これだけ?プロが教える、太りにくい体幹トレーニング
人気トレーナー・木場克己さんのカラダメンテ術(1)
サッカー日本代表でイタリア・セリエA、インテルナツィオナーレ・ミラノでも活躍する長友佑都選手や、鹿島アントラーズの金崎夢生選手、創部3年目にして「クイーンズ駅伝2016」で優勝した日本郵政グループ女子陸上部、そしてロックバンドback numberのメンバー3人……。木場克己さんは、名だたるアスリートから有名人、そして将来を有望視されるサッカーのジュニアユース選手まで、様々な人に「体幹バランストレーニング」を指導し、実績を上げているトレーナーだ。
トップアスリートだけでなく、小中高校の部活動や社会人にもノウハウを伝授し、少しでも多くの人が楽しく、長くスポーツを続け、健康でいられるための活動も実施。体幹関連だけでも著作は30を超え、雑誌やテレビなどの露出も多いので、ご存じの方も多いかもしれない。
そんな木場さんが自らも実践する健康術、それは、やっぱり「体幹バランストレーニング」だった。しかも、誰でも今すぐ実践できるシンプルなトレーニング法だ。まずは、体幹バランストレーニングとは何かや、その意義について、木場さんの話に耳を傾けてみよう。
◇ ◇ ◇
トレーナーというと、スポーツ選手にストレッチやウエートトレーニングを教えたり、ケガの治療やリハビリを行ったりする人という印象があると思います。もちろん私もそういった指導をすることもあります。しかし、私が主に指導している「体幹バランストレーニング」は、一般の方が考えているアスリート向けのトレーニングよりもはるかに地味で目立たないものです。ただ、習慣化すると体幹深部にあるインナーマッスルが鍛えられ、体軸がブレないように安定します。
体軸が決まり、ブレがなくなるとどうなるか。競技のパフォーマンスが上がると同時に、ケガが少なくなります。つまり、体幹バランストレーニングは、ウエートトレーニングなど重い負荷をかけてアウターマッスルを鍛える筋トレとは少し違った方面からのアプローチなのです。
体幹トレーニングで鍛えるのはどの筋肉?
体幹の深層部には、「腸腰筋(ちょうようきん)」という腰椎から大腿骨をつなぐ筋肉群があります。腸腰筋は腸骨筋と大腰筋からなります。ほかにも、おなか周りをコルセットのように包む「腹横筋(ふくおうきん)」や脇腹に位置する「内腹斜筋」、背骨の脇にある「多裂筋」、骨盤の底にある「骨盤底筋群」といった筋肉があり、それらがいわゆる"インナーマッスル"です。
ストップ動作、反転動作、一歩の動き出しなどにおいて、体の中で最初に脳からの刺激が入るのはインナーマッスル。動いている時に頭のブレが大きいのは、インナーマッスルが弱っている証拠です。そこで選手たちには、これらの筋肉群をターゲットにした体幹バランストレーニングを指導しています。
体幹バランストレーニングが重いダンベル使う筋トレと違うのは、細かい動きや同じポーズを維持するといった「地味な動き」が多いことです。最初は「筋肉を使っている」という実感がないので、選手によっては「本当に効いているの?」と疑問を持ち、聞いてくる人もいますね(笑)。ただ、トレーニングを続けていると、気が付かないうちに、それまでできなかった動きができるようになったり、同じ動きでも、いわゆる"キレ"が出てきたりして、それによってトレーニングの意味と効果を理解してもらえます。
日々意識するといい「ドローイン」
そのやり方を選手たちにデモンストレーションすることが、私の日ごろのトレーニングとなっています。さらに、毎日家を出るときから帰宅するまで、背すじを伸ばして、お腹をおへそ中心に引き込む「ドローイン」を実践しています。
ドローインは英語の「draw in (吸い込む、引っ込める)」から来ていて、おなかと背中がくっつくほど、おなかをへこませる動作を指します。ドローインをすると、腹横筋や腹斜筋群、多裂筋などに刺激が入り、内側からおなかが絞られ腹圧が高まります。これ自体、インナーマッスルに簡単に刺激を入れられる優れたエクササイズです。
ドローインは、体幹トレーニングの基本中の基本。選手たちの場合はほかにもやってもらう種目はたくさんありますが、それらを行う時もドローインは意識してもらっています。
ドローインを続けると、太りにくい体に変わる!?
一般の人であれば、ドローインを意識して日常生活を送るだけでも、かなり体が変わるはずです。まず、体幹を鍛えると姿勢が良くなります。悪い姿勢が日常化すると、猫背やぽっこりお腹、肩こりや腰痛にもつながるので、姿勢を良くすることは健康の第一歩といえます。ドローインに加えて腹式呼吸をすると、体幹部の筋肉を積極的に動かすことになるので、より一層、インナーマッスルを刺激して、強くすることができます。
また、インナーマッスルを鍛えると、ウエスト周りのサイズも小さくなります。これは、インナーマッスルが筋肉のコルセットを作ってくれるからです。しばらくやらないでいると元に戻ってしまいますから、1日のうち、気が付いた時に何度でも繰り返すといいでしょう。
さらに、インナーマッスルが鍛えられ、強くなると、太りにくい体になります。これは姿勢が安定するとともに、脚を引き上げる筋肉がついて歩幅が広くなることで、全体的に動きがスムーズになり、カロリーをより消費できるようになるからだと考えられています。
ダイエットをしてもすぐにリバウンドする人は、インナーマッスルが弱い人が多いといわれています。実際、私自身は学生時代からインナーマッスルを鍛えるトレーニングを繰り返してきたうえ、今も動きの見本を何回も行ったり、常にドローインをしているので、食べても太りにくい体質です。
ちなみに、フィギュアスケート選手やバレエをやっている人は、見た目は細いですが、CTスキャンを撮ってみるとインナーマッスルが発達していることがはっきりと分かります。
【ドローインの効果】
・姿勢が良くなる→猫背や肩こり、腰痛などの改善につながる
・内臓の位置が正常化→出っ腹の改善などにつながる
・姿勢が安定して動きがスムーズになり、基礎代謝が上がる
・スポーツのパフォーマンスが上がる
・運動時のケガを防げる
「体幹トレーニング」を重視するようになったワケ
私がドローインを含む体幹バランストレーニングに重きを置くようになったのには、トレーナーとしての成り立ちが関わっています。学生時代、柔道やレスリングの選手だったのですが、当時の実家は両隣が鍼灸(しんきゅう)院と接骨院。自分もケガをすると通っていましたし、同じようなスポーツ選手がケガの治療に来ていました。そして大学は、当時、地元にできたばかりの鹿屋体育大学に、レスリングの特待生として試験に合格しました。
しかし入学寸前、腰椎を圧迫骨折。それでも大学に進んで体育の教員になる道もあったのですが、選手としてはもうやっていけない状態でした。そこで大学進学は諦め、鍼灸師、柔道整復師になって、同じようにスポーツ障害に悩む選手や一般の人たち、高齢者の方々の役に立つ仕事をしようと、専門学校に通い、資格を取りました。
その後、整形外科に勤務しながらトレーニングの勉強をして、アスレティックトレーナーの資格も取り、スポーツ選手の障害予防や治療を仕事にするようになりました。サッカーに関わるようになったのは、現在のFC東京の前身である東京ガスサッカー部からです。
私のように鍼灸師、柔道整復師の資格を持つアスレティックトレーナーは、ケガをした後の治療やリハビリに当たることが多いのですが、私は、「ケガをしない体」になるためのトレーニングや措置を選手に教えることを重視していました。実際、そちらに重点を置いた方が、ケガをした場合もリハビリがスムーズに運び、早期回復につながります。また、筋力が弱いことがケガの原因になっている選手の場合、それを克服するようなトレーニングをすれば、競技において高いパフォーマンスを発揮できるようになります。
自分のようにケガで苦しみ、選手の道を諦める人をなくす。そして、さらに活躍してもらうにはどうしたらいいか。そこから発想したのが、「体幹の筋肉を強化してブレない体を作る」ことでした。その考えが浮かんでから、私は次第に治療の中にトレーニングも取り入れるようにしていったのです。
体幹トレーニングといっても、一般の方なら特別難しいことをする必要はありません。まず、姿勢を正してドローインを意識してみてください。それを日常繰り返すことで、確実に太りにくい体になります。そして、ドローインをすると腰椎から始まって大腿骨を動かす筋肉も鍛えられますから、足腰もよく動くようになっていきます。
【人気トレーナー・木場克己さんのカラダメンテ術】
第2回「『正しい姿勢』をキープ それだけで体幹は鍛えられる」
第3回「筋力維持に 30代から始めたい1日1回『片足立ち』」
鍼灸師、柔道整復師、日本体育協会公認アスレティックトレーナー。1965年鹿児島県出身。FC東京ヘッドコーチ(1995~2002年)、サンフレッチェ広島 育成コンディショニングアドバイザー(2011~2013年)、ガンバ大阪ユース コンディショニングアドバイザー(2016年)などを歴任。サッカーの長友佑都選手などのパーソナルトレーナーも務める。アスリートウェーブ代表取締役、オフィシャルサイトhttp://kobakatsumi.jp/
〔ライター 松尾直俊)
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。