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リーダーの母校

東大アメフト部で学んだ「勝つことよりも大切なこと」 小宮山宏・三菱総合研究所理事長が語る(下)

2017/1/30

元東京大学総長で現三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏(72)が語る、東京大学アメリカンフットボール部時代の思い出。東大の運動部としては最強だったが、やはり他大学との試合では思うように勝てなかった。しかし、小宮山氏は、「勝つことよりも大切なことをアメフト部で学んだ」と強調する。

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■一番の思い出は、連敗を止めた明治大学との一戦だった。

私が2年生と3年生の時、東大アメフト部は2部リーグで2年連続優勝。3年生の時は入れ替え戦にも勝ち、4年生の時に1部リーグに昇格しました。ところが1部では、初戦から連戦連敗。5戦目の明大戦で勝利し連敗を4で止めたのですが、その試合の記憶は今でも鮮明によみがえってきます。

雨の降る中、前半最後のプレーでした。明治の、相手の裏をかくリバースプレーに全員がつられ、ボールを持った明治の選手の前にいた東大の選手は、ラインバッカーをしていた私だけ。その時の私には、相手のリバースの動きがはっきりと見えたのです。相手の攻撃を止められるのは、もはや自分しかいない。必死でタックルしたら、見事に決まりました。その瞬間、目に泥水が入ったことまで、今もはっきりと覚えています。

試合は14対6で勝ちましたが、あのタックルが決まっていなかったら、試合の流れからして、おそらく逆転されていたことでしょう。4年間で私のベストプレーでした。

結局、最後のシーズンは2勝5敗という残念な結果に終わりました。ただ、東大アメフト部の4年間を通じ、確かに試合に勝つことは重要だが、世の中には結果よりもはるかに大切なことがあるということを、私は学びました。それは、仲間と一緒に共通の目標に向かい、一生懸命努力することです。私にとってかけがえのない経験でした。

■東大卒業後は研究者の道に進み、教授、学部長などを経て、2005年、第28代東大総長に就任した。

「たくさん変わった人が集まって、卒業後は様々な分野で活躍する多様性。それこそが東大アメフト部の強み」と話す

東大アメフト部には、私のような工学部の学生も入れば医学部もいます。法学部も文学部もいる。1年上の医学部の先輩は練習中よく脱臼していましたが、自分で器用に戻すのが見ていて面白かった。それは余談ですが、他学部の人たちと深く付き合ったことで、視野が広がり、多様な意見を自然に受け入れる訓練にもなったと思います。

例えば、副学長時代、企業に就職したアメフト部の同期が大学に遊びに来たことがありました。すると彼が、どうして東大にはこんなに大きな経理部があるのかと私に質問してくるのです。別に問いただそうとしたわけではなく、単純に疑問に思ったのでしょう。調べてみると、確かに、東大の経理部は肥大化していて、そしてその理由は、会計検査に通るためでした。

こういったことは、ずっと大学にいてはわかりません。普段から自分とは異なる世界の人たちと付き合い、何でも気兼ねなく聞いたり言ったりできる関係があるからこそ、気付くことだと思います。

総長時代、大学と大学院で分かれていて非効率だった入試課を統合しましたが、これも企業の人たちと普通に話をしている中からヒントを得たものです。

また、私は総長時代から、個々が自由に活動しながら全体としては協調する「自律・分散・協調系」の組織を東大や日本社会は目指すべきだといろいろなところで言ってきましたが、その発想は、私が東大アメフト部で経験したことと同じだなと思っています。

■今でも1年に2回、同期が集まる。

私の代は、最後までアメフトを続けたのは私も入れて7人。この7人は今でも年に2回、集まって酒を飲んでいます。いつもだいたい全員集まります。途中で退部した人たちや、年の近い先輩や後輩も顔を出しています。

集まると、やはり、それぞれ違う分野で活躍してきた人たちなので、いろいろな話が聞けて面白い。昔話もしますが、年に2回も集まると、それだけでは話が持ちません。トランプ米大統領の話だとか、本当にみんなが興味を持っている話題で、いつも盛り上がっています。

東大アメフト部のOBの中には、最初に名前を挙げたように経済界で成功を収めた人も大勢いますが、東大アメフト部の本当にユニークなところは、経済人を含めていろいろな変わった人がいることだと思います。

同期の中には、有名外資系会社のトップを歴任した後、オーストラリアに移住し、同期会にはいつもオーストラリアから駆けつけてくる人がいます。また、退職後に趣味で農業を始めた同期もいます。この前一緒に飲んだら、せっかく作物を育てても、もらってくれる人がいないのが悩みと言っていました。農産物は工業品と違い、できる時は一気に大量にできてしまう。しかも、周囲の農家も同じものを同じ時期に作るので、ますますもらってくれる人を探すのが大変という話が、とても面白かった。

3年後輩ですが、会社員を辞めた後、鍼灸(しんきゅう)師としてアメフト部のチームドクターになった人もいます。アメフトは常にけが人だらけなので、とても助かっているようです。

そうした、たくさんの変わった人たちが東大アメフト部の門をくぐり、そして卒業後は様々な分野で活躍する多様性。それこそが、東大アメフト部の強みではないでしょうか。

インタビュー/構成 猪瀬聖(ライター)

前回掲載「東大最強の運動部 アメフト部はリーダーの苗床」では、多彩な人材を輩出するアメフト部ですごした日々を振り返ってもらいました。

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