日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/1/16

その数時間後、チームはもう一度詳しく見るためにヘリコプターで集落のある場所に戻った。そのころには、先住民たちのパニックは好奇心に変わっていたようだ。「怖がっているというよりは、不思議がっているように見えました」。スタッカート氏はナショナル ジオグラフィックの電話取材にそう答えている。「彼らも私たちも、どちらも好奇心を抱いていると感じました」

メイレレス氏は、この部族がよい状態で暮らしていることを見て安心した。食料も十分で、健康的な生活を送っているようだ。マロカとよばれる共同住居のまわりには、トウモロコシ、キャッサバ、バナナ畑などがあり、80人から100人ほどの集落は十分養えているようだ。近くにある同じ部族の別のマロカと合わせれば、合計300人ほどの人数になるとメイレレス氏は考えている。

もうひとつ衝撃的だったのは、ヘリコプターに向かって放たれたたくさんの矢だった。メイレレス氏は、これを健全な抵抗のサインだと考えている。「これはメッセージなのです。『邪魔をせず、そっとしておいてほしい』という」

弓矢を構えた先住民たち(Photograph by Ricardo Stuckert)
先住民たちを拡大したもの。(Photograph by Ricardo Stuckert)

ペルーでは脅威にさらされている

ブラジル領内のアマゾンの他の地区とは異なり、アクレ州は森や先住民を保護するために厳しい警備をおこなっている。今のところ、アクレ州の先住民たちは安全に暮らせているようだ。しかし、国境を越えたペルーのジャングルでは、違法な伐採、金の試掘、麻薬取引などが横行している。この脅威は甚大で、過去、いくつかの部族が完全に姿を消したほどだ。

「伐採者や試掘者が入りこんでくれば、先住民たちは暮らしていけなくなります」とメイレレス氏は話す。「彼らがこの地球から消えてしまうかもしれません。それも、私たちが知らない間にです」

エンビラ川やウマイタ川の源流域に暮らすこの部族は、外部との直接的な接触を避けようとしているが、鉄製の道具は長いこと使っている。「1910年ごろには、よそから住み着いた人々の集落を襲ってなたや斧を奪ったことが報告されています。彼らは長いこと金属を使っています。実質的に、金属は彼らの文化の一部だと言えるでしょう」とメイレレス氏は話している。こういった道具を使えば、森を切り開いて食料の生産を拡大できる。この部族は外部との平和的な接触を続けることがないため、名前すら知られていない。ブラジルの政府は、彼らを単に「ウマイタ上流の孤立先住民」と呼んでいる。

精巧なボディペイントを施した先住民がなたを振り回しながら駆け出してくる。「ウマイタ上流の孤立先住民」と呼ばれているこの部族は、あたりの文明と接触のある部族の村や白人集落を襲って鉄製の道具を入手している。(Photograph by Ricardo Stuckert)

この体験を伝えるために

以前はブラジルの週刊誌「ベジャ」や新聞「グローボ」のスタッフカメラマンだったスタッカート氏にとって、もっとも大切な読者は自分の4人の子供たちだという。「子供たちはとても好奇心が強く、いつも質問してきます。私たちの国ブラジルに最初に住みついた人間は彼ら先住民たちです。その人々がどのように生活しているのか、子どもたちはとても興味を持っています」

スタッカート氏は近く『ブラジルの先住民』という本を出版する予定だ。ヘリコプターから村を見たときのぞくぞくするような衝撃を後に続く世代にも追体験してもらうことで、先住民たちに対する興味や良心を呼び起こしたいと願っている。

「驚くほど強烈で、感情的でした」とスタッカート氏はそのときのことを振り返る。「他ではできない体験で、心に深く刻まれています。私たちは人が月に行く時代に生きています。それでも、ここブラジルには、何万年も昔と同じ生活を続けている人々がいるのです」

(文 Scott Wallace、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2016年12月26日付]

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