17年のスマホ学割プラン 18歳以下だけ優遇する理由

日経トレンディネット

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2017年の春商戦に向け、au、ソフトバンク、NTTドコモの大手キャリア3社が新戦略を発表した。中でも注目されるのが恒例の学割施策だ。1月11日に発表したauは18歳以下のユーザーに対して使い勝手のよい料金プラン「学割天国U18」を用意。18歳以下と19歳以上とで割引額を大きく変えている。ソフトバンクもこの流れに追随。NTTドコモとの違いが明らかになった。なぜ、auとソフトバンクは今年、学割で18歳以下を重視したのか。

16年末から動き出している学割競争

まだ始まったばかりの2017年だが、間もなく携帯電話業界最大の商戦期となる春商戦を迎える。そこで注目されるのが、この時期の主要ターゲットとなる学生を狙った“学割”施策だ。

スマートフォンをヘビーに利用する学生が多いことから、16年は各キャリアとも、料金ではなくデータ通信を大幅に増量する学割施策を打ち出した。17年は一体どのような施策となったのか。

実は17年は例年よりも早く、16年末から実施がスタートしていた。ソフトバンクは他社に先駆け、12月21日から、25歳までの「ギガモンスター」契約者に対し、毎月の通信量を1年間、月々1000円引きする「学割モンスター」の提供を開始した。これは比較的スタンダードな割引内容だ。

このソフトバンクの施策を受け注目されたのが、毎年春商戦に力を注いできたKDDI(au)の動向だ。今年も1月11日に新商品・新サービスの発表会を開催し、小中学生に向けたスマートフォン「miraie f(フォルテ)」や、タフネスタイプのフィーチャーフォン「TORQUE X01」、自宅に設置してスマートフォンの写真や動画を保存し、外から閲覧できる「Qua station」など特徴的な新機種を発表した。

だが、それ以上にインパクトがあったのは、やはり新しい学割施策だった。auは、学割を18歳以下向けの「学割天国U18」と、19歳から25歳までの「学割天国U25」の2つに分け、18歳以下だけを特に優遇した割引を打ち出してきたのである。従来の学割施策は、25歳以下であれば一律の割引が受けられただけに、大きな驚きがあった。

ソフトバンクもauの動きに追随し、1月16日には新たに18歳以下を優遇した学割施策「学割モンスターU18」を打ち出し、当初提供していた学割モンスターは「学割モンスターU25」と名前を変えて19~25歳向けの施策とした。NTTドコモも「ドコモの学割」を発表したが、この流れには追随せず、新規で主力プランの「カケホーダイ&パケあえる」に契約した場合は1年間、月額1000円を割り引き、既存ユーザーに対しては利用期間や用途が限定されたdポイントを1年間、毎月1000ポイント分プレゼントするという比較的スタンダードな内容となっている。

auは1月11日に春商戦に向けた新商品・新サービスの発表会を開催。学生とその親がターゲットの商戦期だけあって、子供向けスマートフォン「miraie f(フォルテ)」なども発表された。写真は同発表会より
ソフトバンクも1月16日に月額2980円からの学割プラン「学割モンスターU18」を発表。月々の料金や内容、加入時の条件はauに近い(写真:磯修)

18歳以下に手厚いauとソフトバンクの学割

では実際、auとソフトバンクの学割施策は、18歳以下のユーザーをどのような形で優遇しているのだろうか。auのケースを例に挙げて説明しよう。

「学割天国U18」の内容を見ると、単なる割引ではなく、5分間の通話定額が利用できる「スーパーカケホ」と、その月に利用した高速データ通信容量に応じて段階的に料金が変化するデータ定額サービスをセットにした料金プランを提供する内容となっている。全ての割引を適用した場合、高速通信容量が3GBまでに収まれば月額2980円、最も大きい5GB~20GBでも月額5090円と、大手キャリアとしては非常に安価でスマートフォンが利用できる。段階制のプランを採用した理由は、スマートフォンを使い始めたばかりの学生はあまり通信量を使わない一方で、使い慣れたユーザーは大量に使うなど極端な傾向が見られるからだという。

18歳以下が対象の「学割天国U18」は、条件は厳しいものの使用した高速データ通信容量に応じて月額2980円から5090円に変化するなど柔軟性が高く使い勝手がよい仕組みだ。写真は1月11日のau発表会より

「3GBで2980円」という価格だけを見ると、MVNOやワイモバイルに匹敵する安さだ。KDDIの田中孝司社長は発表会の場でも「究極の学割を作りたい」「格安スマホの領域にチャレンジする」と話しており、今回の学割はかなり思い切った施策であることが分かる。

加えて田中社長は、これだけ安い月額料金ながら、若い世代に人気が高いiPhoneの最新機種を利用できることや、同時に発表された修理やデータの復旧をサポートする「auスマートパスプレミアム」が、今年12月まで無料で利用できることをアピール。大手キャリアならではの充実したサービスをMVNO並みの料金で利用できるという優位性で、18歳以下のユーザーを獲得したい考えだ。

ただし、学割天国U18を月額2980~5090円で利用するには、指定の固定回線を利用し、「auスマートバリュー」を適用すること、家族もauに新規加入し指定の料金プランを契約することなどハードルは高い。全ての割引が適用されない場合、段階制というメリットは維持できるものの、月額料金は5390~7500円と、通常の料金プランと比べてあまり安くならないことは留意しておくべきだろう。

競争環境変化で純粋な新規加入者を最優遇

一方で、19~25歳のユーザーに向けた「学割天国U25」は、学割天国U18と比べてかなり差がある。

具体的には、新規・機種変更を問わず、高速通信容量が20GB以上の「データ定額20」「データ定額30」を契約すれば26歳の誕生月まで毎月500円を値引くという内容だ。「学割モンスターU25」や「ドコモの学割」などとに比べ割引額は小さいものの、より長い期間、割引が受けられる。だが“究極”と意気込む学割天国U18の充実度合いと比べ、非常に見劣りしてしまう。

19~25歳を対象とした「学割天国U25」は「データ定額20」以上を契約した場合、通信料を毎月500円値引くのみで、学割天国U18とは内容が大きく異なる。写真は1月11日のau発表会より

auやソフトバンクはなぜ18歳以下と19歳以上にここまで大きな差をつけたのか。そこには、最近の市場動向の変化が大きく影響していると考えられる。16年、一連の総務省の施策により、番号ポータビリティ(MNP)で乗り換えるユーザーを優遇した端末の実質0円販売が事実上禁止された。その結果、3キャリア同士でユーザーを奪い合う競争は困難となった。日本のほぼ全ての人たちに携帯電話がゆきわたり、キャリア間での奪い合い競争ができなくなった今、新規ユーザー獲得の機会が劇減しているのだ。

このような中、貴重な新規ユーザー獲得の機会となっているのが、新入生がスマートフォンデビューする春商戦なのだ。だが、新入生の中でも純粋な新規ユーザーは小・中学生、せいぜい高校生くらいまでだ。

端末割引による乗り換えユーザーの優遇施策が実施できなくなった現状、キャリアはすでにスマートフォンデビューを果たしている大学生などよりも、これからスマートフォンデビューする低年齢層を狙う必要が出てきた。そこでauは18歳以下を優遇する学割施策を打ち出したのだ。

若い世代を巡ってはMVNOも競合に

さらにもう1つ、最近MVNOが急速に台頭していることも大きく影響している。実際、田中社長は発表会後の囲み取材で「MVNOとキャリアの商戦期が重なってきている」と話している。

従来MVNOの主なユーザー層は30~40代男性であったため、春商戦への影響はほとんどなかった。だが最近は、キャリアの端末価格の高騰を嫌い、MVNOへと流れる動きが加速している。子どもに月額料金が安いMVNOのサービスを利用させようという親が増えてきていると考えられる。

そうした動向を示す一例として、MVNOの1つであるLINEモバイルが16年12月21日に発表したサービス開始後3カ月間の利用動向を見てみると、契約者は30~40代が多いものの、同年代の利用者数は契約者数よりも少なく、一方で10代の契約者数は少ないものの、利用者数はある程度のボリュームがあることが分かる。

LINEモバイルサービス開始3カ月後の、契約者・利用者の年齢分布(プレスリリースより)。契約者は30~40代が中心だが、利用者は10代にも山がある

ここからは、30~40代の親世代が、10代の子ども世代がスマートフォンを利用するための回線としてLINEモバイルを選んでいることが推測できる。そして最近のMVNOの人気や知名度の拡大に伴い、このような動きはLINEモバイルだけでなくほかのMVNOにも広がっていくと考えられる。

低年齢の児童や生徒を持つ親世代ほどコスト意識が高く価格を重視する傾向が強い。それだけに、auとソフトバンクはMVNOに新規顧客を奪われないように、特に低年齢層の利用料金を安価にする学割施策を打ち出したのだ。

キャリア間の奪い合い競争の停滞は、新規顧客を獲得すればその後も継続して同じキャリアのサービスを利用してくれる可能性が高いことを意味している。スマートフォンデビューする低年齢層の新規獲得を狙って割引を強化する動きは今後急拡大していきそうだ。

佐野正弘(さの・まさひろ)
 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。

[日経トレンディネット 2017年1月19日付の記事を再構成]