「三脚の神」が教える 卒入学シーズンお薦め三脚3選
「ヨドバシカメラにいる『三脚の神』に会ったことありますか?」と教えてくれたのは、カメラ女子サークルのメンバーだった。「三脚の神」に撮りたい写真を伝えるだけでオススメの三脚を選んでくれるのだという。卒業・入学シーズンを前に、「三脚の神」こと森泰生さんに話を聞いた。
"神"と三脚との付き合いは40年以上
「三脚の神」こと、ヨドバシカメラ新宿西口本店のカメラ館の販売員、森泰生さんは、1938年生まれ。30歳から三脚メーカーに勤務し、退社後、現在はヨドバシカメラで三脚の販売員として活躍する。
三脚メーカー在籍時「総務と経理以外は全て経験しました」と話す森さんは、メーカー勤務時から日本写真機工業会(当時)のイベントや、映像写真用品ショーなどで、三脚数本とともに講座を開催。鮮やかな手さばきと、流れるような語り口で三脚の魅力を伝える講座は、話題となった。
現在、三脚講座の様子をDVDにおさめ、ヨドバシカメラなどで販売する。ヨドバシカメラの売り場のスタッフからも「三脚の神」や「三脚先生」と呼ばれ慕われている。取材時に受付で「三脚の神の取材に来ました」と告げると、だれの取材かわかったほどだ。
ヨドバシカメラ新宿西口本店のカメラ館は、カメラもカメラ関連用品も品ぞろえは広くて深い。これからカメラを始めるという初心者からアマチュアのカメラ愛好家、さらにプロの写真家も多く来店し、ヨドバシカメラの中でも客層が広い店舗だ。森さんは、顧客一人ひとりに「何を撮りますか?」「どこで使いますか?」「どんなカメラを使いますか?」などじっくり要望を聞き、商品を提案。さらに撮影シーンや被写体にあわせて、具体的に撮影のコツや三脚の使い方、セッティングの仕方を伝えていく。
「カメラ愛好家ですら、レンズのスペックは細かく気にしても三脚にこだわる人は少ないように感じます。まずは使ってみて慣れていただくことが大切だと思っています。"使い方がわからない"、"使っているうちに不便を感じる"というのであれば、いつでも相談していただきたい。私は、皆さんに三脚を使った写真の楽しさを知っていただきたいのです」と森さんの三脚に対する思いは熱い。
三脚か? 一脚か?
そんな三脚の神に今回教えてもらうのは卒業・入学シーズンにオススメの三脚だ。
家族みんなで記念撮影をするなら三脚の方がうまく撮れそうだが、一脚なら、1本のパイプなので持ち運びが便利だ。スマホをリモコン代わりにしたり、セルフタイマーなどを使えば、人垣の背後から撮影することができる。最初に買うなら、どちらを買うべきなのだろうか。森さんは「初めて買うなら三脚がオススメ」という。
「三脚も一脚も、カメラを支えるという点では同じです。大きな違いは両手が離せるかどうかです。長時間に及ぶ式典での撮影や、人が集中する校門付近での撮影などでは待ち時間が長いもの。カメラの場所を決めたまま両手が離せる三脚は、記念日の撮影向きです」と森さん。
一方、一脚は、スポーツや乗り物など動いている被写体を撮る際に使うと便利だという。
「カメラを構えた際、一脚を使ってカメラの重さを支えることで、構図を正確に決定することができ、チャンスを逃しません。しかし、使い慣れるまでコツがいるので、練習が必要です」
高い位置から撮影するために一脚を使うのも難易度が高いらしい。
「一脚を使って、高いところから撮影したいという声もよく聞かれます。しかし、一脚を伸ばしたまま長時間支えるのはなかなか大変です。しかも、構図の確認が難しいので、直感で撮影し、思ったような撮影ができなかったということもあるようです。せっかくの記念日なら、三脚で思い通りの撮影をするのがよいのではないでしょうか」
2万円以下で初めての1台にオススメの三脚
では、どのような三脚がオススメなのか。「最初に買うなら、軽さ、大きさ、そして戸惑わずに組み立てられるものを選ぶことが重要です」と森さんは言う。
式典にはスーツやワンピースといった正装で出席するもの。大きな三脚だとエレガントさに欠ける。だからこそ、コンパクトなものがオススメなのだという。ほかにも次のような理由がある。
「式典の際は、学校から配布される書類などで荷物が増えます。帰りに、友達同士や家族で食事することも多いでしょう。そうした際、大きな三脚だと邪魔になりますし、何より忘れてしまう方も少なくありません。式典に出席するなら、軽くて小さいものをお薦めします。重さで1キログラム前後、たたんだ際に40センチメートル程度になるものでしたら、普段づかいのカバンに入ります。モバイルパソコンの重さが約1kg前後ですので、抵抗なくお持ちになれるのではないでしょうか」
この条件で、森さんが薦める三脚が以下の3台だ。
●スリック エアリーS100 1万4590円(取材時のヨドバシカメラでの価格、以下同)
「1キログラムを切る重さで、持ち運びのコンパクトさを追求したモデルです。脚を反転させることで持ち運び時の長さを短くすることができます。正装にあわせてコンパクトなものがほしいという方にお薦めです。人物写真をキレイに撮影する際は、人物のへそ辺りをねらって撮影するとゆがまずきれいに撮影できるといわれています。この三脚の高さは全高約1メートルで、ちょうど大人のへそ辺りの高さになりますよ」
●マンフロット MKBFRA4-BH [Befreeアルミニウム三脚ボール雲台キット] 1万9970円
「雲台がボール状になっており、縦向き、ななめ向きと、まるで手で持って撮影する時のようにカメラを動かし自由に構図を決められます。折りたたむと、雲台の周りに脚が完全に収まり、持ち運びに便利です。全高144センチメートルで、撮影者の目の高さくらいにカメラをセッティングできるので、式典全体などを見たまま撮影したい場合に向いています。イタリアのメーカーということで、デザインを重視する方にも人気です。持ち運びに便利なケースもついています」
●ベルボン EX-4400 4050円
「軽くてコストパフォーマンスの良いことから人気の商品です。三脚の水平がしっかり確認できる水準器を搭載しています。ビデオもセッティングでき、着脱が簡単なので、ビデオもカメラも使いたい式典向きです。レバーがあるのでパーン(横に流れるようにカメラを動かす撮影技法)の操作もしやすいです。樹脂を多用することで、手ごろな価格を実現しています。ケースも付属しています」
撮りたい写真によって使う三脚は変わる
「三脚は、撮りたいものによって重視するポイントが変わるんですよ」と森さん。例えば、山歩きをしながら風景を撮るなら持ち歩きやすい軽いもの、野鳥を撮影するならとっさの動きに対応できる"自由雲台"タイプのように、用途によってオススメのポイントが変わるのだという。そのため、購入の際は、何を撮影したいのかを販売スタッフに伝えることが重要になる。また、実際に撮影に使うカメラを持参し、店頭で取り付けてみると、自分が使いやすい三脚を選べるとのこと。
「三脚を使うと、構図を考えたり、露出などを調整する余裕がうまれます。丁寧に日常の風景を切り取ることができ、一瞬一瞬がより尊いものになります。スマートフォンで気軽に撮影するのもいいですが、たまには三脚を使ってじっくり撮影してみてはいかがでしょうか」
(ライター 伊森ちづる)
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