増やせ「IT女子」 先達が後進指南、お手本は世界今年、動き出す(中)

2017/1/14

まだまだ少ないとされるIT(情報技術)系の仕事に就く女性。手本になる人や身近な相談相手がいないなど課題が多いなか、先達が後進支援に乗り出した。2017年に本格化する「女性×IT」の新たな動きを紹介する。

米国発のWITI、昨年9月に日本支部立ち上げ

WITIのメンバーと話す財部友希さん(中)(東京都港区)

「理工系の仕事に就く女性の活躍を後押しする輪を広げていきたい」。こう意気込みを語るのは、ネット広告やウェブサイト解析の開発を手がけるIT系ベンチャー企業、グラッドキューブ(大阪市)の最高執行責任者(COO)の財部(たからべ)友希さんだ。ITなどテクノロジー業界に関わる女性を支援する米団体、「Women In Technology International(WITI)」の日本支部を昨年9月に立ち上げ、代表として日々、奔走している。

WITIは米ロサンゼルスで1989年に立ち上がった。英国やメキシコなど14カ国で活動する。IT業界などで活躍する女性たちがつながる場をつくり、後輩がキャリアアップできるようにアドバイスするなど支援している。

日本の理工系の仕事に就く女性の間でも、WITIを参考に女性活躍を後押ししたいとの思いが強まった。財部さんをはじめ、企業勤務経験を様々に積んだり起業したりした女性4人が、WITIの日本支部を立ち上げた。

WITIの設立イベントで討論するパネリストら(東京都港区)

活動の目標の一つは理工系の女性同士の情報交換だ。日本では理工系の仕事に就く女性はまだ少数。キャリアの積み上げ方や仕事と家庭の両立など試行錯誤で臨まなければならないことも多い。

昨年12月17日の設立記念イベントでは、IT系をはじめさまざまな分野で働く女性らが約100人参加。登壇者と参加者という関係を越えて、自らのキャリアを語りあった。参加者の一人で子どもを持つ母親向けのインターネットメディア「ママプラ」を運営する熊本薫さん(31)は、「IT企業で子育てをしながら、キャリアを大切にして働く人の話を聞き、2人目を産んだ時にどういう働き方が選べるか想像しやすくなった」という。熊本さんは小学生の娘1人を育てているが、立場によってキャリアアップにも様々あることが参考になった。

WITIの設立イベントで話を聞く参加者ら(東京都港区)

理工系でキャリアを積み上げるため、先駆的な実績のある女性のアドバイスもあった。登壇者のマイクロソフト執行役の伊藤かつらさん(52)は、失敗を恐れず挑戦し続けることの大切さを強調しつつ、「男性思考になりすぎてもだめ。女性ならではの強みを生かして」と、IT業界を渡り歩いた自らの経験をもとにアドバイスした。同じく登壇者のネットイヤーグループ社長の石黒不二代さん(58)は、女性の起業について触れ「今、女性に足りないのは自信。上司などから言われた以上のことをやってほしい」と、自ら動くことを促した。

ガールズ・イン・テック、日本オラクルやヤフーなど協賛

理工系の女性を支援する団体は、WITI日本支部以外にも広がる。16年3月には、「Girls In Tech(ガールズ・イン・テック)」が立ち上がった。女性活躍に関心を持つ日本オラクルやヤフーといったIT企業などが協賛。代表の加藤愛子さん(30)も大手空調メーカーに勤める技術者だ。

ガールズ・イン・テックも海外発の団体。07年に米サンフランシスコで設立されたNPO組織で、欧州やアフリカなどに60を超える支部がある。「仕事の話をしたり、アドバイスしてくれたりする女性の先輩や友人がほしかった」という加藤さん自身の経験から立ち上げた。

女性活躍を後押しする団体が次々と誕生することは、働く女性にとっては心強い。理工系の支援団体は今年、活動に加わる層をさらに広げていく。

「女性だけでなく、男性やIT系に携わらない人も巻き込みたい」(財部さん)。WITI日本支部では今後、イベントでは女性だけでなく男性にも参加を呼びかける。中核メンバーの他にアドバイザーとして男性も加えた。「女性だけで何かやっている、とならないようにする」(財部さん)ことが、活動の幅を広げるカギという。

ガールズ・イン・テックも「他の団体と連携を深めていく」(加藤さん)と活動の場を広げる。日本を引っ張る“IT女子”の取り組みは、様々な職種で働く女性の参考になりそうだ。

「女性×IT人材」 日本の経済成長のカギ

人工知能(AI)や(あらゆるモノがネットにつながる)IoTなどの新しい技術を応用する動きが急速に広がっている。企業も積極的に投資し、政府も支援を進めている。しかしこの分野に携わる人材はまだまだ足りず、なかでも女性技術者はごく少数だ。安倍晋三政権が掲げる「一億総活躍社会」では女性活躍が柱の一つとなるが、理工系分野の女性を増やしていくことが経済成長のカギを握る。

理工系に限らず、働く女性が活躍しやすい環境をつくることが重要だが、IT分野で女性の働き手が増えることへの期待は強い。ITなど理工系の仕事は、研究や技術開発など個々の専門領域に負う側面が大きい。「IT系は(出社せず自宅で仕事を進めるなど)リモートで働きやすいため、出産や育児などのライフイベントがある女性にとっては働き方の選択肢が広がる」と経済産業省・大学連携推進室の飯村亜紀子室長は指摘する。

IT・技術系の女性自身も、情報交換や後進の支援に動き出している。理系の女性を指す「リケジョ」という言葉も広く使われるようになった今、女性がより活躍できる働き方を広げていく上で、IT・技術系の女性の取り組みに期待が高まっている。

リケジョ増、母親巻き込め

理系女子(リケジョ)を増やそうと政府や企業は様々な対策を講じる。ただ、大学や、その手前の小中高の時点で理工系を勉強する女性が少ないため、「早い段階での対策が必要」と、飯村室長は強調する。また理学や工学を学ぶ女性はいまだ2割に満たない一方、薬学や看護学を学ぶ女性は半数を占めるといった、人材の偏りもみられる。

経産省のアンケート調査では、女性が進路を選ぶ際に母親の考えが強く影響するという結果が出た。「理工系人材を増やすには、親にも働きかけることが有効」と分析。理系を志す女子生徒を増やすには、本人だけでなくあらゆる分野からのアプローチがカギのようだ。

(光井友理)

〔日本経済新聞朝刊2017年1月14日付〕