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スタンフォード 最強の授業

年上部下とどう話す? スタンフォード流「伝える技術」 スタンフォード大学経営大学院 ピーターソン教授に聞く(4)

2016/12/11

自著新刊の大型サイネージュの前で(右がピーターソン教授)(c)Nasdaq

世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回はジョエル・ピーターソン教授の4回目だ。

職場で「言いにくいことを言わなくてはならない場面」に出くわしたことはないだろうか。お世話になった先輩に退職勧奨を言い渡す、やる気のない部下に苦言を呈す、同僚に自分が上司になったことを告げる……。こういう場での正しいコミュニケーション方法を教えているのがジョエル・ピーターソン教授の授業だ。起業家としてあらゆる修羅場を経験してきたピーターソン教授が、究極のコミュニケーション術を指南する。

(C)Michael Schoenfeld
ジョエル・ピーターソン Joel C. Peterson
スタンフォード大学経営大学院兼任教授。専門は不動産投資、起業家精神、リーダーシップ。スタンフォード大学フーバー研究所監督委員会会長、米ジェットブルー取締役会長。投資マネジメント会社、ピーターソン・パートナーズ(ユタ州、ソルトレークシティー)創業者兼取締役会長。1971年ブリガム・ヤング大学卒業、73年ハーバード大学経営大学院修了(MBA)。著書に“The 10 Laws of Trust: Building the Bonds That Make a Business Great” (AMACOM, 2016)。

すぐ本題に入った方がいい

佐藤:ピーターソン教授はスタンフォードで「成長企業の経営」という授業を担当しています。修羅場に置かれたとき、どのようにコミュニケーションすればよいのかを学ぶ、非常に実用的な授業ですね。学生は上司や部下の役を演じながら、アドリブでセリフを言わなくてはならないですが、演習の中でおかしがちな間違いというのはありますか。

ピーターソン:彼らは皆、オブラートに包んだような話し方をしようとしますね。会話の最初を雑談から始めようとします。「最近どうですか?」「ご家族はお元気ですか」などと、感じよく始める方が相手のためになると勘違いしているのです。でも実際、こんな風に言われると、呼び出された相手はますます緊張してしまいます。

それよりも、すぐに本題に入ったほうが、結果として相手のためになるのです。たとえば、問題のある部下に苦言を呈すとき。はっきりと「今日はあなたの人事評価について話し合いましょう。これから改善してほしい点を3つ言いますから聞いてください」と直接言った方が、よほど効果的です。でもほとんど学生は場をあたためようとして、雑談から始めてしまいますね。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤:たとえば、先生が解雇する上司、私が解雇される部下、だとすると、先生はどのように私にその事実を伝えますか。

ピーターソン:私ならすぐにこう言います。「ここでのあなたの仕事は終わりになります。私自身、転職先を見つけるお手伝いをしますし、再就職支援会社のサービスも利用できるようにします。健康保険や退職金も十分にお支払いします。転職であなたのキャリアがさらに発展するように願っています。困ったことがあれば、何でも言ってください」

解雇される側はどう答えればいい?

佐藤:余計なことは言わないで本題に入る、ということですね。それに対して、解雇される側は、どのように答えるのが正しいのでしょうか。

ピーターソン:最もよい結果となるのは次のような言葉ではないでしょうか。

「ご配慮いただきありがとうございます。引き継ぎについてご指示いただければと思います。今後も私の知識や経験がこの会社で役に立てばうれしいです。でも次のキャリアに進むのにはあなたからの推薦状が必要です。できるだけ好意的な推薦状を書いていただけませんか?」

こう言われれば私の方も「彼女は去り際も見事で、引き継ぎも完璧だった。最高のほめ言葉を書こう。彼女が最も優れている点はこういうところとこういうところだ。そこを強調しておこう」と思うわけですよ。ともに、よりよい転職先を見つけられるように努力しましょう、その間の各種保険や費用などは心配しないでください、あなたを最大限にサポートしますから、あなたもがんばってください、という気持ちになります。

佐藤:感情的になってはいけない、ということですね。でも、もしかしたら会社の決断が覆るかもしれない、と期待して、「訴えてやる」と怒りをあらわにする人や、「なぜ私が」と泣きだしてしまう人もいるでしょう。でも何をやっても、結果は変わらないし、プラスにはならないと……。

ピーターソン:誰のためにもなりません。社員にとってもマイナスですし、会社側にとってもマイナスです。双方の過ちをともに前向きに解決する、会社は感謝して送り出す、社員は感謝して去る、というのが最もプラスになる方法だと思います。

佐藤:解雇された側は、誰かのせいにしたいという気持ちをどうすればいいのでしょうか。

ピーターソン:解雇されたからといって、あなただけが悪いわけではないのですよ。自分をせめないことです。解雇は、相性が合わなかったという双方の問題を解決する手段なのですから、「一緒に解決しましょう」という雰囲気でお互い建設的に話を進めなくてはなりません。

先輩が部下になったらどう話す?

佐藤:これまで年功序列制を維持してきた日本企業も、グローバル化の影響で、少しずつ変化してきています。たとえば、「これまで上司や先輩だった人が、いきなり自分の部下になる」というケースも出てきていますが、多くの若手リーダーはいまだ慣れず、「とてもやりにくい」と感じています。ピーターソン教授なら、こうした日本人若手リーダーにどのように助言しますか。

ピーターソン:最初に申し上げたいのは、日本企業とアメリカ企業とは企業文化が違う、ということです。年功序列に慣れている日本人の方々に、アメリカ式でやってくださいと言っても、すぐには実行できないのではないかと私は思います。

佐藤:それでもグローバル企業の流儀を私たちは知っておく必要があると思います。授業で学生にはどのように教えているのですか。

ピーターソン:自分より年上の人、入社年次の早い人の上司になったとき、まずは、その方々が蓄積してきた深い知識に対して最大限の敬意を払い、意見をひたすら傾聴してください。あなたよりも年上であるということは経験豊富であるということ。それを前提に、彼らからできる限り知識を吸収しようとするのです。もしあなたが年上の人々にきちんと敬意を払えて、思いやりを示すことができれば、若手であっても必ずやリーダーとして成功します。

年上部下の意見をじっくり聞くことから始めた

佐藤:ピーターソン教授にも、年上の社員の上司となった経験はありますか。

ピーターソン:あります。私は29歳のときに、ある会社の最高財務責任者(CFO)に就任したのですが、そのときの部下は全員年上でした。しかも部下が92人もいたのです。彼らの多くが公認会計士で、私よりもずっと経験豊富でした。

就任後、私が最初にやったのは、時間をかけて、彼らの意見を聞くことでした。彼らのことを大切に思っていることを伝え、彼らの意見を尊重し、専門的な知識にさらに磨きをかけてもらうための環境づくりもしました。仕事で成功したときには、皆さんのおかげです、と感謝しました。こうしてはじめて、私はリーダーとして受け入れられたのです。

このとき、「私はあなたたちの上司なのだから従いなさい」「手柄は全部私のものです」という態度だったらどうなったでしょうか。きっとうまくいかなかったでしょう。彼らは私に対して批判的になり、「リーダーとして不適格だ」と私の悪口を言い、私に協力してくれなかったと思います。

ミレニアル世代とどう向き合うかは世界的な問題

佐藤:先ほどは、「年上の部下」の話でしたが、日本企業の中間管理職は、若手社員の育成にも苦労しています。

ピーターソン:ミレニアル世代(2000年以降に成人あるいは社会人になった世代)とどう向き合うか、というのは世界的な問題ですよ。

佐藤:これは日本企業だけの問題ではないということですね。

ピーターソン:ミレニアル世代は、それ以前の世代とは考え方も習慣も全く違います。物心ついたときには、すでにインターネットが存在していたからです。ですから彼らは長時間、同じことを続けるのが苦手で、ビデオも1分以上見ると飽きてしまう。本もあまり読みません。かわりに、スマートフォンでコミュニケーションするのは得意。彼らは常に誰かとつながっています。

それから1つのグループに深く関わるのを嫌う傾向にあります。特定の宗教や、政党などにも、長くはコミットしたくない。おそらく日本企業で働いている若手も、定年まで働こうとは決めていないはずです。彼らはとても用心深いのです。

佐藤:なぜ、支持政党や宗教、あるいは自分が働く企業を決めることについて、彼らはそれほど用心深いのでしょうか。

ピーターソン:親や周りの人たちが「こうしなさい」と言っていることをそのとおりにやってもうまくいかない、という現実を目の当たりにしているからです。

「幸せになるには結婚するのがいちばん」と言われても、実際には離婚している人たちばかり。「家を買いなさい、それが一番安全な投資だから」と言われても、2000年代、アメリカの不動産価格は大暴落しました。「大学に行きなさい」と言われても、多額の教育ローンを抱えたまま就職先が見つからない大卒が世の中にあふれています。年上の人たちから何をアドバイスされても「本当にうまくいくのか」と用心深くなるのも当然です。

佐藤:そういう若手世代にやる気を出してもらうにはどうしたらよいのでしょうか。

ピーターソン:まずは彼らを理解することが大切です。彼らがどういう価値観で生きているのか、直接聞いてみてください。「なぜそうすることが大切なのか」「何に対して不安を覚えるのか」「仕事とプライベート、それぞれどれぐらい重要か」など、質問してみるのです。

どんな人間にも「妥協できないこと」があります。たとえば、睡眠をとることが何よりも大事だ、と考えている人が、朝早く起きて6時のフライトに乗務したいとは思わないでしょう。何が彼らをやる気にさせるのか、あるいは、やる気にさせないのか。それを理解することが大切だと思います。

周りの人から賢い人だと評価されたり、信頼されたりすると俄然やる気になる。自分自身を成長させたいという意識が高い。どんな仕事にも意義を求める。知らない人とでも簡単につながることができる。これらはすべて若い世代の強みです。それを上司が理解し、生かすことができれば、彼らはどんどん活躍してくれることでしょう。

The 10 Laws of Trust: Building the Bonds That Make a Business Great

著者 :Joel Peterson
出版 : Amacom Books
価格 : 1,751円 (税込み)

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