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次世代リーダーの転職学

脱藩型か? 逃亡型か? 「転職理由」が人生を左右する ミドル世代専門転職コンサルタント 黒田真行

2016/11/25

PIXTA

 業界や職種、役職にかかわらず、転職のサポートを開始する際に最も重要な質問項目は「何のために会社や仕事を変えようとしているのか?」という問いです。この答えの内容によって、一人ひとり、転職の選択肢や、転職後の満足度が大きく変化する可能性があるからです。さらに言えば、この質問に対する答えが、最終的に転職するかどうかということに関係なく、仕事人生そのものの満足度を左右するカギでもあると考えています。

真の転職理由はアンケート調査では見えてこない

 ニュースメディアなどで、「転職理由ランキング」が発表されることがあります。「収入をアップしたかった」「キャリアアップのため」「他にやりたい仕事が見つかったから」「人間関係に問題があったから」「会社の将来性に不安があった」など、上位項目には常連の回答が並んでいるのですが、実際に転職支援の仕事でお会いする方々から聞いている内容とは、かなりリアリティーやニュアンスが異なります。

 転職という行為そのものが、個人にとってきわめてプライベートな色合いが強いイベントであるため、マスマーケティングの手法で抽象度高く回答を集計してしまうと、個別の背景事情をつかめなくなるからだと考えています。特に「なぜ転職するのか?」という理由は、「できるだけポジティブに考えておいたほうが、転職が円滑に進むだろう」という心理の働きもあり、表層的な回答が上位になりがちです。

 しかし、その裏に隠されている、一人ひとり異なる転職理由が、じつはその後のキャリア構築や仕事人生の満足度に大きな影響を及ぼします。転職理由を大きく3つのタイプに分けて、それぞれの傾向を説明していきたいと思います。

【卒業型】 離職満足度が高い円満退職。理想的だが出現率は低い

 1つ目のタイプは「卒業型」。

 「この会社でやるべきことはやり終えた」

 「ちょうど区切りのいいタイミングなので後進にポジションを譲った」

 「ここでは身につかないことを経験するために、居心地のいい会社から転身する」

などといった転職理由が典型的です。

 送り出す会社側に惜しまれつつも、しっかり折り合いがついており、時間をかけて十分な引き継ぎ期間を設けているなど円満退職率が高いパターンです。ご本人としても、「会社が嫌で辞めるわけではない」「育ててくれた恩義は感じている」など、退職はするものの、離職時点での満足度も高い、理想的な別れ方と言っていいかもしれません。

 総じて、20代や30代前半までの若年層や初めて転職する方に多く、退職後も個人的なつながりが残りやすい傾向があります。ただ、辞める側・送り出す側が両方満足する「卒業型」の出現率は低く、会社の風土や経営者・上司の考え方、経営環境、時代環境など、いくつかの要素が重なりあう必要があるようです。

 このパターンで転職する人は、心理的余裕があることも影響するのか、たとえば自分の人脈経路で転職先を選び、自分にとって満足度の高い転職をする割合や結果的に転職先でも早期に活躍を始める傾向があります。

【逃亡型】 自己防衛か? 忍耐不足か? タイミングの判断がきわめて難しい

 2つ目のタイプが「逃亡型」。

 「あまりに過酷な労働条件で心身ともに疲れ果てた」

 「パワハラの常態化によりメンタルに影響し、頭痛や疲労感をもたらした」

 「会社の業績降下とともに雰囲気も悪くなり、戦略も支離滅裂になってきた」

といった会社事情に起因する転職理由です。

 残念ながら、程度の差はあれど、もっとも出現率が高いのがこのパターンで、中堅社員以上のベテラン層になるほど多くなる傾向があります。常態化した長時間残業や、パワハラの横行、もの言えぬ風土など、心身に異常をきたすような環境から、一刻も早く自己防衛として退職すべき事例もあれば、「後から思い返すと、自分の辛抱が足りなかった。当時の上司に言われていたことは今思うとすべて自分を思いやってのことだった」と後悔するような“早すぎる逃亡”も混在しています。

 いずれもタイミングの見極めが非常に難しく、自己防衛のために早く脱出すべきところを我慢しすぎて身体を壊してしまったり、あるいは本来であれば踏ん張りどころの壁でしかなかったものを、早合点しすぎて転職を繰り返してしまい、もったいないことにつながるべきキャリアパスが断絶してしまったり、というケースもあります。

 ときには転職理由をヒアリングしている最中に、上司や会社への愚痴や批判が止まらなくなって、白昼に居酒屋談議を延々と聞いているかのような錯覚に陥ることもあります。転職相談とはいえ、あまりに激しく非難が続く場合は、すでに健康な状態を取り戻せないくらいに関係性が悪化していることも多いので、まずは転職活動を進めながら、二度とそういう事態に陥らない方法を並行して整理していただくようにしています。

 あまりにもこじれ方がひどい場合は、面接での回答にも恨み節の気持ちが表れてしまい、転職活動が長期化してしまいかねないので、精神衛生的にも経済的にも、できればそこまで進展する前に手を打っていただきたいと思っています。

【脱藩型】 理念や方針への違和感が、会社との距離を決定的にする

 3つ目のタイプが「脱藩型」。

 「M&A(合併・買収)で経営陣が刷新してからの経営方針にどうしても共感できない」

 「中途半端な状態での事業撤退に納得できない。会社を変えてでもこの領域で勝負を続けたい」

 「全社的なリストラをきっかけに、会社を立ち上げることにした。優秀な部下がついてきてくれたことと取引先の協力で、なんとかしのげる体制をつくることができた」

というように、経営戦略への齟齬(そご)や、理念・ビジョンなど事業の上流レイヤーでの違和感がきっかけとなって会社と決別するパターンです。

 もともとは会社へのロイヤルティーが高く、実力も評価も高い人が、自分の信念や職業的なプライドを守るために、やむなく別れを告げて別の道を行く、というケースが典型的です。

 会社への忠誠や愛着よりも、自分の中の信念や正義感を重視するという自立心や自尊心が高い人が多く、20代後半から50代のエグゼクティブ層まで、年齢的にもかなり幅広く分散しますが、出現率自体は極めて低いパターンでもあります。転職や企業が成功するかどうかはともかく、心の中に常に刀を持っていて、いざというときは自分が長年愛着を持っていた会社であっても抜刀する、という自立心の強さが原動力になっています。

 ご本人が抱いている戦略や考え方に合理性が備わっている場合は、当然、顧客や従業員からの共感を勝ち取る可能性も高く、逃亡型転職よりも圧倒的に高い確率で、満足度の高い転職や起業を実現されるケースが多い傾向があります。

本当に重要なことは、転職に向き合う心理態度

 冒頭で書いたように、転職支援を始めるにあたり私自身が心がけていることとして、単純に「転職理由は何ですか?」という質問ではなく、「何のために会社や仕事を変えようとしているのか?」という質問をするようにしています。一番の理由は、なぜ転職することになったのか? なぜやめようと考えているのか? という表面的な理由を聞くよりも、転職の目的や心理的態度を聞くことが重要だと考えているからです。

 極論すると、「転職を考えるきっかけになった理由は何か?」ということよりも、「何のために仕事をしているのか?」を知ることのほうが、仕事に対する自尊心や向き合う姿勢、「自分自身の仕事人生をコントロールする主導権を、自分自身が握っているのかどうか」を把握しやすいからだと言ってよいかもしれません。転職支援サービスをする側の立場として、この違いを押さえておくことは、おすすめする転職先を選択する上で、採用する側が迎えたい人に求める期待値とすり合わせるためにも非常に大きな要素となってくるからです。

 働く個人にとっても、会社や組織、ポジション、年収などの条件は非常に重要な要素ですが、それらの外形的条件に依存することよりも、自分自身が仕事人生の主導権を持って働けるかどうかのほうが、人生の満足度の高さに直結する重要な要素だと考えています。

 「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。次回は12月2日の予定です。
 連載は3人が交代で担当します。
 *黒田真行 ミドル世代専門転職コンサルタント
 *森本千賀子 エグゼクティブ専門の転職エージェント
 *波戸内啓介 リクルートエグゼクティブエージェント社長
黒田 真行(くろだ・まさゆき)
ルーセントドアーズ代表取締役
「ミドル世代の方々のキャリアの可能性を最大化する」をテーマに、日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営している。1989年、関西大学法学部卒業、リクルート入社。1988年より転職メディアの制作・編集・事業企画に携わる。2006~2013年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。2013年リクルートドクターズキャリア取締役などを経て、2014年ルーセントドアーズを設立。
35歳以上の転職支援サービス「Career Release40」
http://lucentdoors.co.jp/cr40/

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