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ハリウッドスターは、なぜトランプ政権が嫌いなのか

日経エンタテインメント!

2017/1/26

 2017年1月20日(現地時間)、ついにドナルド・トランプが大統領に就任。トランプ支持者が熱狂する一方、トランプ政権に反対する人々が、全米各都市でデモを敢行。ハリウッドスターも、集結して気勢をあげた。映画、テレビ、音楽業界のスターやクリエイターたちはなぜトランプ政権を批判し、どう向き合おうとしているのか、米国・ロサンゼルス在住のライター吉川優子さんがリポートする。

1月21日、ワシントンでのデモ行進「ウィメンズ・マーチ」に参加してトランプ批判のスピーチをするマドンナ (c)The New York Times/アフロ

 大統領就任式前夜にニューヨークのトランプ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワーの前で行われた反トランプのデモには、男優のロバート・デ・ニーロや、コメディー番組『サタデー・ナイト・ライブ』でトランプの物まねをやって受けている男優アレック・ボールドウィン、マーベル映画のハルク役で知られる男優マーク・ラファロ、女優のシャイリーン・ウッドリー、シンシア・ニクソン、歌手のシェール、ドキュメンタリー映画作家マイケル・ムーアらが参加。

 デ・ニーロは、「僕は今夜、ここにみなさんと、“過大評価”されている友達と一緒に来られてとてもうれしいです」とスピーチを始めた。1月8日のゴールデン・グローブ賞授賞式でのスピーチでメリル・ストリープがトランプを批判したのに対して、トランプが「メリル・ストリープは、ハリウッドで最も“過大評価”されている女優の1人」とツイッターで反撃したのをからかったもの。メリルと4度共演したデ・ニーロは、「あなたが言ったことは素晴らしかった」と称賛の手紙を送っていた。

 またトランプが、夜中に書きそうなツイートとして、「デ・ニーロのキャリアは最悪だ」「彼はオスカーを返すべきだ。投票は不正操作されている」といった文面を紹介して参加者を笑わせた後、「何が起きようと、我らアメリカ人、我らニューヨーカー、我ら愛国者は、市民の権利のために団結する」と熱く語った。

■ウィメンズ・マーチにセレブも集結

 選挙前のように、ビデオを作って、トランプに対抗しようとする動きも続いている。ロージー・ペレーズやサリー・フィールド、ジェフリー・ライト、ゾーイ・カザンらの俳優は、もしトランプ政権が人種差別、性差別、反移民、反組合、反環境保護政策を推進しようとしたら反対するようにと、議会に訴えるビデオを制作した。

 また、ファッション誌のWが制作したのは、グロリア・ゲイナーのヒット曲『I Will Survive』を、今年オスカー候補になりそうなスターたちが、歌ったり、朗読したりするというビデオ。「トランプ政権をサバイブするぞ」という意味合いだ。登場するのは、エマ・ストーン、ナタリー・ポートマン、エイミー・アダムス、フェリシティ・ジョーンズ、ミシェル・ウィリアムズ、タラジ・P・ヘンソン、ナオミ・ハリス、マシュー・マコノヒー、アンドリュー・ガーフィールドなど豪華な顔ぶれだ。

 21日には、トランプ政権に抗議する人々が、ワシントンD.C.、ニューヨーク、ボストン、シカゴ、サンフランシスコなど全米各地のみならず、シドニーやベルリン、パリなど世界各地にも集まり、600以上ものデモ行進「ウィメンズ・マーチ」が行われた。「『女性の権利は人間の権利』ということを、トランプ政権の初日に、そして世界中に知らしめる」というものだ。女性のみならず、すべての性や人種、文化の人々が集まり、女性や移民、LGBTコミュニティーの権利、健康保険の問題など、様々な権利が脅かされていることを抗議した。

 ワシントンD.C.で行われた最大のマーチは、予想を大幅に上回り、50万人以上が参加。マドンナ、スカーレット・ヨハンソン、アシュレイ・ジャッド、アメリカ・フェレーラ、アリシア・キーズ、シェール、マイケル・ムーアといった映画、テレビ、音楽業界のスターやクリエイターも加わった。

 マドンナは、「イエス、私は激怒しているわ。何度もホワイトハウスを爆破することを考えたの」と過激発言をし、3度放送禁止用語を連呼。「今回の選挙で善は勝たなかった。でも、最後に善は勝つわ」と言って、2曲歌い、参加者を沸かせた。

 スカーレットは、自分が15歳の時、ニューヨークのプランド・ペアレントフッド(医療サービスNGOの全米家族計画連盟)を訪れた時、初めての産婦人科でナーバスになっていた彼女にとても優しく対応してくれた経験を話した。「定期検診をしてくれて、もっと年上になったら、性病やがんの検査もしてくれる安全なところ」と、中絶に反対するトランプ政権になり、資金援助を断ち切られることが危惧される機関を擁護した。

 そして、「トランプ大統領。私はあなたに投票しませんでした。でも、あなたが私たちの大統領に選ばれたことをうやまい、あなたを支援できればと思っています。でもまずは、あなたが私を、私の姉を、母を、ここにいる全ての男女を支援するようにお願いします。そして、私の娘を支援してください。あなたの任命の結果、娘は、前進するのではなく、後戻りする国で育つことになるかもしれないんです。自分の体や未来を自ら選ぶという、あなたの娘イバンカが受けた恩恵を、娘は受けることができなくなる可能性があるんです」と熱く訴え、大きな拍手を受けた。

 ナタリー・ポートマンやマイリー・サイラス、ジェーン・フォンダらが参加したロサンゼルスも50万人以上、ボストンは約12万5000人、全米で計300万人以上が参加したとみられ、新政権を懸念する人がどれほど多いかを改めて印象づけた。

 また、ユタ州パークシティーで開催中のサンダンス映画祭では、コメディアンのチェルシー・ハンドラーが先導して、「ここユタで、クリエイティブ・コミュニティーが、ワシントンのマーチと共に立ち上がる機会」として、メインストリートで「ウィメンズ・マーチ」が行われた。シャーリーズ・セロン、初の短編監督作を上映したクリステン・スチュワート、マリア・ベロらの女優や、歌手のジョン・レジェンドらが参加した。

■ジョン・ボイトはトランプを賛辞

 一方、親トランプ派はどうか。ハリウッドに多くはいないが、19日の大統領就任コンサートでスピーチしたアカデミー賞俳優ジョン・ボイト(アンジェリーナ・ジョリーの父親)は、熱狂的なトランプ支持者。「アメリカは、宗教や人種に関係なく、すべての人々のために働く正直で良い人に救われたことを知って、エイブラハム・リンカーンはほほ笑んでいることでしょう」とスピーチしている。

 アレック・ボールドウィンの弟の俳優スティーブン・ボールドウィンも、トランプが製作総指揮、出演したリアリティー番組『アプレンティス/セレブたちのビジネス・バトル』に出ていた親トランプ派で、就任式に出席。「トランプは他の人がどう思うか気にしない。政治家ではないところがいい」と語っている。大統領候補になったトランプに会いに行った歌手カニエ・ウエストも、「投票には行かなかったが、行っていればトランプに投票していた」と言うトランプ派だ。

 トランプを嫌悪する人が多いため、就任式で歌ったがために、仕事を失った歌手もいる。スパイク・リー監督は、『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』のテレビシリーズ版に、クリセット・ミッシェルの歌を使う予定にしていたが、彼女がトランプのために歌ったのでやめることにしたと表明。リーは、バーニー・サンダース支持者だった。

 実は、ハリウッドの保守派の人たちが集まる「ザ・フレンズ・オブ・エイブ(The Friends of Abe)」という秘密クラブがあった。『フォレスト・ガンプ』への出演などで知られる俳優ゲイリー・シニーズによって2004年に作られ、12年には1800人もメンバーがいたという。会員名は極秘になっているが、トランプのキャンペーンを積極的に手伝ったボイトや歌手のパット・ブーン、テレビのコメディー・ドラマ『フレイジャー』の出演俳優ケルシー・グラマーらがいることがわかっている。しかし、トランプを応援するかどうかで内部分裂が起きたようで、16年4月に突然解散している。リベラル派が多数のハリウッドで、トランプ支持だと言うと仕事に影響する心配があるため口にはしないものの、こっそり支持した人たちは、意外といるのかもしれない。

■反体制、反権力はハリウッドの伝統

第74回ゴールデン・グローブ賞授賞式でのメリル・ストリープ。授賞式は海外ドラマ専門チャンネルAXNで、2月25日(土)深夜0時から放送 (c) HFPA, Golden Globe Awards

 反トランプ政権に気勢をあげるハリウッドスターだが、なぜ声をあげて批判を続けるのか。

 もともと民主党支持者が多いハリウッドでは、ヒラリー・クリントン支持者が圧倒的に多い。トランプ批判はキャンペーン中からずっと続き、選挙後、そして就任式に向けて、抗議の声は大きくなる一方だった。

 イスラム教徒やメキシコの人々、アフリカ系アメリカ人や女性に対するトランプの差別的発言や、環境問題に対するスタンスを見ても、リベラルなハリウッドの人々が抗議するのは当然だろう。トランプの閣僚の人選を見ていても、マイノリティーや女性、LGBTコミュニティーに手を差し伸べようとしていないことは明らかだろうし、閣僚に1人もラテン系アメリカ人がいないという多様性の欠如にも驚かされる。トランプのマスコミに対する攻撃を見ていると、言論の自由まで脅かされるのではないかと不安が募ってくるのは、セレブたちだけではあるまい。

 スターが政治的なことを主張すると、「大金持ちのハリウッドスターに、私たちの生活苦など理解できないだろう」と庶民に思われ、逆効果だと指摘する人もいるだろう。しかし、スターも一市民、彼らにだって当然意見を言う権利があるし、やはりスターが参加することで、人々の注意をより喚起することができるのは間違いない。

 昔から移民が活躍しているハリウッドでは、ゴールデン・グローブ賞授賞式でメリル・ストリープがスピーチしたように、今も「アウトサイダーや外国人がそこここにいる」。俳優はいろんな役柄を演じるので、自分とはまったく違う人たちの気持ちを理解し、感情移入しないといけない。そのため、他人に対する思いやりが必要とされる。それは、監督や脚本家、プロデューサーも同じこと。彼らは皆アーティストで、何よりも「言論や表現の自由」を重視する。スターは当然大金持ちにもなるが、もともと金もうけを第一に考えて仕事を選んだわけではなく、やはり情熱でクリエイティブな仕事を選んだ人が大半なのだ。

 また、反体制、反権力というのもハリウッドの昔からの伝統。1950年代のマッカーシズムによる赤狩りをテーマにした映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』ではその源流ともいうべき時代が描かれている。その反権力の流れは、最近つくられた『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』といった娯楽超大作にまで続いている。

 マイケル・ムーア監督は、デモ参加者に「毎日、議会に電話をして憂慮していることを表明すること」と、「これから100日間にわたって、抗議を続けること」を懇願していた。大統領になったトランプが、実際どういう行動を取ることになるのか、ハリウッドはかたずをのんで見守っている。(敬称略)

(ライター 吉川優子)

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