10万人以上の日本人を対象に、コーヒー、緑茶、それぞれの摂取量と脳腫瘍発症の関係を調べた研究で、1日3杯以上コーヒーを飲む習慣がある人は、週に4日以下しか飲まない人に比べて、脳腫瘍のリスクが半減していることが分かりました。
40歳以上の日本人10万6000人を平均18年追跡
コーヒーは、カフェインをはじめとするいろいろな成分を含んでおり、様々な病気を予防する効果があるといわれています。日本では、特に高齢者が、コーヒーより緑茶を好む傾向が強く、緑茶が健康に役立つという日本人研究者による報告も続いています。
今回、国立がん研究センターの小川隆弘氏らは、日本全国の11の保健所管内(岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田)に住む人々を対象に、長期にわたって行われたJPHC Study(「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」)の一環として、コーヒーと緑茶の摂取量と、その後の脳腫瘍発症の関係を調べました。
対象になったのは、JPHC Studyに参加した時点で、がんや循環器疾患ではなかった40~69歳の人々で、分析に必要なデータがそろっていた10万6324人です。1990年または1993年から2012年末まで追跡し、脳腫瘍発症の有無を確認しました。
試験に参加した当初に、コーヒーと緑茶の摂取習慣について、質問票を用いて調べました。参加者には、週に1~2日、週に3~4日、1日に1~2杯、1日に3~4杯、1日に5杯以上の選択肢のなかから、いずれか該当するものを選ぶように依頼しました。その結果に基づいて、週に4日以下のグループ、1日に1~2杯のグループ、1日に3杯以上のグループの3群に分けました。
コーヒーの摂取量に基づいて、3群に割り振られた人の数は、週に4日以下が6万1371人(参加時点の年齢の平均は53.3歳、男性の割合は44.1%)、1日に1~2杯が2万8345人(50.1歳、40.0%)、1日に3杯以上は1万2230人(47.9歳、75.0%)でした。
1日3杯以上コーヒーを飲む人は、脳腫瘍リスクが53%低かった
平均18.1年の追跡期間中に、157人が脳腫瘍と新たに診断されていました。これらの脳腫瘍発症者のうち、コーヒー摂取量が週に4日以下だったのは102人、1日に1~2杯が45人、1日に3杯以上は8人でした。
コーヒーを週に4日以下しか飲まないグループを参照群として比較すると、1日3杯以上のコーヒーを摂取しているグループは、脳腫瘍リスクが53%低いことが明らかになりました。ただし、コーヒーの摂取量が増えるほどリスクが下がる、といった傾向は見られなかったことから、摂取量が一定レベルを超えると、急に脳腫瘍抑制効果が現れる可能性が考えられました。
同じ方法を用いて、緑茶の摂取量と脳腫瘍の関係も調べましたが、意味のある関係は見られませんでした。
著者らは、今回対象とした集団においては、コーヒーを1日に3杯以上飲む人が比較的少なかったことから、より大規模な研究を行って、今回の結果を確認する必要があると述べています。
論文はInternational Journal of Cancer誌2016年12月号[注1]に掲載されています。
[注1] Ogawa T, et al. Coffee and green tea consumption in relation to brain tumor risk in a Japanese population3. Int J Cancer. 2016;139(12):2714-2721.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday 2016年12月21日付記事を再構成]