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シェアリングエコノミーの拡大や人工知能(AI)の普及をはじめ、既存産業の枠を超えた大きな変化が起こっている。東京五輪を控える2020年を見据え、激変する環境の中で伸びる企業の条件は何か、働く私たちは何を考えるべきか、5人のトップコンサルタントに聞いた。

第1回はボストンコンサルティンググループ(BCG)日本代表の杉田浩章氏。大規模な資本や資産を持つものが高い経済性を実現する時代が、終焉(しゅうえん)しつつある。そのけん引役となっているのがディスラプター(破壊者)だ。既存の業界の枠を超えた変革に、どう対応すべきかを探る。

◇   ◇   ◇

新たなプレーヤーがもたらすビジネスの変革

業界外からまったく新しいプレーヤーが参入し、既存のビジネスの構造や製品・サービスを根底から覆す――。そんな時代が訪れています。

このような破壊的な革新者は、ディスラプター(disrupter)と呼ばれます。彼らの多くは、IT(情報技術)を駆使してあらゆるモノ・コトをつなげていくこと、言い換えれば、膨大な情報を一元化して扱うことで、より利便性の高い製品・サービスを提供しようとしています。従来どこかの会社の中だけに閉じていた情報を外部とつなげる、あるいは外部の情報を社内に持ち込むなどして、これまでにないやり方で業務の最適化やコスト削減を図り、業界全体にインパクトを与える、といったことが増えているのです。

たとえば自動車の販売で考えてみましょう。メーカーがつくった自動車は、ディーラーや系列の販売店に流れ、そこから消費者の元へ届けられています。販売の現場は、いまどういう自動車に人気が集まり、反対に動きが鈍い車種は何か、今後需要が見込まれそうなタイプはどんな車か、といった情報をより細かく把握しています。メーカーとディーラーとで情報を分断するのではなく、それを一元化し、自社を含めたバリューチェーン全体で共有すれば、生産のボリュームを適正に調整することができるわけです。

そのほかにも、たとえば物流を考えてみましょう。稼働状況や配送ルート、積み荷データといった情報を一元化することで、地域全体の物流動向を詳細に把握できます。そうすると、より効率的なトラックの稼働方法や配送ルートが明らかになるでしょう。場合によっては無駄な拠点やコストを削減することもできます。

このように、あるプレーヤーが直接生産動向と消費者の需要とを把握し、製品がどう動いているのかがわかれば、生産を適切に調整し、無駄な在庫をなくし、業界全体が最適化されて新たな付加価値を生み出すことができるのです。

こうした動きは、どこか特定の業界に限った話ではなく、既存の枠を超えて横断的に起きるものです。現在様々な分野でみられるシェアリングエコノミーは、この代表といえるでしょう。物理的な資産(アセット)の最大化ではなく、稼働率の最大化・最適化を追求する考え方で、それを実現できる企業こそが、最大の付加価値を生み出すことができます。

これまでの尺度では、価値を計れなくなっている

ディスラプターにより全体の最適化が進むと、当然のことながら破壊される側が出てきます。バリューチェーンのある部分がなくなってしまうこともあるかもしれません。あるいは、業界のなかで最も効率的に情報を活用し、運営できる企業の一人勝ちになる可能性もあります。

これまでに確立してきた自分たちのバリューチェーンだけではもう戦えません。そこに新しくデータを付随させ、どう活用し、どんな価値を生み出せるのか。そういったビジネスモデルのデザインが、今後は必要となります。

こうして最適化を追求していくと、従来の市場が縮小し経済規模までシュリンクしてしまうのでは、という指摘もあるでしょう。たしかに否定できないかもしれません。しかしこれはつまるところ、国であれば国内総生産(GDP)成長率、企業であれば売上高に価値を置いてきたこれまでの尺度が、徐々に変わってきているということです。

大規模な資本や資産を持つものが高い経済性を実現する時代は終焉しつつあり、全体の最適化を求める企業こそが、大きな付加価値を生む可能性がある。この流れをけん引していくのが「ディスラプター」なのです。

既存産業がディスラプターの脅威を乗り越えて生き残るためには、自分たち自身が変革し続ける必要があります。先述した通り、シェアリングエコノミーの考え方では、売り上げではなく稼働率の最大化、販売量ではなく使用機会の最大化が求められますが、こうしたモデルを自分たちの業界に置き換えられる知見を持ち、広い視野で柔軟に物事をとらえることが重要だと思います。

求められるのは、データを整理・分析する力

ディスラプターが産業に大きな変化をもたらし、そしてその基盤となるのが膨大な「情報」であることを考えると、これからのビジネスにおいて、若い世代の方々は非常に優位かもしれません。

若い世代は、デジタルを介した様々なコミュニケーション手段がすでに確立された社会に生まれ、デジタルの素養を身につけています。「情報」が大きな鍵を握るこれからのビジネスの現場において格段に優位であるといえます。デジタル世代としての感性を、アナログ世代とうまく融合することでビジネスモデルの変革を起こすことができるかもしれません。

さらに、データを解析する能力、あるいは分析ツールなどにどれほど精通しているかが、今後のビジネスにおいてますます重要になることは間違いないでしょう。現在収集されているビッグデータの量や形式は、エクセルやアクセスなどの表計算・データベースソフトで解析できるレベルを超えています。分析ツールやデータ処理基盤を使いこなす能力、分析で得られた知見を他人に伝えるコミュニケーション能力などを備えておく必要があります。

人の使い方や働き方、社内外のエコシステムをどううまく活用していくかなど、デジタル社会を前提としたうえで、自分の特性や価値を高めていくことが重要なのだと思います。

杉田浩章(すぎた・ひろあき)
ボストンコンサルティンググループ日本代表
東京工業大学工学部卒。慶応義塾大学経営学修士(MBA)。日本交通公社(JTB)を経て現在に至る。事業立ち上げ及び再構築、マーケティング戦略策定・実行支援、営業改革、組織・人事改革、グループマネジメント等のコンサルティングを数多く手がけている。著書に『BCG流 戦略営業』(日経ビジネス人文庫)など。
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