巻くのはのりだけじゃない 和歌山の「めはりずし」
おにぎり・おむすび(5)
久留米に帰っていた。高校の同窓会に出るためであった。福岡空港への便が満席だったため、初めて佐賀空港を利用した。バスで市街に向かう途中はずっと水田であった。のどかな田園風景というかただの田舎というか。私自身がそのような土地で生まれ育ったため、奇妙な懐かしさを禁じ得なかった。特に翌日は35年振りにかつての級友たちに再会するとあって、ノスタルジーはいや増すのであった。
誰が誰だかだいたいわかったけれど、その中でひとり「この人は?」というおじさんがいた。そのおじさんがニコニコと駆け寄ってきて「おれだよ、おれ。頭がこんなになったからわかりにくいかもしれないけど、おれ。T下だよ」。「おお、T下君やんね。あんた頭、どげんしたと?」「どげんしたって、見りゃわかろうもん。のうなったとたい、髪の毛が」
というようなやり取りなどもあって、集合した200余名の同級生諸君は頭髪関係、体形方面に多大なる変化こそあったものの、18歳の青春時代に戻り楽しい時間を過ごしたのだった。中にはもう孫がいるというおじさんもいた。ということは誰もカミングアウトしなかったけど孫がいるおばさんはたくさんいたんだろうなあ。
その日に食べたチャンポンとうどんが美味かったことは書いておかねばなるまい。
ついでながら福岡県にも名古屋手羽先軍団の一翼を担う「風来坊」が「ターザン焼」をひっさげて進出していたことを報告する。
本題。土地土地のあの食べ物。その呼び方も含めて。
隣の宮城県のジョーギ如来様の門前のみやげ物店でも、味噌を付けてあぶった大きなおにぎりを「やきめし」と言って売っています。
コンビニでおにぎりを温めるのと、たこ焼きにマヨネーズは山形が発祥と地元紙にだいぶ前に出ていました。反論が多いだろうなあ(山形県東根市/カラハシさん)
西日本の方は私も含めて驚かれたことと思う。十分記憶にとどめ、当該地域に出かけた折りに文明の衝突を回避するよすがにしたいものである。それにしても貴重な情報ではなかろうか。キャーって感じ。
デスクいっしょに キャー。
ベティー隊員 こら! ワタシの口癖まねしないでよ。
同じ県内でも呼び方が違う。
ちなみに「にんにこ」は俵型に塩味のもので、真ん中に丸く白ゴマか黒ゴマがついているのが我が家では一般的でした。たまに、海苔が巻いてありました。三角型は小さい時には、テレビでしか見たことがありませんでした(南大阪在住のcolinsさん)
和歌山には「にんこ」「にぎんめし」のほかに「にんにこ」がある。にんにことヤギメスはお互いを赤の他人みたいに思っているが実は親せき。ほとんど家族。
その和歌山で有名なのがこれ。私は以前から寿司ではないと主張していた。
都内でもいくつか、めはりずしスポットがありますが…あまりに小さい! 一口大とは! なーんたる! なーんたる!
あまりの大きさに口を大きく開くとともに目も大きく見張ったから"めはりずし"という説を考えると、美味しいからってコレで満足してよいモノかどうか…。しかも新宿駅中央通路の弁当には、付け合わせにタクアンが付いてました。漬け物でくるんでるのに!(オーモリ秋の花粉症さん)
私は高菜を偏愛していて、今朝もご飯に高酸味の刻み高菜を大量にのせてかき込んできたが、寿司を食べたという意識はこれっぽっちもない。高菜漬けは刻んで少量の砂糖、タカノツメを加えて油で炒めると人類史上最高のおかずになる。
この場合、タカノツメは赤い殺意の分類から除外して考えるのが九州人の常識である。法律でもそうなっている。
ベティー隊員 それって赤いヘ理屈。
デスク補足 だから、そもそも「殺意」じゃないんだってば。恋人だって言ってるでしょ。
次に紹介するメールは、最後の1行が最も美しい。
初めては若かりし10数年前、東京の彼女と遠恋をしていたころ、東京東部のコンビニで温めてもらったのが最初でした(何でコンビニでおにぎり買ったんだろう? ご飯は彼女のところで食べてたし…?)。
その後、地元岩手のコンビニで温めてというと快く温めてくれました。ってことは、マニュアルにあった? コンビニはLです。
おにぎりといえば味噌の焼きおにぎりです。今でもうちの親はあまったご飯をそうして朝に食べています。昔、土曜日の部活の時は味噌にぎりでした…毎週。そして具は決まって紅ショウガ。梅干が家にあったんだけど、なんでかな?
えっ?彼女?…温めが足りませんでした(弁当はあたためないさん)
最後の一言、重いものがある。デスク、よーく味わってね。温めが足りないとコンナンなことになるかもよ。ただ温めすぎると別のコンナンが待っている可能性もあるが。
デスク遠い目 そういえば、破裂しちゃったこともあったっけ。温めすぎたのかな…。
ベティー隊員 風船?
デスク涙目 ぱぁん!!! じゃない、大切な思い出…。
思うに、そのころのコンビニのマニュアルに「おにぎり温めますか?」があったものの、その後一部の地域を除いて廃れたのではないでしょうか?(みなみ@神奈川さん)
そう、そうなのである。みなみさんがおっしゃるように考えないと、関東のコンビニに一時期、あるいは一部地域で「おにぎり温めますか」が出現し、消えた理由が説明できないのである。
各種新製品おにぎりを前にコンビニのマニュアル会議が開かれている。東北とか北海道とかから出席した人が「このようなおにぎりに関して私どもの地域では以前から温めサービスをしてお客様に大変よろこばれている」との発言があった。「なるほど、温めサービスか。これから冬に向かうので喜ばれるかもしれない」との意見が出た。東北とか北海道とかから出席した別の人が「ぜひやるべきである」と発言し、沖縄から来た人が「人間として当然のことではないか」と後押しして、おにぎり温めサービスが関東でも始まった。
ところが始めてみると「なんでそんな余計なことしてくれるんだ」とか「やめてくれ」といった客の声が本部に集まるようになり、店の周辺では私服らしい人さえ確認された。危険を感じた本部が関東での温めサービスをきゅうきょ中止した。
違う?
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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