最期を迎える人に「私」を取り戻してもらう方法「今日が人生最後の日だと思って生きなさい」の著者に聞く(3)

日経Gooday

外出やトイレもままならず、自分らしさが失われていく中、それでも自分で自分を認めるにはどうしたらいいのか(c)Cathy Yeulet-123rf
外出やトイレもままならず、自分らしさが失われていく中、それでも自分で自分を認めるにはどうしたらいいのか(c)Cathy Yeulet-123rf
日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

日本は今、人を看取る(みとる)ことが日常的な「多死社会」時代を迎えつつある。若い世代であっても、この社会の一員として、「看取り」を見つめ直すべきときに来ている。そこで、2800人以上の看取りを経験してきた医師・小沢竹俊さんに、最期を見据えた人とともに穏やかに生きていくためのヒントを聞いた。今回のテーマは、人生の最終段階を迎え、できないことが増えていく人にとっての自己肯定感の培い方。何もできない自分でも「これでよい」と思えたとき、人は自分を受け入れられるという。

「何もできなくても自分は大切な存在だ」という自己肯定感の培い方

人生の最終段階を迎え、できないことが増えていくのは苦しいものだろう。自分らしさを見失い、自身を大切に思えなくなったり、その存在価値を疑ったりすることもあるかもしれない。そんな苦しみの中にいるとき、どうすれば日々を穏やかに過ごせるのだろうか。

ここではまず、自分の大切さを実感できる状況について考えてみよう。例えば、100点満点を取れたり人の役に立てたりしたとき。それから、「たいへんよくできました」と高評価をもらえたとき。自分で自分を認め、好きになれるのではないだろうか。

しかし、外出できなくなったりトイレに行けなくなったりとできないことが増え、自分らしさが失われていく中で、100点満点をつけるのは難しいことだろう。周りの人と比較して自分の価値をはかり、高得点をつけられないこともあるはずだ。しかし果たして何点取れたなら、自分を好きになれるのだろう。どんな状況にあっても「たいへんよくできました」と自分を認め、大切にして生きていく方法はないのだろうか。

「点数では価値を測れないそんなとき、自分を認めて穏やかに生きていくうえで、大切なキーワードがあります」と小沢さん。それは「これでよい(Good enough)」だ。

「『これでよい』と思えるとき、自分の弱さや無力さも含めて認めることができます。これは、ありのままの自分を受け入れながらも前に進むために必要な気持ちであり、開き直りや責任放棄とは異なるものです」

人は、誰かの役に立てるときには自己肯定感を持つことができる。「役に立つ、だから自分は大切な存在だ」というわけだ。しかし、「役に立てない、それでも自分は大切な存在だ」と思うには、どうすればいいのだろうか。

自分だけではなく誰かが、点数にかかわらず「これでよい」と許してくれるなら……。ナンバーワンになれなくとも、オンリーワンとして認めてくれる人がいるのなら……。それは、苦しみの中にいる人にとって、きっと心強い支えとなるだろう。

大切な支えの存在に気づく「ディグニティセラピー」

そしてもう一つ、自分らしさが失われていく人生の最終段階において、有効なことがある。それは、尊厳を取り戻す「ディグニティセラピー」だ。

「尊厳療法ともいわれるこの手法では、その人がこれまで大切にしてきたものを振り返りながら、周囲の人たちに伝えておきたいことを形にしていきます。具体的には、構造化されたいくつかの質問を中心にインタビューを行い、その内容を大切な人に宛てた手紙にします」と小沢さん。

大切な人に知っておいてほしいことを確認し、手紙という形で伝えることは、尊厳を取り戻し、今後の人生を穏やかに過ごすうえで大きな支えとなり得る(c)Daniil Peshkov-123rf

ディグニティセラピーでは、例えば、「あなたが人生で一番生き生きとしていたのは、いつですか?」というように尋ねる。自分自身の人生を写したアルバムを眺めていると仮定して、これまでの人生の中で、最も輝いていた時期について語ってもらうのだ。さらに、アルバムの中のその写真では、誰と何をしているのか。どのような表情をしているのか。どんな役割があって、どんなことを達成したのか。また、どんなことを誇りに感じているのか……を聞いていく。

こうして記憶を引き出すうち、「自分にはもう何もない」と望みを失っていた人も、自分が持ち合わせている大切なものに気づき始める。過去を丁寧に振り返ることで、自分らしさを取り戻し、生きる意志が高まることも多い。

「ディグニティセラピーで行っているのは、“私”を取り戻し、後世に“私”を伝えるための準備。過去の振り返りを通して、大切な人に知っておいてほしいこと、覚えておいてほしいことなどを確認し、手紙という形で伝える。こうして“私”が生きた証しを世代を超えて伝えることは、尊厳を取り戻し、今後の人生を穏やかに過ごすうえで大きな支えとなり得るのです」(小沢さん)

介護する側にも支えは必要

そして最後に、介護を担う家族をはじめ、支える立場にある人こそが、支えを必要としているということも忘れてはならない。

人生の最終段階は、美しく幸せなものとは限らない。本人のみならず周囲の人々も巻き込んで苦しみを味わうことも、無力感にさいなまれることもあるだろう。小沢さんは、このように話す。

「一生懸命に対応しても、うまくいかないこともある。そんなときに私たちにできるのは、誠実に関わり続けること。そのためにも、自分自身への支えも必要なのだと思います」

■この人に聞きました
小沢竹俊(おざわ・たけとし)さん
ホスピス医。めぐみ在宅クリニック院長。救命救急センター、農村医療に従事した後、横浜甦生病院内科・ホスピス勤務、ホスピス病棟長を経て、06年にめぐみ在宅クリニックを開院。「ホスピスで学んだことを伝えたい」と、学校を中心に「いのちの授業」を展開。多死時代に向けた人材育成に取り組み、15年にエンドオブライフ・ケア協会を設立。著書「今日が人生最後の日だと思って生きなさい」(アスコム)は、25万部を突破するベストセラーに。新著は「2800人を看取った医師が教える人生の意味が見つかるノート」(アスコム)。

(ライター 西門和美)

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