高橋優 5thアルバムで新境地、気持ちが上がるを意識
2010年のデビュー以降、社会に対する怒りや、自分への葛藤を包み隠さず歌うスタイルから、1stアルバムのタイトルでもある『リアルタイム・シンガーソングライター』と呼ばれていた高橋優。昨年は、関ジャニ∞の大倉忠義とラジオでトーク番組をスタートさせ、今年9月には地元・秋田で町おこしの思いも込めた自身主催のフェスを新たに開催するなど、活躍の場を広げ続けてきた。そんな高橋が、5thアルバム『来し方行く末』をリリースした。
昨年、初のベストアルバムを発売したことで、一つの区切りがついたことが大きいのだろう、改めて「今までとこれから」を見つめ直したいという思いがタイトルには込められている。そして自身が苦手としてきた、積極的に人と関わることを近年意識的に続けた結果、人間関係や音楽観にまで、大きな変化があったことが今作には反映されているという。
「福山雅治さんなどの先輩アーティストの方たちと飲んでいて気付いたんですが、彼らはどんな人も見下さず、相手のいいところを見つけて、気持ちが上がる言葉をかけてくれるんです。その方法論は音楽でも使えるなと。世の中でこんな曲が歌われていたらいいなという視点を、曲作りの際に意識するようになりました」
それを象徴するのが、昨年シングルとしてリリースした収録曲『明日はきっといい日になる』だ。「いい日になる」というフレーズが繰り返される、つらい時に背中を押してくれる温かみのある1曲。一部のファンからは「ロックじゃない」と言われたそうだが、「ブレーキは覚えたけど、アクセルの踏み方は決して忘れてはいない」と強く言い切る。
その言葉が示す通り、エッジの効いたギターに合わせて、今の自分の思いを吐露した『Cockroach』(英語でゴキブリの意味)は、今の彼を表す1曲に仕上がっている。恐竜がいた時代から、生き延びてきたゴキブリの生命力と対応力に共感を覚えて作ったそうだ。歌詞では「何万回叩かれても/そう簡単には終わらないよ/どんな環境下だって/這いつくばって前進し続けるよ」とつづる。
「元はギターをかき鳴らし、言いたいことをぶちまけるストレートなロックしか歌えなかった自分が、クライアントからタイアップをいただき、万人に好かれるような曲も書くようになりました。自分の中で今1番大切なのは、曲のジャンルではなく、死ぬまで歌い続けて誰かに曲を届けることなんです。そのしぶとくありたいという姿勢をゴキブリと重ねました」
シンガーソングライターとしての在り方を常に問い続ける高橋優。彼がシンガーであり続ける限り、これからも彼が歌うテーマに掲げるものは、より広がりを見せていきそうだ。
(「日経エンタテインメント!」12月号の記事を再構成。敬称略、文・中桐基善)
[日経MJ2016年12月16日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。