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浅田美代子で目覚め、AKBグループで「冬眠」脱す なんてったってアイドルの追っかけはやめられない♪前編

2017/1/27

左手で見事に「挑戦」と書き上げるMenkoiガールズのリーダー、ユウキさん

世は空前のアイドルブームだ。AKB48グループの総選挙が毎年注目され、昨年はSMAPの解散も大きな反響を呼んだ。男性や女性アイドルのコンサート会場に老若男女のファンが集い、今やアイドル文化は日本が世界に発信する「クールジャパン」の象徴でもある。社会的な認知度も高まっているとはいえ、中高年になると「趣味はアイドル」とはなかなか公言しにくい。だが、ファンの遍歴から最近の追っかけ事情、涙ぐましい努力などを包み隠さず打ち明けるので、しばしお付き合いのほどを。

■斉藤由貴を見たくて木に登る 今のイチ推しはNMB48の山本彩

筆者が最初に夢中になったのは浅田美代子さん。小学校のクラスの友達から「赤い風船」のレコードをもらったのがきっかけだ。テレビ画面で輝く彼女の笑顔。天使は確かに存在した。

中学から高校時代は対象が松田聖子さんに移る。私の住んでいた福井県にはめったに来なかったが、たまにあったコンサートは楽しんだ。当時は男性ファンが多く、コールと呼ぶ掛け声も絶叫系だった。コンサートが終わると声がかすれていた。

筆者が保管している菊池桃子さんのシングルレコードと使わなかった握手券

その後、菊池桃子さんや斉藤由貴さんを追いかける。高校3年の夏に福井市内であった菊池桃子さんの握手会。レコードを2枚買って握手券2枚。1枚を使って残りの1枚はレコードとともに今でも大切に保管している。

金沢市で過ごした大学生時代。斉藤由貴さんが石川県内で映画のロケをしたときのことだ。ある日の夜、当時、金沢大学のキャンパスがあった金沢城の「石川門」前でロケをしていた。「なんとか由貴ちゃんがみたい」と思った筆者は反対側の門の内側から木に登って、様子をうかがった。ようやくロケ現場が見えたが、強烈なライトがこちらを照らす。まぶしくて由貴ちゃんがみえない。しばらくすると、撮影スタッフから「そこの木の人、下りてください」と声がかかった。あわてて下りてその場を離れた。ほろ苦い思い出だ。

斉藤由貴さんのコンサートにも遠征し、大阪、名古屋と出かけた。名古屋のコンサートは大事なテストの前日だった。結果、試験は通らず、留年の憂き目に遭う。もちろん、コンサートのせいではなく、自分の力不足のせいだ。

松田聖子さんの出産休養後の復帰コンサートにも遠征した。友人と2人、高速道路を利用するお金をけちって、国道8号線を長時間かけて大阪へ車を走らせる。会場の大阪城ホールは超満員。女性ファンが多かった印象だ。休養前と少しも変わらない、つややかな彼女の歌声は運転の疲れを吹き飛ばした。

1990年にこの会社に入った後、活動は長い「冬眠期」に入る。仕事が忙しかったこともあるのだろうが、飛び抜けた人気の子がいない「アイドル冬の時代」でもあった。

転機が訪れたのは2009年。プロ野球の巨人対広島を観戦するため、来ていた東京ドームでのことだ。まだ人が少ない試合開始前にAKB48が新曲を歌い始めた。球場内に響きわたる「涙サプライズ!」。さーっと頭をよぎる昔のときめき。友達の誕生日をお祝いする歌詞で、眠っていた筆者のアイドル愛も再び目覚めてしまった。

今では幅広いアイドルのコンサートを楽しむ日々。イチ推しは大阪を本拠とするNMB48の山本彩さんだ。昨年11月にあった山本さんのソロコンサートも大阪にはせ参じた。遠征費を抑えるため移動は高速バスを愛用しているが、腰痛がこたえるようになった。

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■握手券のためCDを大量買い 双眼鏡とペンライト、立ったままの応援はつらく

松田聖子さんの時代と違い、最近のアイドルは身近になった。人気グループのメンバーでも握手会や撮影会で気軽に話しかけることができる。

AKB48グループのイベントで筆者は主に、専用のサイトから申し込む「個別握手会」に参加する。新曲発売のたびに東京や大阪で5、6回開催する。チケットに日時と会場、メンバー名が書いてあり、指定の日時に握手できる。数量限定だが、店で買うCDにも「全国握手会」の参加券がついている。時間指定ではなく、予約も不要だ。

ちなみに、握手会参加のために購入するCDは、自分で聴く分以外はPRの一助になればと知り合いに配っている。

握手会の「個別」と「全国」の違いは、例えるならほとんど待ち時間がない近所の予約制の歯科医か、予約や紹介状なしで大病院を受診して長時間待たされるかの違いだろうか。「全国」の場合、握手できるまでの時間が分からないのだ。

発売情報を逃さないため毎日のホームページチェックは欠かせない。CD発売から5カ月後に握手会があることも。さすがにそんな先の予定は全く読めない。仕事と重なり、持っていた大量の握手券がただの紙になることも多い。アイドルおたくの言葉で握手券を使わないのを「干す」と呼ぶが、こちらが干される気分だ。

AKBグループの握手会会場。入り口で手荷物検査と金属探知機でチェックを受ける

会場に到着してからもハードルは多い。荷物検査の後、係員がハンディータイプの金属探知機でチェックする。こんな厳重な警備が始まったのは2014年に岩手県であったAKBメンバー襲撃事件がきっかけだ。事件後に握手会が再開された時のこと。筆者は金属を身につけていないはずなのにブザーが鳴る。探知機の感知レベルが最大だったのだろうか、上着のポケットに入っていたガムの包み紙に反応していた。空港以上の厳戒さに驚いた。

握手会は体力と気力の勝負でもある。人気メンバーは握手を待つファンで長蛇の列。時間指定とはいえ、並び始めてから握手するまで30分以上かかるのも珍しくない。列に並んでいる顔ぶれもメンバーによって様々だ。私のような中年男性がほとんどの列がある一方、女性比率が半数近くというメンバーもいる。列に並ぶ客層もメンバーの個性を反映しているようだ。

首都圏の場合、握手会会場は幕張メッセやパシフィコ横浜といった大型展示場が多い。休憩を挟むとはいえ、硬いコンクリートの会場で1日中立っていると膝と腰にくる。疲れているときは2、3時間ほどで会場を後にすることも。もったいないが、使わなかった握手券はやはり紙になる。

プロ野球の世界で、コンクリートの上に直接置いただけの人工芝は、足に負担がかかって選手寿命を縮めかねないともいわれる。なるほど、この理屈が身にしみてよくわかる。

ペンライトとタオル、双眼鏡はコンサートの「三種の神器」。特に大きな会場になると双眼鏡は欠かせない

コンサートのチケット争奪戦も激しい。東京ドームなど大きな会場だと、苦労して入手しても2階後方の天空席の場合もある。アリーナ席ステージ最前列も、2階後方の席も同じ値段という悲哀。

ステージが遠い場合、巨大な双眼鏡を取り出し鑑賞する。前の席にいた誰かがこちらをみて言った。「山本五十六だ」。筆者の姿が連合艦隊司令長官のようにみえたのか。双眼鏡から見えるのは平和で楽しい光景なのだが。50歳になった今、左手に双眼鏡、右手にペンライトを持ち、立ち続けての応援はつらくなってきた。

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■群雄割拠の戦国時代に 幅広い層引きつける特技必要

昨年12月、上武大学の田中秀臣教授に「注目しているアイドルのライブがあるので一緒に行きませんか」と誘われた。23日、JR品川駅からほど近い東京アイドル劇場を訪ねた。月に2回程度開く仮設の舞台だ。専門分野以外に「AKB48の経済学」(朝日新聞出版)、「ご当地アイドルの経済学」(イースト・プレス)といった著作がある田中先生。頻繁にライブに訪れているという。最近は「2017年最も注目する入魂のアイドル」と絶賛する鈴木花純(かすみ)さん、「WHY@DOLL(ホワイドール)」、「あヴぁんだんど」の出るライブか、東京アイドル劇場の4極で楽しんでいるそうだ。

東京アイドル劇場の収容人数は立ち席も含め135人。月に2回、アイドルが30分ほどのステージで代わる代わる出演、1日に8~10公演している。劇場の主催者の一人、ノトフさん(ハンドルネーム)は「ライブハウスのイメージと違う空間で、ライブに行ったことない人にも来てほしい」と話す。

2010年からたくさんアイドルを見てきたノトフさん。100人以下の規模で単独ライブできる会場は少なかった。会場のレンタル料金も高い。ファンがまだ多くないアイドルにとって自前での劇場開設も難しい。そこで場所を借りて30分単位という小分けにすることで公演しやすくしたという。

田中先生の今日のお目当てのグループの1つは「ICE CREAM SUICIDE」。楽しいライブで30分はあっという間だ。終了後、田中先生が客席を見渡しつぶやいた。「10代後半から40代までファンの年齢のバランスがいい。女性も多く、これは伸びる」。筆者も大きくうなずいた。

「Chelip」にサインを書いてもらう筆者

12月11日の夜に東京・新宿の会場で鳥取出身の2人組「Chelip(チェリップ)」のイベントが開かれた。新曲の発売やメンバーの誕生日を祝うイベントだ。Chelipは井次麻友さん、藤井美音さんの2人組ユニットで2012年にデビューした。自分達で企画し、常に全力投球するパフォーマンスが注目されている。筆者は2人の歌のうまさと会場内の盛り上がりに感動した。

6枚目となるCDのタイトルは両A面の「it's SHOWTIME / KeepOn」。ディスクユニオンのアイドルレーベル「doles U(ドレスユー)」の第3弾アイドルとして発売した。CDは1枚1500円。楽曲は同じでジャケットの写真が2種類ある。購入枚数に応じて特典も増える。

筆者はディスクユニオンの担当の藤原あゆみさんにお願いし、CD販売を手伝った。次々にCDが売れていく。複数枚、購入する人が多い。4枚購入した40代後半の男性は「アイドルとの距離が非常に近いのが魅力。一緒に成長を見守る感じがいい」と話す。

筆者もCD2枚を購入。インスタントカメラ「チェキ」での撮影とジャケットにサインしてもらう。アイドルと話すのはやっぱり楽しい。このイベントには前日に鳥取県であった公演に参加したという熱烈ファンもいて驚いた。お土産のお菓子もファン仲間に配っていてほっこりした気分になった。

アイドルブームの盛り上がりは大都市だけではない。全国各地に「ご当地アイドル」が増加、地域おこしに一役買っている。日本ご当地アイドル活性協会の金子正男代表によるとその数800超。金子さんお薦めの1つが群馬県の「Menkoiガールズ」。館林商工会議所や地元JAの公認を受けている。16年8月に「汐留ロコドル甲子園2016」で優勝し、全国のご当地アイドルの頂点に立った。

「今年の集大成です。心を込めてパフォーマンスしてください」。12月18日の朝。館林商工会議所の3階で「Menkoiガールズ」のミーティングが始まった。仕切るのは書道教室の指導者の内藤典宏代表だ。会場内への機材の運び入れや設営、物販などすべてをメンバーの保護者が担当する。

歌いながら書道を披露するパフォーマンスが売り物。文部科学大臣賞をはじめ全国大会で上位入賞したメンバーも多い。歌の最中にリーダーのユウキさんが客席に向かって掲げられた透明な板に見事な文字を書き上げる。客席から読めるよう利き手と反対側の左手を使う。アイドルのすごさを痛感した。

全国各地で毎日、大小様々なアイドルイベントが開かれている。埋没しないためには歌やダンスのうまさや、かわいさ以外の特技も必要なようだ。

(日本経済新聞夕刊「体験学」で、商品部・村野孝直が連載したものを加筆、再構成しました)

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