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小沢コージのちょっといいクルマ

トヨタC-HR もし本当に売れたら日本は変わるかも

2016/12/19

トヨタ「C-HR」。発売に先駆け、ネットで先行予約を行った。写真はプロトタイプ

 11月からウェブで先行予約が行われてきたトヨタの多目的スポーツ車(SUV)「C-HR」。欧州で人気の高いスタイリッシュSUVというジャンルに乗り込んできたニューモデルは、今売れている日本車とは一味違ったこだわりをもって作られていた。

■広さと燃費の時代に生まれたカッコと走り最優先のSUV

 ある意味、トヨタらしからぬクルマが登場した。その名もC-HR。車名は素っ気なくもコンパクト・ハイ・ライダーの略で、日産ジューク、ホンダ・ヴェゼル、マツダCX-3などに続く、コンパクトなスタイリッシュSUV。珍しくネットで先行予約を受け付け、個性的な開発陣の偏愛ぶりも同時公開。いままでになく、積極的な販売戦略を進めている。

 だが、面白いのはそれだけではない。クルマの作りがまったくもってトヨタらしくないのだ。ジャンル最後発ということもあって、スタイルや走りに思いきり特化しているのだが、その手法であり、出来栄えがハンパではない。

 大抵の場合、デザイン優先のコンセプトカーがモーターショーで事前公開され、購買欲をあおってから、実車になるに従い無難なデザインに落とし込まれていくものだが、C-HRの場合は相当なレベルで理想通り。

 まず写真を見ていただきたいが、独特の厚みのある動物的なマスクはもちろん、大径タイヤを強調した前後のマッチョなフェンダーがすごい。さすがに2年前のパリモーターショーに登場したコンセプトカーほどではないが、それでもまさしくスーパーカー顔負けの力強さ。

独特の厚みがある、印象的なフロントマスク
大径タイヤを強調する大きく張り出した前後のフェンダー

 真横からみるとよく分かるがタイヤはボディー高の半分を占めるくらい大きく、逆に表現するとキャビンはスポーツカー並みに小さい。

 リアドアのハンドルは一瞬「付いてないんじゃないの?」とみえるくらい小さいものが、高い位置に備わってるし、聞けばリアの腰回りのクビレを作るために、内側の骨格であるプラットホームをわざわざ設計変更したとか。

リアドアのハンドルは一瞬「付いていないんじゃないの?」と思うほど
リアの腰回りのクビレを作るためにプラットホームも設計変更したという

 それも去年登場の4代目プリウスから始まり、今後どんどん新型車に使われる新世代のTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)プラットホームを、である。開発陣がどれだけC-HRのデザインにこだわったかわかるだろう。

■ただでさえ良くできたTNGAをさらに

 走りもすごい。前述したTNGAは根本的な軽量・高剛性ぶりもさることながら、低重心にも気を使った走りのためのプラットフォーム。初採用した最新プリウスも、今までのトヨタ車とは別次元のしっかり感、ステアリングの効きに驚かされたが、C-HRにはさらに驚かされた。

 背が高めのSUVのくせに、プリウスより滑らかかつ静かで、ステアリングフィールがシャープなのだ。ただでさえ味が良かったのに、上質さと繊細さまで加味されている。

 聞けばTNGAをベースに、足回りには高性能で知られたドイツのザックス製ダンパーを、ブレーキにもタッチの優れた欧州ブランド製を採用。なにより小沢が驚かされたのは、サスペンションアームのつなぎ目に、一部ゴムブッシュではなく、レーシングカーなどに使われるボールジョイントが使われていること。

 これによりダルさが抑えられて、独特のダイレクト感が得られたのだ。しかしこんな技術は普通の乗用車、ましてやもともとアウトドア向けに作られたSUVで使われるシロモノではない。オンロードを速く、俊敏に駆け抜けるためのスポーツカー向けの技術であり、まさしくC-HRは常識外の作り込みが成されているのだ。

■SUVのくせになぜかドイツの超過酷サーキットで開発

 聞けば開発を主導したトヨタの古場博之エンジニアは、レース好きで知られ、若いころには自らレーシングカートを操り、トヨタ自動車入社後もプライベートでツーリングカーレースに出ていたという。

 よってC-HRの担当が決まった時には、自ら過酷さで知られたドイツのニュルブルクリンク北コースでのテストを希望。それどころか、上司を説得し、同サーキットで毎年開催される24時間レースに、自ら開発途中のC-HRで出場してしまったくらいだ。

 それは表向き日産ジュークから始まる一連のスタイリッシュSUVが、欧州で人気が高く、C-HRも当然欧州戦略車として考えられているからということになっている。欧州マーケットで認められるためには、向こうで当たり前のようにクルマが鍛えられているニュルでテストしなければいけないというわけだ。

 だが、古場エンジニアは笑いながら「本当は自分が走りたかっただけなんですけどね」とも漏らす。それは半分冗談だが、半分本気にも聞こえる。要するにマーケットの要求以上に、担当エンジニアが作りたいから作ったこだわりのクルマ。それがC-HRの本性なのだ。

■室内の絶対的広さにはこだわらない

 特にビックリするのは車内スペースの割り切りだ。前述通り、キャビンはクーペ並みに絞り込まれていて中は決して広くない。フロントシートは、欧州基準で作られた大柄シートもあって大変居心地が良い。だがその分、リアシートは狭めで身長176cmの小沢であればタイト目に座るはめになる。シートバックのリクライニングもなく、ラゲッジも300リッターちょっととライバルのホンダ・ヴェゼルより明らかに狭い。

居心地のいいフロントシート。一方でリアシートには割り切りが見られる

 かたや燃費に関しては現行プリウスと共通の最新型1.8リッターハイブリッドと、これまた高効率の1.2リッターダウンサイジングターボが選べるので相当にいい。特にハイブリッドはモード燃費で30.2km/L。実燃費も時に20km/Lは行くはずだ。その点こそトヨタグループの底ヂカラが感じられるが、あとの使い勝手や絶対的な広さは正直、割り切って考えられている。

 本来、実用性に優れたSUVだが、C-HRに限ってはこだわりのスポーツカーのようなコンセプトで作られているのだ。

 実質的にはスタイル違いの最新プリウスのようなものなのでさしあたり人気は出ると思うが、長い目で考えると本当に日本で受け入れられるかは未知数だ。今の日本は「燃費」と「広さ」ばかりが求められる、世界的にも特異なマーケットになってしまったからだ。

 軽で売れるのは室内がヤケに広いスーパーハイトワゴンばかりだし、白ナンバー車も室内広めのハイブリッドカーやミニバンを中心に売れている。

 昔のように走りとスタイルがいいスポーツカーやクーペ、高級セダンが売れる国ではなくなっているのだ。

 C-HRが本当に長く、太く売れた時、この日本のマーケットは変わり始めていると考えていいだろう。燃費とスペースだけではない、別のなにかに人々が再び引かれ始めた証拠だからだ。

 そうなってくれるといいなと小沢は心の底から願っている。

「燃費」と「広さ」ばかりが求められる日本市場を変えることができるか
小沢コージ
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。

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