動物写真家・岩合光昭さんに聞く「ネコを撮る秘訣」

日経ウーマンオンライン

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世界的に有名な動物写真家の岩合光昭さん。野生動物だけでなく、ネコの撮影もライフワークの一つだ。その写真は、ネコ好きの心をわしづかみすると話題になっている。「どうしてそんな瞬間の写真が撮れるの?」と思っている人も多いだろう。今回は、岩合さんがどのようにしてネコを撮っているか、聞いた。

(写真:的野弘路)
岩合光昭(いわごう・みつあき)さん 1950年東京生まれ。地球上のあらゆる地域をフィールドに活躍する動物写真家。その独特の色やコントラスト、想像力をかきたてる写真は、日本のみならず、世界的にも高く評価されている。一方でライフワークともいえるネコの撮影にも力を入れており、2012年から始まったNHK BS『岩合光昭の世界ネコ歩き』が好評放映中。写真展「ねこ」「ねこ歩き」「ネコライオン」などが各地で巡回中。ネコへの思いを綴った『ネコへの恋文』をこのほど発売。

これまでに数え切れないほどのネコを撮影してきた岩合さん、印象に残るネコはいるのだろうか?

「やっぱり個性が強いネコは覚えていますね。番組最初のロケ地だったイスタンブールの香辛料屋さんのサフランというメス。道の向こう側にネコがいたから、なんとなくカメラをネコの目線の高さに構えたんです。それでパッと見たら、向こうもこちらに気づいて、ターッと走り寄ってきて、カメラの目の前でニャーッとあいさつしてくれて。もうノックアウトされましたね。

シチリアのドメニコというオスは立派なボスネコなのに、ヒトともよく付き合ってくれるネコで、街案内したうえ、かわいいメスも紹介してくれて、とてもよく覚えています。ディレクターに『今回3日間彼だけを撮るからね』と言いました。でもディレクターとしたら、ロケ期間9日間で『このネコ1匹に3日かけちゃうんですか?』って心配ですよね。『1時間番組ですよ』とか言われましたが、気にしない(笑)」

海外ではネコはどのように見られているのだろうか?

「こんなにネコ好きなのは日本くらいだと思いますね。海外で撮影をしていると、よく『なに撮ってんの? ネコ?』と言われます。ニューヨークで花屋さんのネコを撮っていたときは、相当な人通りがあったので、早朝は会社に行くニューヨーカーたちがけげんそうな顔をして見るわけですよ。でも僕たちは朝から夕方までずっと撮影しているので、朝行った人たちが夕方戻ってくる。その時はもう笑ってる。

『この人たち、まだ撮ってるの? 信じられない!』と。被写体がネコだとわかるといっそう笑って、この世のものとは思えないような顔をされたりしました。そのうちネコ好きのおじさんから声をかけられて『うちにもネコいるから撮りにおいでよ』と誘っていただいたり……」

ネコ好きの多くの人が、どうしたら岩合さんのような写真が撮れるのか、と思うことだろう。ネコを撮る秘訣はあるのだろうか?

「ネコに限らず、ほかの被写体のときも、できるだけ気持ちをさぐりながら撮ろうしていますね。どういう写真を撮るかということは、自分で決めないんです。ある程度の背景や範囲は決めますが、シャッターを押すのはいつも『ネコ様次第』。ネコの動きを見ながら、発見をしていきたいと思っています。

自分が撮りたいところにネコを置くというやり方をすると『借りてきた猫』という言葉がありますが、自然な表情がまるで撮れないんです。だから番組でもそうですが、そこで暮らして、そこに生きているネコを撮るようにしています」

このほど出版した『ネコへの恋文』でも、自然体のネコの様子をとらえている。

「ちょっとふくよかな姉妹です。実はこの上にはガードレールがあって、ここは道端、後ろは海なんです。このときは坂道を歩いて上ってきたところ『ん? 今ネコがいた気がする』と振り向いたらガードレールの下のところからネコが出てきて、カメラを向けた途端にストレッチをしました。

ネコを探す場合は、足元から地平線まで見なきゃいけないんですが、人が多くない場所では、風景を1枚の絵として見るんです。すると1点何かが動いて、そこに目を止めて見ると、耳がぴくぴくっと動くのがわかって『あ、ネコだ』と見つけられます。けっこう遠くでもわかりますね。そういう探し方をしています」

番組の中で岩合さんはよくネコに話しかけている。その話しかけ方にもネコに好かれる秘密があるのだろうか。

「僕は海外のネコでも日本語で通じるんじゃないかと思うんです。というのは、ネコって言語じゃないんですよね。以前、ロンドンで歩いていたら、いいネコがいたので『Good morning』と言ったんです。でも知らん振りされたんですよ。そのとき、ニューヨークからロンドンに行ったので、アクセントがアメリカ英語だったんですね。それをイギリスのアクセントで『Good morning』と言い直したら、パッとこちらを見たんです。

だからネコは言葉じゃなくて、音が大切なんですよね。僕がよく言う『いいこだね』っていう言い方はどんな国へ行っても一番喜ばれます。たぶん音の調子なんでしょうね。あと『かっこいいね~』も、けっこう通じるんです」

もちろん声をかけずに撮る場合もある。下の写真は、モロッコのシャウエンで撮影した写真だという。

「これは、一瞬の出来事だったんですが『ネコ版のロミオとジュリエット』と名付けました。最初、メスネコがピョコンと上に乗って、引っ込んだり顔を出したりしていたんです。しばらく見ていたら、そのうち茶色いオスが現れて、彼女の顔が見えないのに、一声鳴いたんですよ。『ジュリエーット』ってね(笑)。

そうしたら彼女が上から顔を出しました。『ロミオー』って言ったかどうかはわからないけど、その瞬間を撮りました。その後彼女はポーンと飛び降りて逃げちゃって、オスが必死に追いかけていきました。それがネコの恋の駆け引きなんですよね。素直に従って仲良くなったらつまんないんじゃないかな。でもメスも長けていて、逃げるフリをするんです。必ず立ち止まって『ついてくるかしら?』って見るんですよね。たぶんヒトの恋の駆け引きとと同じじゃないかな」

「ネコの味方を増やしたい」という岩合さん。その言葉には、ただネコをかわいいというだけでなく、生き物として尊重し、本当の魅力を知ってほしいという思いがある。だからこそ、岩合さんの写真にはネコ自身が持つ命の輝きがくっきりと映し出されているのだ。

(ライター 郡司真紀、ネコ写真提供 岩合光昭、構成 白澤淳子=日経ヘルス編集)

[nikkei WOMAN Online 2016年11月26日付記事を再構成]