LiLy 立場は同じママであっても、みんな事情が違う
2000年代の東京で働き、遊び、恋をする女性たちの強さと優しさと美しさがないまぜになった日常をすくい取り、同世代の女性から大きな支持を得る作家のLiLyさん。かつてのドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』を体現するようなLiLyさんも、現在は7歳の息子さんと5歳の娘さんを育てながら精力的に執筆活動を続けるワーキングマザーです。
2016年10月に刊行された自身の20冊目の著書となるエッセー『ここからは、オトナのはなし』(宝島社)では、専門領域である「恋愛」「セックス」に「出産・育児」がプラスされ、結婚していてもしていなくても、子どもがいてもいなくても、バツがあってもなくても、いまの時代を生きる女性なら激しく共感する本音と、勇気づけられる言葉がつづられています。作家としても新たなステージへと歩みを進めたLiLyさんに、「子育てと仕事の両立」や「ママ友と上手に付き合う方法」「理想の家族像」など、お話を聞きました。2回に分けて紹介します。
出産後の執筆は人類の限界への挑戦?
――7歳の息子さんと5歳の娘さん、ふたりの子どもを育てながら執筆活動を続けるLiLyさんですが、いま振り返ると、第一子を出産してから一番大変だった時期はいつですか。
まず、子どもが生まれる前の育児へのイメージと、実際に産んでからの現実が本当に違いすぎて! いまは離婚していますが、現在も一緒に子育てをしているパパと、出産前に「これからの時代、子育てはフィフティーフィフティーでやるべき。私たちはお互いに協力し合っていこうね」と話していました。パパはデザイナーなので、「オレ、事務所にベビーベッド買うから」と言っていて、「あなたって最高」みたいな(笑)。そのラブラブな会話からして、子どもがいる人にしてみれば、「いや、それ絶対無理だから…」っていう話なんですが。
そんな意気込んだ状態から出産当日を迎え、陣痛の合間もキスをするような男と女のホットな関係のまま、赤ちゃんを迎えたんです。いやもう、育児とはこんなにも24時間体制なものなのかと…。ベビーベッドを置いておけばいいとかって問題ではないですよね。しかも、初めての赤ちゃんということで私自身がすごく神経質になっていたし、もう一生懸命すぎて、赤ちゃんが泣く前に発する「ふぇっ…」で目が覚めて、泣き始める前には抱っこをしているような、1秒も油断のない戦闘態勢に近い状態でした。
育児がこんなに大変だったなんて本当に知らなかった…。『ママはテンパリスト』(東村アキコによる人気コミック)って大好きな作品なんですけど、「すいません、育児ナメてました」というそのキャッチコピーそのもの。だから、やっぱり一番大変だったのは初産の後ですね。
── 特に産休はとらず、執筆を続けていたんですね。
すぐに保育園などに預けなくても、子育てしながら続けられると思っていたんです。甘かった(笑)。当時は小説もエッセーも抱えていて、スリングで赤ちゃんを抱っこして、スクワットしながら恋愛エッセーを書くような状態で、ほとんど限界でした。人類の限界に挑戦しているような感じ(笑)。だけど締め切りは待ってくれないし、こんな状態で絞り出すように書いても、作品が面白くなければ次の本は出せない。途方に暮れて、ベランダで座り込んで目がテンになっていることがよくありました。
保育園に子どもを預けることはかわいそう、と思い込んでいた
そんなカオスな状態だったので、執筆する時間をつくるためには子どもを保育園に預けるという選択しかなかったんですけど、そこにも大きな葛藤がありました。レストランでもメニュー見ないでオーダーを決めるほど、私は何事も即決の悩まない人間なんですけど、子どもを保育園に預けるかどうかのジャッジについては、人生で初めて、ものすごく迷いました。私自身のことではなく、私から生まれたとてもとても大事な人間の人生についてのジャッジであるということと、私は専業主婦の母に育ててもらったので、自分がお母さんにしてもらったことは、自分もわが子にしてあげたいという思いですね。
そんなとき、漫画家のおかざき真里さんに「そのウジウジ悩んでいるエネルギーを、自分が入れたいと思うベストな保育園に子どもを入園させることに使ったらいいんじゃない?」とアドバイスをいただいたんですね。その言葉が私にぴったりハマって、執筆の合間に息子をスリングに入れて、区の保育園すべての見学に行きました。でも、保育園を見ながらも、この子は私と離れたくないんじゃないかと思ったり、産後のセンチメンタルな気分も相まって、タクシーのなかで涙が止まらなくなったり……。ただ、それだけつらかったぶん、保育園に入園できてからは必然的に集中して仕事をするようになりました。わざわざ子どもと離れて確保した執筆時間だから、いい意味で時間にすごくケチになれたし、お迎えまでに絶対書き上げなきゃ!というようにメリハリがつけられるようになった。
そして、何より保育園の先生が本当に素晴らしく、幾度となく救われました。自分が学生だったときも、こんなに先生に感謝したことはないというくらい、今でも保育園の先生には感謝しています。ママ友についても同じで、ママ友ってマイナスなイメージがついていますが、私にとっては共に戦ってきた戦友のような存在。LiLyとして綺麗にメイクをしてもらってインタビューされている私ではなく、登園時の髪も肌も服もボロボロの(笑)私を知っている。フリーランスではなく、会社勤めの方が多く、異業種同士の仕事の話も貴重で楽しかったです。とはいえ、平日は誰もが忙しいので話す時間こそないのですが、ギャーギャー騒ぐ子どもを連れて帰る途中で、互いに「お疲れさま!」とバチッと目で合図をするような強い絆が生まれました。
それと同時に、「保育園に子どもを預けることはかわいそうなことだ」と自分が思い込んでいたことにびっくりしました。女性の権利や社会進出について、先頭を切って主張してきた私が「子どもはお母さんと24時間一緒にいなくちゃかわいそうだ」という刷り込みを受けていた。実際に保育園に入ってみたら、先生たちは素晴らしいし、保育園のママたちも子どものことをめちゃくちゃ愛している。にもかかわらず、私はこんなことで、泣きすぎて頭が痛くなるほど悩んでいたんだって。
インスタとリアル世界のギャップが激しすぎる二重構造ライフ
── 自分のなかで育児と仕事が何となくうまく回せるようになったなぁと感じたタイミングってありましたか。
息子が2歳になる少し前に娘が生まれたのですが、その年も大変で……。2人が同じ保育園に入れず別々の園に通っていたので、双子用のベビーカーに0歳と2歳を乗せて、ボロボロの状態で2つの園を駆けずり回った1年でした。キラキラとしたインスタグラムの世界での私は「LiLyさんみたいに子ども欲しい~」と憧れられる一方で、リアルな世界の私は、すれ違う若いキラキラした女性に「私、子育て無理かも…」というドン引きしたまなざし向けられるという二重構造ライフ…(笑)。いま思い出しても、笑えますね。なので、2人を同じ保育園に入れてからですね。保育園は預かってくれる時間も長いですし、お迎えも一カ所だし、その黄金の3年間でしょうか。私は仕事をしていたら子どもに癒やされたくなるし、子どもとずっと一緒にいたら孤独に執筆したくなる。そういう意味でも、仕事をしている自分とお母さんの自分を、いいタイミングで行き来できました。
── 育児と仕事、2つをうまく両立させるコツはありますか。
あくまで私の場合なので、おすすめというわけではないのですが、音楽で気持ちを切り替えることでしょうか。執筆は集中して臨むのでヒップホップなどブラックミュージックやクラブミュージックを聴きながらキレキレのテンションで、子どものお迎えに行くときはJポップを聴いています。仕事のままのテンションで行くと子どもにも迷惑がかかるんで(笑)。そこからは完全に仕事の面ではオフなので、晩ごはんのことは一旦忘れて、子どもたちと一緒に近所の公園に寄って遊んで帰る。私もガンガン、ブランコに乗る(笑)。決しておすすめではなく、私にはそれしかできないんですね。
ママ友は奇跡のような確率を経て出会った存在
── 自分も含め、子育ても仕事もがんばらなきゃと、どちらもオンモードにしがちです。
私には無理です。ただ、それが上手にできているお母さんもいて、心から尊敬するとともに、私は手作りではなく購入したデザートを持って、彼女のおうちにごはんを食べに行きます(笑)。「なにこれ、おいしー!」って。ほんと料理が苦手なので、簡単な料理を教えてもらったり、そういうお母さんたちに優しくしてもらっています。
── 同世代の女性から人気の高いLiLyさんですが、ママ友と上手にお付き合いするためにはどうすればいいでしょう。
保育園のママ友同士で集まって飲み会をすることがあるんですね。そのときにふっと思ったのが、ママ友ってほぼ奇跡のような確率で出会っているということ。年齢は違うのに、たまたま同じ時期に妊娠して、同じ地域に住んでいて、数ある保育園のなかから同じ園を選んで、子どもたちが同じクラスになって、出会ったときにはお互いが"ママ"という新しいステージの友達で……。ただみんなお酒が入ると"お母さん"ということを取っ払って、一人の女性に戻るんですね。その瞬間、お互いにお互いがとても愛おしくなって。ただの女の子だった私たちが"お母さん"になって、「◯◯くんママ」としてすごくがんばってる、ひょっとしてこの飲み会も気が進まなかったのに、子どもに迷惑がかからないよう参加している人も中にはいるのかも……とか(笑)。そんなふうに俯瞰(ふかん)で見ると、うわぁ、なんか全部切ないわぁ、でも、みんながんばってる! うん、乾杯! って気持ちになりませんか(笑)。
(ライター 毛谷村真木)
[日経DUAL 2017年1月31日付記事を再構成]
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