パソコンの理想形「Chromebook」が受けないワケ
戸田覚のデジモノ深掘りレポート
今回は、エイサーの最新「Chromebook C740」を使ってみた。2世代前のモデル「C720」を購入した僕自身は「Chromebookも案外いいな」と思ったのだが、日本市場の反応はイマイチだ。どうして盛り上がってこないのか、その理由を考えていきたいと思う。
最新モデルは2世代前とほとんど変わらない
僕がC720(2014年11月発売)を入手したのは、もう2年以上前のことだ。当時、Chromebookの可能性は感じたが、ハードウエアには完成度の低い部分も目立ち、まだ改善の余地があると思っていた。全体にチープな感じが否めなかったのだ。だから、今後はもっと洗練させて、魅力を増してほしいと願っていた。
だが今回、最新モデルのC740を手にしてがく然とした。全然変わっていないのだ。基本的に本体は同じで、ただのマイナーチェンジである。
スペックを見比べてみよう。C720のCPUはCeleron Dual-Core 2955Uで、メモリーは4GB、ストレージは16GBとなっている。これに対し、C740のCPUはCore i3-5005U。メモリーは4GB、ストレージは32GBだ。CPUが強化され、ストレージが増えたとはいえ、2年かけてこの程度の進化というのは、ちょっと遅すぎないだろうか。
もっと良い製品へと進化してくれていたなら、日常的に持ち歩くデバイスとしても活躍するはずだった。しかし、この程度の進化では、買い替える気が起こらない。ただ、C740を見て考えた。Chromebookは変わらないのではなく、変えられないのではないだろうか?
コンセプトは究極と断言できるが……
今のWindowsは、アカウントに設定がひも付けられるようになっている。つまり、同じマイクロソフトのアカウントでログインすれば、別のパソコンでも同じ設定で使えるのだ。パソコンが長年かけて進化した結果、たどり着いた機能の1つといえるだろう。同様に、スマートフォンでもユーザーアカウントとデバイスがひも付けられている。
その究極といえるのがChromebookだ。たとえ端末を買い替えたとしても、10分もかからずにいつも使っている環境が整う。パソコンのブラウザー「Chrome」で使っている設定やアプリはほとんどそのまま利用可能だ。
そもそもChromebookは、ファイルをローカルのストレージに置かないのが基本だ。作成した文書などのファイルは、グーグルのクラウドストレージ「Googleドライブ」上で管理する。インターネットにつながらない場所で作業する場合、ファイルをローカルに一時的に置いておくこともできるが、それは一時的なもの。端末を買い替えたときのファイルの移行や、万一に備えてのバックアップも考える必要はない。
このコンセプトは間違いなく究極で、WindowsやMacOSもそこへ向かっていると思う。かなり未来を先取りしていて、実際に使いやすいのがChromeOSなのだ。
ところがだ。最新のChromebookを使ってみた感想は、2年前の「C720と何も変わらないな」というものでしかない。CPUが高速になり、ストレージの容量も増えたのだが、その恩恵はほとんど感じられなかった。実はこれがChromebookの最大のメリットであり、デメリットでもあると思う。
Chromebookが盛り上がらない理由とは?
従来のOSは、常に最新の動作環境を要求してきた。新しいWindowsが登場すると、古いパソコンでは動作が重く感じられたり、ストレージが容量不足に陥ったりしていた。ところがChromeOSは動作がとても軽い。2年前のモデルでもサクサク動作するのだから、最新のCPUの必要性が感じられない。また、ファイルはGoogleドライブに保存するため、Chromebook内のストレージの容量もさほど必要としないから、大容量の記録装置を搭載するメリットもない。
OSがサクサク動くこと、データをGoogleドライブに保存できることはChromebookの特徴であり良さなのだが、逆に言うと機能豊富なアプリやサイズの大きいファイルは扱いづらいともいえる。4K動画を編集するなどの用途には向かないだろう。高画質の画像を扱わないなら高解像度の液晶も必要なく、11型程度の画面サイズでも十分と思える。
結果、性能面での進化は小さくなる。大胆な変化を遂げる新モデルより、安価でサクサク動く製品が好まれてしかるべしだ。日本では学校などの文教市場で好まれるのもうなずける。
2年前にC720を入手したころの僕は、これから素晴らしいChromebookが出てくると信じて疑わなかった。さらに薄く、軽くなり、また、解像度も上がっていくと予想していたのだ。その期待は外れてしまったようだ。
Chromebookは安さをセールスポイントにしている製品だけに、高級モデルを作りづらいのも分からなくはない。ならばもっと価格を下げてくれればいいのだが、実売で5万円台半ばという価格はコストパフォーマンスが悪すぎる。同じ11型でWindowsを搭載する「HP Stream 11-y000」は直販で2万7700円。スペックを含めて考えても、こちらを選ぶのが当然だろう。
とはいえ僕は、ビジネス向けのChromebookが成立すると今でも思っている。ChromeOSは他のOSより動作が軽いし、メールチェックやウェブサイト、PDFの閲覧、ちょっとしたOfficeファイルの編集なら何の問題もないからだ。作成したファイルはGoogleドライブに保存し、ローカルには残さないようにすれば、紛失時なども安心だ。価格を含めてハードウエアの魅力をもっと増すことができれば、ビジネス向けとして売れるはずだ。
Chromebookのコンセプトは、パソコンの理想形であることは間違いない。もっと軽く、薄くし、高解像度液晶とSIMスロットを搭載した上で3万円を切る価格になればぜひ買いたいと思う。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。近著に、『一流のプロから学ぶ ビジネスに効くExcelテクニック』(朝日新聞出版)がある
[日経トレンディネット 2017年1月19日付の記事を再構成]
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