スタンフォード生は「東芝不正会計」から何を学ぶ?スタンフォード大学経営大学院 ブランケスプール助教授に聞く(2)

世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回は会計学のエリザベス・ブランケスプール助教授の2回目だ。

2015年に発覚した東芝不正会計は、今、世界中の経営大学院の教材となっている。企業情報開示が専門の同助教授はこの事件をどのように見たのか。(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

スタンフォード大学経営大学院 エリザベス・ブランケスプール助教授 (C)Nancy Rothstein 

情報開示、ベストな方法は何かを議論

佐藤:ブランケスプール助教授の専門は、企業情報開示です。特に不祥事が起きたときの情報開示は、会社の存亡に関わる重要な問題です。授業では企業情報開示についてどのように教えているのでしょうか。

ブランケスプール:ステークホルダーに情報を伝える方法はたくさんあります。授業で議論するのは「この会社にとって、この情報を開示するには、どういう方法がベストか」という点です。数字でまとめた資料をつくるのか、記者会見を開くのか、SNSを使うのか。資料のフォーマット、開示する場、開示メディアについて、それぞれ考えていくのです。

佐藤:具体的にはどのような事例を議論しますか。

ブランケスプール:イギリスの石油会社BPによるメキシコ湾原油流出事故の事例を取り上げます。資料のフォーマット、開示する場、開示メディアに加えて、いくつかのテーマを掘り下げて議論します。特に「アーニングス・ガイダンス(経営者による業績予想)を開示すべきか、開示は会社にとってプラスか、マイナスか」という点について深くディスカッションします。アーニングス・ガイダンスの開示については学者間でも、実務家の間でも、賛否両論あるからです。

佐藤:経済ニュースを読んでいて、「あれ、これおかしいぞ」と思うことはありますか。

ブランケスプール:それはありますよ。私たち専門家が知りたい情報が正確に書かれていないと、「本当は何が起こっているんだろう」と疑問に思いますね。ジャーナリストが詳細を略して書いてしまったがために、実際に何が起きているのかわからなくなっている記事は多いですね。

佐藤:授業では不正を見ぬく訓練などもするのでしょうか。

ブランケスプール:会計にまつわる経済ニュースを一つ選び、会計基準に照らし合わせ、この会社は不正をしていないかどうかを判断する、というグループプロジェクトがあります。学生に、数字を懐疑的に見る、自分たちの目で会計基準や財務諸表を読む、という訓練をしてもらうためです。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

東芝の不正会計から学ぶものは?

佐藤:2015年に発覚した東芝の不正会計は記憶に新しいところです。この事例を授業で取り上げることもありますか。

ブランスケプール:先ほどのグループプロジェクトでも、東芝の不正会計を取り上げて、分析した学生がいましたね。授業でも「適正な財務諸表を作成・開示するためには、経営者の正しい判断が必要だ」ということを伝えるために、東芝の事例を取り上げています。

東芝の不正会計では、膨大かつ詳細な調査資料が発表されました。これほどの資料が開示されるのは極めて稀(まれ)なことです。私が特に注目したのが、会計方針の選択後、経営陣が何をどのように判断し、それがどのように財務諸表の数字につながったかという点です。この過程に東芝の企業風土が大きく関わっていました。

佐藤:この事例から、スタンフォードの学生は何を学んでいますか。

ブランケスプール:最も大きな学びは、経営陣が部下に目標を伝えるときの「口調」が、最終的には財務諸表の数字に大きな影響を与えるということです。経営陣が強い口調で目標必達を伝え、部下が「これはどんなことをしてでも達成しなくてはならないことなのだ」と感じとったら、どうなるでしょうか。部下は数字を合わせるために、あらゆる手段を考えることでしょう。その結果、数字の改ざんや粉飾が行われ、正しい会計情報があがってこなくなります。故意に不正をするつもりはなくても、会社の企業風土が経営者の判断を狂わせることもあるのです。

※ブランケスプール助教授の略歴は第1回をご参照ください。

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