣の島民の手で進められ、今では知る人ぞ知る桜の名勝地になった。現在、能島に渡る定期便はないが、例年4月上旬の土日にイベントが開催され、臨時便が運航される。現在まで無人島であったため城の遺構がよく残っているうえ、小説のヒット以降は整備も進められている。花見にあわせて、普段は行くことが難しい海城鑑賞というのも乙ではないだろうか。
イベント:能島の花見(4月1日、2日予定)
アクセス:今治市宮窪港より臨時便が運航(詳細はホームページ
松江城(松江市)――国宝になったばかりの天守を桜が彩る
「日本さくら名所100選」にも選出されている松江城。毎年3月下旬からは桜まつりが開催され、ぼんぼりやライトアップで照らされる夜桜が人気だ。
城としての最大の見どころは、黒い外観と大きな破風(屋根の飾り)が特徴的な天守だろう。日本に12しか存在しない現存天守のひとつで、2015年に国宝指定を受けたばかりである。この天守は徹底的に戦い抜くことを目的として築かれており、籠城のために天守内に井戸があり、侵入した敵を攻撃する狭間(鉄砲を撃つための穴)が用意されている。天守の構造を観察しながら、最上階まで昇ってみよう。
最上階の望楼からは、360度城下を見下ろすことができる。ライトアップで妖しく浮かぶ桜も見応えがある。
イベント:お城まつり(3月25日~4月14日予定)
アクセス:JR松江駅からレイクラインバスで「国宝松江城(大手前)」下車、徒歩約3分
津山城(岡山県津山市)――高石垣に押し寄せるピンクのさざ波
津山城跡は鶴山公園としても知られ、公園内の桜は高石垣のまわりを埋め尽くすように咲き誇る。本丸から望むと、まるでピンク色のさざ波が立っているかのようだ。さくらまつりの期間中はライトアップされ、コンロやテントの貸し出しなどもあり、夜遅くまで多くの宴席でにぎわっている。
津山城の石垣は、国内でも屈指の規模と高さがある。山の勾配にあわせて何重にも石垣が連なっており、かつては城内に60棟もの櫓(やぐら)が築かれ、山全体が要塞化されていた。櫓の数は姫路城や熊本城などをしのぐ全国トップクラスであったのだが、残念ながら明治の廃城令ですべて失われてしまった。2005年に備中櫓が木造再建され、景観にアクセントを加えている。
イベント:津山さくらまつり(武者行列)(4月1日~15日予定)
アクセス:JR津山駅から徒歩約10分
姫路城(兵庫県姫路市)――桜の回廊を巡り、世界遺産の城をめでる
日本を代表する城であり、世界遺産にも指定されている姫路城。その白く優雅な姿から「白鷺(しらさぎ)城」の異名を持つ。平成の大修理後は「白すぎ城」として話題になったが、大天守の瓦を接着するために白しっくいが徐々に黒ずみ、遠目に見ると「薄めのグレー」という印象になってきた。姫路城というと大天守ばかりが注目されるが、見ていただきたいのは縄張り(城の構造)の複雑さだ。天守に向かって歩いていたはずが、気づいたら天守に背中を向けていることが往々にしてある。これは築城者の意図どおりで、姫路城では簡単に天守に近づくことができないような構造になっているのだ。
とはいえ、やはり絵になるのは大天守である。桜に彩られた天守は、「ザ・ニッポン」と言いたくなる光景だ。桜の散策をする人に向けて、城内外には「千姫の回廊」「お城やしき回廊」「城下町の回廊」といったお花見ルートが設定されている。「さくらの大回廊」というパンフレットが配布されているので、観光案内所などで探すか、姫路市のHPからダウンロードするとよいだろう。縄張りもていねいに見ながら、「日本の美」をじっくり味わいたい。
イベント:姫路城観桜会(4月8日予定)、姫路城夜桜会(4月3日~9日予定)
アクセス:JR姫路駅から徒歩約20分
金沢城(金沢市)――城の顔である石川門を飾る桜並木
前田家の居城であった金沢城は、加賀藩100万石にふさわしい規模と優美さを誇る。戦後長らく金沢大学のキャンパスとして利用されたが、大学移転後、「平成の築城」として多くの建物が復元された。復元はすべて江戸時代の史料に基づき、伝統工法を用いて建てられている。建物内部では復元工事や工法の解説が詳しくされているので、目を通してみよう。また、金沢城では石垣の積み方にも注目したい。自然石をそのまま積んだごつごつとした最初期の石垣から、石を長方形にきれいに加工して隙間なく積んだ石垣まで、さまざまなタイプの石垣を鑑賞することができる。
城内でもっとも有名な花見・撮影スポットは石川門。石川橋をはさんだ兼六園側から見ても、橋を下って百間堀跡から見上げても絵になる。かつては水堀だった百間堀跡の公園では、多くの人がシートを広げ、花見に興じていることだろう。ほかにも二の丸の水堀や新丸広場など桜並木が多く、城全体がお花見スポットといえる。見事な桜と復元建造物を撮影していたら、1日があっという間に過ぎてしまう。
イベント:観桜期ライトアップ(4月上旬~予定)
アクセス:JR金沢駅からバスで「兼六園下」下車、徒歩約5分
新発田城(新潟県新発田市)――丁字形の屋根を持つ三階櫓と桜並木の共演
新潟県内でも有数の桜スポットである新発田城。2004年に城のシンボルとして三階櫓が復元されており、この櫓が建つお堀端に植えられた桜とのコントラストが見事だ。水堀をはさんだ新発田城址公園にはお花見期間中はぼんぼりが設置され、出店も出てとてもにぎわう。
復元された三階櫓は、江戸時代には実質的な天守だった建物で、全国でも唯一の丁字形の屋根になっている。通常、最上階に載る鯱(しゃち)は左右一対だが、新発田城の三階櫓には三つの鯱が載るのだ。寒冷による壁の凍結を防ぐため、格子状の海鼠(なまこ)壁が採用されているのも特徴だ。城の東側に残る旧二の丸隅櫓と表門は現存で、辰巳櫓は木造復元された建物になる。やはり、すべての建物に海鼠壁が採り入れられ、美的ポイントになっている。水堀越しに望む桜と建物が織りなす光景は実に絵になる。
イベント:新発田城址公園桜まつり(4月7日~16日予定)
アクセス:JR新発田駅から徒歩約20分
会津若松城(福島県会津若松市)――さくらまつりで会津の食・文化・歴史に触れる
東北を代表する名城である会津若松城。地元ではこの城名よりも、「鶴ヶ城」の名のほうがなじみ深い。幕末期の戊辰戦争ではこの城で籠城戦が行われ、新政府軍に降伏するものの、最後まで落城することはなかった。それは2013年のNHK大河ドラマ「八重の桜」で描かれたとおりで、会津若松城は今も地元の人々の心のよりどころであり誇りになっている。
開花時期から約1カ月にわたって、「鶴ヶ城さくらまつり」が開催。城内全体がライトアップされるほか、茶会や子どもみこしなどさまざまなイベントが催され、花見酒もふるまわれる。会津の食や文化、歴史に触れることができる1カ月間だ。
戊辰戦争を耐え抜いた城だが、天守の損傷は激しく、明治に入り破却された。現在の天守は1965年に再建されたもので、2011年に紫色がまばゆい赤瓦に葺(ふ)き替えられた。この赤瓦こそもともとの天守の姿であり、高温で焼かれた赤瓦は水が染み込みにくいため、寒さでも割れにくいのが特徴だ。寒冷地ならではの工夫なのである。会津若松城では、本丸と二の丸をつなぐ廊下橋と、その周辺の高石垣にも注目したい。東北ではトップクラスの高さを誇る石垣であり、横目地がきれいにそろった積み方は見事としか言いようがない。
イベント:鶴ヶ城さくらまつり(4月7日~5月7日予定)
アクセス:JR会津若松駅からバスで「鶴ヶ城北口」下車、徒歩すぐ
船岡城(宮城県柴田町)――1カ所で2度楽しめるぜいたくな花見
今回紹介する10城の中ではもっとも知名度が低い城だろうが、その歴史は波瀾(はらん)万丈で興味深い。城が築かれたのは平安時代末から鎌倉時代初期とたいへん古く、戦国時代には伊達政宗の家臣の居城となった。江戸時代に入ると一国一城令によって本来は廃城されるはずが、政宗はほかの城とともに、「これは城ではなく要害である」と言い訳してそのまま残した。その後、原田氏が城主となったが、家督をめぐる御家騒動(伊達騒動)によって原田氏は断絶、城は1本の樅ノ木だけを残して徹底的に破壊された。この事件をモチーフにしたのが山本周五郎の小説「樅ノ木は残った」で、のちにNHK大河ドラマにもなっている。現在見ることができるのは、その後柴田氏によって再建された城である。
こうした悲惨なドラマを残す城だが、現在では「日本さくら名所100選」に指定され、県内外から約20万人が訪れるほどの「桜の名所」として名高い。山肌に沿うように桜が植えられており、満開時にスロープカーから見る光景は、まるでピンクのトンネルを走っているかのようだ。さらに山頂からは、同じ「日本さくら名所100選」のひとつである白石川堤の桜並木を見下ろすことができる。1回で2度おいしい、ぜいたくな花見を堪能したい。
イベント:桜まつり(4月上旬~予定)
アクセス:JR船岡駅下車、徒歩約10分
弘前城(青森県弘前市)――天守は移動中でも「さくらまつり」は開催
青森県を代表する名城であり、桜の名所としても全国に知られる弘前城。城内にはソメイヨシノやシダレザクラなど、約2600本が咲き誇る。青森を代表する果物といえばりんごだが、城内の桜はりんごの剪定(せんてい)方法を用いて管理され、それゆえ大きく迫力ある花付きになるという。毎年4月下旬から「弘前さくらまつり」が開催。その期間は城内がライトアップで照らされる。
弘前城というと、東日本で唯一の現存天守を持つ城でもある。その天守は現在、石垣の修復のため、本丸の中央に移動中。普段とは違う姿なわけだが、そこはポジティブに捉えよう。修復工事中の石垣を見学できるのはとても貴重な機会だ。弘前城は天守のみならず、多くの建造物が残り、また城の縄張りも往時の姿をとどめている点がポイント。注目は3棟の三重櫓。三重櫓は全国で13棟しか現存しておらず、3棟も存在するのは日本唯一。よく見ると一つずつ、破風(屋根の飾り)や窓の数、大きさが異なっているのでじっくり鑑賞しよう。
イベント:弘前さくらまつり2017(4月22日~5月7日予定)
アクセス:JR弘前駅から弘南バスで「市役所前」下車、徒歩すぐ
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。