やる気ある人材総動員 日本型雇用に限界も
2016年・働き方改革元年(下)
社会福祉法人合掌苑(東京都町田市)は7月、社員寮としてシングルマザー専用のシェアハウスを町田市内に開設した。介護業界は深刻な人手不足に悩む。「やる気があれば属性は関係ない。シングルマザーは全国に120万世帯。宝の山だ」と森一成理事長。
合掌苑の介護職員は男女合わせて580人。そのうち13人がシングルマザーで、外国人も4人いる。非常勤職員のシングルマザー(42)は、「やりがいがある。頑張って介護福祉士の資格を取りフルタイムで働きたい」と話す。シェアハウスもようやく入居者が決まりそうだ。
確かに日本の労働市場は属性うんぬんを言っている場合ではない。15~64歳の生産年齢人口が2012年から年間100万人も減り続けているからだ。女性の積極登用だけでは補えない。元気な高齢者にも働いてもらおう――。16年は働きたいシニアの雇用を進めた一年でもあった。
特に積極的なのが流通業界。首都圏を地盤とするサミットは12月からシニア従業員の雇用年齢の上限を70歳から75歳に延長した。各社は同様の人事政策を進めており、経験豊かで即戦力となるシニア人材を生かし、店の競争力を保とうと懸命だ。買い物客のニーズがすぐ分かり、当意即妙の会話もできる熟練の接客術は同世代に好評で、「老々介護」ならぬ「老々接客」という言葉も登場した。
「LGBT」と呼ばれる性的少数者への配慮も目立った。楽天と損保ジャパン日本興亜は同性パートナーを配偶者として認め、慶弔休暇や見舞金を受けられるようにした。NTTドコモなど多様な人材を受け入れる企業は中間管理職の研修でLGBTとどう向き合うかをメニューに盛った。厚生労働省は6月、LGBTへの差別はセクハラとする指針を出し環境整備に動く。
官民挙げて働き方を改革する中、11月には残念な出来事も。厚労省は労働基準法違反の疑いで電通を強制捜査。女性新人社員が過労により自殺し今年9月に労災を認定されたことを受けた。電通の長時間労働問題は、会社に対する社員の高い帰属意識を原動力にする日本型の雇用システムの限界を浮き彫りにした。
17年は、同じ仕事に同じ賃金を支払う同一労働同一賃金が本格的に導入されようとしている。よりよい働き方へ、そして生産性の向上へ、働き方改革は加速しそうだ。
(保田井建、田村匠が担当しました)
[日本経済新聞夕刊12月27日付]
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