ヘルスUP

介護に備える

道交法改正でどう変わる? 認知症のドライバー対策

日経Gooday

2016/12/29

(c)Alexander Korzh-123rf
日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

 近年、高齢者ドライバーによる事故のニュースが増加している。背景には認知機能が低下しているにもかかわらず、必要に迫られ、あるいは認知機能の低下に気付かないまま、運転を続けているドライバーの存在がある。こうした問題を受けて2017年3月12日から道路交通法が改正され、75歳以上の運転免許更新時の認知症対策が強化される。高齢者による交通事故の実態と、道交法改正のポイントを解説する。

■高齢者ドライバーによる死亡事故割合は年々増加

 「交通死亡事故の数は2005年から2015年までの10年間、年々減少しています。一方、75歳以上の高齢者ドライバーによる死亡事故件数はほぼ横ばいで、結果的に全体の件数に占める割合は増加しています」と話すのは、警察庁交通局運転免許課理事官の佐藤昭一さん。

警察庁調べ。第1当事者(過失が重いほう)が原付以上を運転している場合の死亡事故を計上している

 背景にあるのは、高齢者ドライバーの増加だ。75歳以上の高齢者ドライバーは2005年の約236万人から2015年には約478万人と、10年間で約2倍に増えた(警察庁調べ)。また、75歳以上のドライバーのうち、死亡事故を起こした人の認知機能検査結果を調べたところ、約半分が「認知症のおそれ、あるいは認知機能低下のおそれ」があったことも分かっており[注1]、認知機能の低下が、高齢者による事故に何らかの影響を与えている可能性は高い。

 今後も高齢者ドライバーの増加が見込まれる中[注2]、高齢者による交通事故を減らすには、認知症のドライバーを早期に見つけ、運転をやめてもらうことが重要なポイントとなる。

 道路交通法では、認知症と診断されたドライバーは、免許取り消しあるいは停止(認知症について6カ月以内に回復の見込みがある旨の診断を受けた場合)処分となることが定められている。その点は、これまでも、2017年3月の道路交通法改正後も変わらないが、改正後は、さらに認知症対策が強化されるため、高齢者ドライバーの中から認知症のおそれがある人を今まで以上に見つけやすくなると期待されている。

[注1]75歳以上の高齢運転者による死亡事故(2015年、458件)にかかわるドライバーの認知機能検査結果を調べたところ、「認知症のおそれ」(7.2%)、「認知機能低下のおそれ」(42.2%)が合計49.4%だった。「認知機能低下のおそれなし」は50.6%(警察庁調べ)
[注2]75歳以上の運転免許保有者数は2015年の約478万人から、2018年には約532万人に増えるという推計もある。2018年の数字は全日本交通安全協会による「運転免許保有者数等の将来推計に関する研究」(2012年3月)の運転免許保有者数の推計値に基づく

■道交法改正で、75歳以上の免許更新はどう変わる?

 これまでの運転免許制度では、認知症が見つかるケースは限られていた。

 一つに、ドライバーの認知機能の現状をタイムリーに把握する制度が存在せず、3年に一度[注4]の運転免許更新時に、75歳以上を対象にした認知機能検査が行われるのみだったからだ。

 また、75歳以上の高齢者は上記の認知機能検査の結果、「認知症のおそれ」「認知機能の低下のおそれ」「認知機能の低下のおそれなし」の3段階に分類されるが、「認知症のおそれ」に分類されても、必ずしも医師の診断を受ける必要はなかった。

 「認知症のおそれ」と分類された人のうち、特定期間内[注4]に、信号無視、通行禁止違反など一定の違反行為をした人に限り、医師の診断を受けなければならず、認知症と診断されれば免許取り消しあるいは停止となった。その結果、2015年中に「認知症のおそれあり」と分類された人(約5.4万人)のうち、同年中に医師による診察に至った人はわずか3.1%(約1650人)、そのうち免許取り消しまたは停止に至ったのは565人だった。

 一方、改正道交法の免許更新手続きでは、75歳以上の高齢者は、認知機能検査で「認知症のおそれ」があると判定された場合、違反の有無にかかわらず医師の診断を受けなければならなくなった。もちろん、これまで同様、医師から認知症と診断された場合には、免許取り消しあるいは停止となる。

 「2015年に認知機能検査を受けた人のうち『認知症のおそれあり』と判定された人は3.3%(約5.4万人)いました。これまではそのうち医師にかかる人が千数百人だったのに、今後は、約5万人の方が診断を受けることになるので、認知症の方は見つけやすくなるはずです」(佐藤さん)

 さらに改正後は、75歳以上のドライバーの場合、免許の更新時だけでなく、一定の違反行為をした場合にも、臨時の認知機能検査を受けなければならなくなる。そして、この場合も免許更新時と同じく、「認知症のおそれ」と判定された場合は、医師の診断を受けなければならない。その後の流れは同様である。

 なお、改正後は、認知症の人を見つけやすくなるだけでなく、高齢者講習の内容も高度化される予定だ。

 「これまでの高齢者講習は認知機能検査の分類に応じて実車指導の方法を変えるだけでしたが、改正後は『認知症のおそれ』『認知機能の低下のおそれ』と分類された人は、約3時間の高度化された講習を受けなければなりません[5]。実車指導の際にドライブレコーダー等で運転している様子を撮影して、あとでそれを見ながら運転の個別指導をするといった手厚い内容となります。逆に『認知機能低下のおそれなし』と分類された人は、約2時間の合理化(短縮)された高齢者講習を受ければよくなります」(佐藤さん)

[注3]75歳以上の場合
[注4]更新期間満了日の1年前から申請書提出の前日、または更新申請書の提出後から次回の申請書提出日
[注5]「認知症のおそれ」に分類された人でも、医師に認知症と診断される前であれば講習を受けられる

■運転免許の自主返納が増加

 警察庁では、高齢者の安全な運転を支援すると同時に、「運転に自信がなくなった」あるいは「家族から運転が心配と言われた」という高齢者などに対して、運転免許の自主返納を促進する取り組みも始めている。

 そうした取り組みもあって、近年、高齢者ドライバーの運転免許返納件数は増加している[注6]。理由の一つに2002年6月から始まった運転経歴証明書の発行が挙げられる。運転経歴証明書は過去の運転経歴を証明するもので、免許証と同様に身分証明書として使えるのが特徴。免許を返納した日から5年以内に申請すればもらえる。「免許を返納した人からは、『これまで運転をしてきた記念の品』としても喜ばれている」(佐藤さん)という。

 また地方自治体によっては、運転免許を自主返納すると、バスやタクシー、鉄道の運賃割引などの特典を受けられる施策を行っているところもある。そうした支援策もあって、東京や大阪など交通インフラが整っている都市部では、75歳以上の運転免許保有者の免許返納率が5%を超えている[注7]。しかし、代替交通手段が少ない地方では返納率が1%台のところもある。

 道交法の改正によって、認知症の高齢者ドライバーは減り、交通事故自体は減るかもしれない。だが、自家用車に代わる交通手段がない地域では、免許取り消しなどで日常生活がままならなくなる人たちが増えるのも必至だ。国を挙げての早急な対策が望まれる。

[注6]75歳以上の免許の申請取消件数は2005年の6730件から2015年には12万3913件に増加(警察庁調べ)
[注7]全国平均は2.77%(警察庁調べ)

(ライター 伊藤左知子)

ヘルスUP新着記事

ALL CHANNEL