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北欧イケア開発拠点に潜入 年2000商品生む夢の工房

2016/11/27

家具やテキスタイル、照明の寿命といったイケア商品のテストを行う「テストラボ」。消費者視点でテストを行い、品質向上に取り組む(写真:明智直子)
日経デザイン

日本でも人気の家具販売大手イケアの創業の地は、スウェーデンのエルムフルト。そこに約2年前に設立された「プロトタイプショップ」と「テストラボ」の2大施設で目にしたのは、商品デザイナーのアイデアを素早く手に取れる形にし、さらに実際の利用シーンを想定して改善を重ねられる環境だ。例えば陶器のような質感を持つ塗装の木製の皿(プレート)を素早く作ることができる。耐久性を調べるべく、収納家具の扉を50万回も開け閉めできる機械もある。年間2000もの新商品を生み出す2大施設は、イケアのスタッフでさえなかなか足を踏み入れられない。今回、扉の向こうへの“潜入”許可を得た。

■100人を超すデザイナーが活躍

イケアが世界中の店舗で扱う商品は約9500種類に上る。同社は毎年、約2000種類の新商品をリリースしている。150もの商品開発プロジェクトを同時並行で走らせ、「3年後に販売する商品」をデザインするイケアには、15人のインハウスデザイナーが在籍。90人ほどの外部デザイナーとともに、新たな商品を世に送り出し続けている。

膨大な数の商品開発を支える主要施設の1つが、2014年オープンの新社屋「デモクラティック・デザイン・センター」に併設した「プロトタイプショップ」である。テキスタイルプリンターや3Dプリンターなどを備えるこの場所では、さまざまな素材を使った試作作りが可能だ。

デモグラフィック・デザイン・センターの階段広場1階の脇にある「プロトタイプショップ」。さまざまな素材や機械、ツールを使って、家具などを試作できる。スタッフは、デザイナーからのオーダーを具体化するエキスパートだ(写真:明智直子)
デモグラフィック・デザイン・センターの内部。写真手前が階段広場(写真:明智直子)

もう1つが、同センターとは別棟にある「テストラボ」だ。ここでは、プロトタイプショップで作った試作や開発中のさまざまな商品の、耐久性などのテストを行っている。

■2000もの試作を生む「夢の工房」

プロトタイプショップには、約30人のスタッフが在籍している。内部は「3Dプリント」「家具材料」「木材」「塗装」「金属」「梱包」といったブースに分けられ、各ブースには、試作作りのエキスパートと専用設備が、デザイナーの来訪を待ち構えている。例えば金属製のネジなど小さなパーツも試作できる。まるで陶器のような塗装の木製プレートも素早く作ることができる。デザイナーにとって「夢の工房」のようだ。

プロトタイプショップには、大がかりな加工機器も導入(写真:明智直子)
木材コーナーには、さまざまな形や種類の木材が並ぶ(写真:明智直子)

2003年から導入している3Dプリンターは、9色の樹脂で成形できる「Dimension SST」(米ストラタシス製)や、大きい試作向けの「Fortus 900mc」(同)などがある。テキスタイルプリンターを備えるテキスタイルブースでは、テキスタイルへのグラフィックの印刷が可能だ。ソファなどのクッション材も多数取り揃え、試作を使った素材の検証ができる。

塗装ブースは、最も機械化が進んでいないブース。しかし、手作業だからこそ、デザイナーからのどんなオーダーにも柔軟に対応できると言う。

木材ブースには、さまざまな形や種類の木材が並ぶ。また金属ブースは、金属の切断や加工ができるウォーターカッターなどを備える。

ウォーターカッターなどの加工機器で、金属も加工できる(写真:明智直子)
「IKEA 365+」シリーズのナイフを試作する様子。さまざまなタイプの試作品を作っていた(写真:明智直子)

この場所から、1年間に2000もの試作が生み出されている。今回の取材時は、食器や調理器具の定番商品「IKEA 365+」シリーズのナイフを試作するシーンを見ることができた。サイズや柄の部分の形状など、さまざまなタイプの試作を用意していた(11月20日公開記事「イケアが3年越しで開発 食卓で食べない新食器群」を参照)。

プロトタイプショップでは、金属製のネジなど小さなパーツの試作もできる(写真:明智直子)
陶器のような塗装の木製プレートを試作(写真:明智直子)

■2万50000時間続くLED電球のテスト

テストラボは、開発中の商品をテストする施設だ。テキスタイルブースでは、布地を400回洗うなどして耐久性を調査。ケミストリー&テキスタイルブースでは、湿度を変えることで、素材にどんな変化が現れるかを調べる。また、白いソファへのジーンズの色移りや、水を含んだ状態での色移りテストも行っている。

電球だけが集う部屋。600個の電球を同時にテストできる(写真:明智直子)
大量のLED電球を2時間15分点灯し続け、15分消灯するというテストを、電球の寿命が切れるまで行っていた。完了するまでに2万5000時間かかる(写真:明智直子)

部屋いっぱいにLED電球を並べた部屋では、寿命が切れるまで点灯消灯を繰り返す。大量のLED電球を2時間15分点灯し続け、15分消灯することを繰り返すため、完了するまでにおよそ2万5000時間かかる。

収納家具の扉の開閉テストでは、機械を使って、扉の開け閉めを50万回繰り返す。このほか専用の機械を使った椅子や重りを使った本棚の耐久テストなど、消費者の使用を想定した品質テストを、地道に繰り返している。

テストラボで、開発中の商品テストを行う様子。椅子は、縦方向に120キロ、横方向に40キロの荷重をかけて耐久性を調べる(写真:明智直子)
椅子の座面の耐久性を保証すべく、衝撃を与え続けるテストも実施(写真:明智直子)

本棚「BILLY」の耐久テストの様子。常に一定の条件でテストを行うべく、気温20度、湿度65%の部屋に7日間置いたサンプルに、重りを乗せてたわみを測定した。結果はコンピューターに記録(写真:明智直子)
収納家具の扉の開閉テストでは、扉の開け閉めを行う機械が活躍。50万回ほど開閉させる(写真:明智直子)

テスト基準は常に見直しを図っており、返品された商品の返品理由を把握し、テストや品質の基準に反映させている。テストラボは、今後、スペースを倍増させる考えだという。

プロトタイプショップは、デザイナーが働くデモクラティック・デザイン・センターに直結し、テストラボは徒歩数分の場所にある。プロトタイプショップ内はゆったりとした空間になっており、加工機器が整然と並べられ、作業に没頭しやすそうだった。世界最大の家具製造・販売会社のイケアでは、デザイナーのアイデアをカタチにするサポート体制が、しっかりと整っている。

(日経デザイン編集部)

[書籍『イケアのデザイン』の記事を再構成]

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