ヘルスUP

介護に備える

高齢者の見守りにITが一役 認知症徘徊、自治体対策 居場所メール通知、市民スマホ活用も

2017/3/1 日本経済新聞 夕刊

PIXTA
認知症の高齢者が、外出したまま自宅に戻れず、行方不明になるなどのケースが増えている。自治体では、本人や家族の負担を少しでも減らそうと、IT(情報技術)を活用する動きが広がってきた。居場所を捜すのをきめ細かく支援したり、住民にボランティアになってもらい、スマートフォン(スマホ)を居場所を捜すアンテナに活用したり。各地の試みを追った。

「とんでもない所に行ってしまうことがある。特に暗くなると場所が分からなくて」。こう話すのは群馬県高崎市の元公務員の男性(83)。上着のポケットには小型の全地球測位システム(GPS)端末をいつも入れている。

この男性は3年ほど前から認知症の症状が出始め、帰宅できないことが増えた。かつての勤務先や、夜なのにデイサービスに向かうことがある。夫婦2人暮らしで、家族だけでは限界を感じていた。

そんな時かかりつけの医師から市の「はいかい高齢者救援システム」を聞いた。装置貸し出し、検索など全て無料。24時間体制の「見守りセンター」に電話すれば位置情報をメールなどで知らせてもらえるので、IT機器に不慣れな高齢者も利用しやすい。

男性の妻(79)は「どこにいるか、家に向かっているか、などすぐ分かり助かる」と話す。さらに、家族が捜しに行けない場合、センターから駆けつけるほか、警察とも連携する。企業サービスに助成する自治体もあるが、使用料がかかることが多い。

市は2015年10月にサービスを開始。約220人が利用、延べ132人を保護した。うち9割は通報から1時間以内に発見できた。

独居の人の利用も広がる。在宅の高齢者を支援する「小規模多機能の家じゃんけんぽん国府」(高崎市)の利用者4人も使い始めた。「日に何度もスタッフが家を訪ねるが、訪問と訪問の少しの間に外に出てしまう。本人が何より不安でつらいはず。早く見つけてあげたい」と介護支援専門員の古郡理重さん。

市は、使いこなしてもらえるよう工夫する。GPS端末の充電池が切れそうになるとセンターから電話を入れるほか、持ち歩き用の袋なども無償提供。義母(82)を介護する女性(57)は、市からもらった小袋を使い、義母がいつも持つかばんに「お守りだよ」と言いながら入れる。

一方、近距離無線通信「ブルートゥース」を使うなど、新しい機器も広がり始めた。兵庫県伊丹市は阪神電気鉄道と組み、16年から見守りサービス「まちなかミマモルメ」を始めた。高齢者が持ち歩くのは小さな発信機。GPS端末と違って充電は不要だ。コイン型電池で長期間使える。

発信機自体には、居場所を知らせる機能はない。発信機を持った高齢者らが市内に設置した受信機に近づくと、通過履歴の情報が受信機からサーバーに送られる。さらに市民ボランティアが持つスマホに専用アプリを取り込めば、受信機の役割を担える。迷った高齢者とボランティアがすれ違えば、位置情報が届く。アプリ利用者が多いほど、通過した場所情報が多く集まり捜しやすくなる。

市によると、17年3月までに、市内1000カ所に受信機と防犯カメラを設置する計画だ。アプリを入れたスマホを持つ市民ボランティアは約900人いる。まだ実際の協力要請は無いが、認知症の高齢者22人が利用中だ。

綜合警備保障(ALSOK)も全国10の自治体と連携、ブルートゥースを使ったシステム構築を目指す。国のモデル事業で、19年まで実証実験をする。「アプリを入れるだけでボランティアに。認知症の高齢者を支えたいが、具体的に何をしたらいいか分からない、という人に地域で協力してもらえれば」と同社。

IT機器は便利だが、技術だけでは解決しない。住民一人一人が見守りに関心を持つことが大前提だ。伊丹市で「まちなかミマモルメ」を利用する男性(83)は、発信機だけでなく、連絡先などを書いた紙も身につける。これまでも周囲の人に助けられてきた。「両方がお守りだ」と妻(78)は話す。高崎市のじゃんけんぽん国府には「スーパーで見かけました」「今うちに来てます」など、住民から知らせが来る。高齢者を支えるセーフティーネットは、幾重にも重ねていく必要がある。

◇   ◇

■不明者、3年で1.3倍に

警察庁によると、認知症やその疑いがある行方不明者の届け出は、15年に1万2208人だった。12年の9607人に比べて1.3倍近くに増えている。

認知症の高齢者は、今後さらに増える。12年には約460万人だったが、25年には約700万人になる見通しだ。65歳以上の人の約5人に1人にあたる。医療や介護の充実はもちろんだが、日々の暮らしを見守る仕組みづくりは急務だ。

高齢者や家族を支えるサービスは複数ある。自治体がGPS端末の貸し出しや費用補助するケースは少なくない。また、屋外に出たことなどを知らせる徘徊(はいかい)感知装置は、介護保険で使うことができる。

身元の確認に役立つグッズも多様だ。最近増えているのは、QRコードを印刷したシールだ。スマホのアプリなどで読み込めば、自治体の連絡先などが表示される。埼玉県入間市では身につけるのを忘れないために、足の爪などに貼るタイプのシールを提供している。

多くの自治体で地域の見守りネットワークもある。あらかじめ特徴などを登録しておくと、いざという時の助けになる。認知症だと近所に知られたくないなどと、こういったサービスの利用をためらう人も少なくない。だが、認知症は決して特別なことではない。家族だけで抱え込まないこと、SOSを出しやすい地域にしていくことが欠かせない。

(編集委員 辻本浩子)

[日本経済新聞夕刊2017年3月1日付]

ヘルスUP 新着記事

ALL CHANNEL