今年もバレンタインデーを前に、百貨店や専門店の店頭にはバレンタイン向けのチョコレートが並び始めている。しかし、日本記念日協会(長野県佐久市)によると、2016年、バレンタインデーの市場規模はハロウィーンに追い越されたという。2015年、16年はバレンタインデーが週末に当たったことから義理チョコを配る需要も減り、その存在感が薄くなっているともいわれている。
しかし、一方で、チョコレートの消費量は伸びている。明治によると2016年のチョコレート市場は前年比6%増の5359億円。日本チョコレート・ココア協会の「チョコレート製品国産・輸出入・消費推移」をみると、チョコレートの1人当たり年間消費量は1985年に1.33kgだったのに対して、2015年は2.01kgと2kgを超えた。
その一翼を担っているのが、こだわりのチョコレートを好む男性の存在だという。「甘いものが苦手」といわれてきた男性が、なぜチョコレートを好むようになったのか。
サロン・デュ・ショコラ東京も男性来場者増加
バレンタインシーズンになると百貨店は特設会場を設置し、通常は出店していないブランドや、国内に店舗がないメーカーを招へいするなど、通常より多くの商品をそろえるようになる。
中でも別格の存在として知られるのが、三越伊勢丹が主催する「サロン・デュ・ショコラ東京」。すでにデパートの催事コーナーを飛び出して、新宿NSビルで開催されていたが、15回目となる2017年は会場を東京国際フォーラムに移し、規模も前年の1.5倍に成長した。
例年は1月中旬に行われるが、2017年のみ、バレンタイン直前の2月2日から5日までの4日間に開催される。東京に集結した世界トップレベルのショコラティエが、それぞれの作品を競い合い、最高水準のショコラと出合えるイベントだ。
もともとサロン・デュ・ショコラはパリで毎年秋に開催されている「チョコレートの祭典」。世界中から最新のチョコレートが出展され、コンテストも行われる、2016年で23回の歴史を持つ展示会イベントだ。日本以外にも2017年1月の韓国・ソウルから2017年11月のモスクワまで世界中で開催される。
「サロン・デュ・ショコラ東京は、世界中の優れたショコラを紹介することで日本にチョコレート文化を広め、ショコラの価値を高めることが目的です」と秋山さんは語る。「『最先端』『未来志向』のショコラを発信し、作り手・ショコラティエの技術水準を高めるとともに、消費者のショコラに対する感度や知識水準の向上に貢献することを目指しています」
このサロン・デュ・ショコラ東京にも最近、男性の来場者が増えているという。秋山さんによると「男性の買い上げ単価は女性の115%程度」。ちなみに「20代から30代の若い来場者も増えている」そうだ。
「チョコが好き」と言いづらい風潮があった?
日本では「男性は甘いものが苦手」というイメージもあるが、それではチョコレートの本場・フランスでは男性とチョコレートの関係はどうなのか。1977年にパリで創業したラ・メゾン・デュ・ショコラの日本支社ラ・メゾン・デュ・ショコラ・ジャポン(東京都渋谷区)のジャパン ディレクターのフレデリク・ジェダさんに聞いた。ラ・メゾン・デュ・ショコラは1998年に東京・表参道に進出し、現在日本国内で8店舗を展開している。
日本語を流ちょうに使いこなすジェダさんは「フランスでのチョコレートは暮らしに欠かせない必需品の一つ」と語る。
「ヨーロッパでは、長い歴史の中で生活や文化に密着しており、街中にも多くのチョコレート店があります。みんなそれぞれ、お気に入りのチョコレートを持っているほどです。特に家族で集まるクリスマスには贈り物にも自宅用にもチョコレートは必需品ですし、クリスマスの次に大きなイベントといえるイースターでもエッグハントで卵型のチョコレートを集めたりします。子供から大人まで、楽しくうれしい思い出と共にある、最も代表的なスイーツといえます」
日本でもオフィス街にあるラ・メゾン・デュ・ショコラ丸の内店には男性の顧客も多く訪れる。「日本でも男性の高級チョコレートの興味は高まっている」というジェダさんは、日本人男性も昔から、チョコレートを好きだったが、「男性は甘いものを食べない(その方が男らしい)」という風潮の中で、公言しにくかっただけではないかと考えている。
「ワインのブームと一緒に食文化が広く知られるようになり、ワインやコーヒーなどの知識を深めた方々の中からヨーロッパのように普通にそれらの飲み物に合わせてチョコレートを食べる習慣もひろまってきて、みんなが自由にチョコレートを楽しめる時代に入ったといえるのではないでしょうか」
そんなジェダさんに、ラ・メゾン・デュ・ショコラの中で男性にお薦めのチョコを尋ねてみたところ、「キャビア&ウォッカ」と「トリュフ」という答えが返ってきた。「キャビア&ウォッカ」はフレーバーにキャビアとウオッカを用いた新作チョコレートだ。
「ウオッカやキャビアといった男性になじみのある高級嗜好品とトリュフを組み合わせることで、シガーやワインのような大人の男性をイメージさせ、“甘いスイーツ“だけではない切り口から入っていただけるのではないでしょうか。滑らかな口溶けのリッチな味わいを持つトリュフは、お酒やお茶など様々なシチュエーションにも合わせやすい商品です。家族や大切な人との時間にも、ご自身のリラックスタイムにもご利用いただけると思います」
大手メーカーも“大人”を意識
日本の大手メーカーのチョコレートも変わりつつある。
チョコレート売り上げが毎年右肩上がりで増えている明治。同社菓子マーケティング部の佐藤政宏さんは、その理由の一つに「チョコレートを食べる習慣に変化がある」とみている。
「チョコレートは長らく『子供のおやつ=甘いお菓子』として存在していましたが、最近、ワインやコーヒーのような大人の嗜好品としてのニーズが増してきているようです」。大人がチョコレートを食べるようになっているわけだ。
2016年9月にリニューアルして発売した「明治 ザ・チョコレート」では、カカオの産地から厳選を重ね、製造工程にもこだわり抜き、パッケージもクラフト感の強いデザインに一新。チョコレートの大きさやカタチの違いにより感じられる食感や香り、味わいの変化を楽しめるようにしたところ、2016年12月時点で目標の約2倍の売り上げを達成した。佐藤さんも「これには驚きを感じている」という。「日本のチョコレート文化も嗜好品として楽しむ要素が強くなっていくのかもしれません」
明治は「サロン・デュ・ショコラ東京2017」で「明治 ザ・チョコレート」シリーズを初出展する。ブースではカカオ豆の焙煎(ばいせん)までの工程を体験できるエリアや、現地から取り寄せた本物のカカオの木や実の展示など、さまざまな体験コーナーを展開する予定だ。また会場限定で、世界でも希少といわれるメキシコ産の“ホワイトカカオ”を使用した「明治 ザ・チョコレート メキシコホワイトカカオ」 を数量限定で発売する。
ワイン・コーヒーのように「語る」楽しさがあるチョコレート
「チョコレートと男性の相性はいいのではないか」。三越伊勢丹の秋山さんはそう考える。
チョコレートは嗜好性が強く、趣味的な要素がある。歴史を勉強したり、いろいろなショコラをテイスティングしたりすることで知識と経験を蓄え、うんちくを語ることもできる。そういう点が男性に向いているというのだ。
同様に語ることを楽しめ男性に人気の高いワインやコーヒーは「素材・原料」がしめる要素が強い。しかし、ショコラはそこに「ショコラティエの技術」が加わる。それだけに難しいが「はまると楽しい」と佐藤さん。
サロン・デュ・ショコラ東京をはじめ、世界中から珍しいチョコレートが集まるこの時期は、新たな知的刺激が得られる絶好の機会。今年のバレンタインは贈られるのを待つのではなく、男性も自分から積極的に楽しんでみてはいかがだろう。
(ライター 北本祐子)