UQと楽天モバイル 第3極をつかめるか
佐野正弘のモバイル最前線
大手キャリアが発表会開催を控える中、MVNOの事業者が発表会を積極的に開いている。
KDDI(au)傘下のUQコミュニケーションズは2016年10月24日、製品・サービス発表会を開催した。同社はWi-Fiルーターを中心とする「UQ WiMAX」で知られるが、現在はauの回線を用いたMVNOとして「UQ mobile」ブランドでスマートフォン(スマホ)向けの通信サービスを提供している。
今回発表された主な内容は、UQ mobileに関する新たな取り組みについて。一つは、UQ mobile最大の弱点とされてきたスマホのラインアップの大幅な拡充だ。
UQ mobileはネットワークがやや特殊なau回線を用いている。そのため、長い間、対応するSIMフリースマホがごく少数に限られるという問題を抱えていた。16年7月には、型落ちながらも日本では人気の高い「iPhone 5s」を投入するなどしてラインアップの少なさをカバーしてきた。とはいえ、やはり端末の選択肢が少ないというのは、NTTドコモ系のMVNOに比べて圧倒的に不利な点であった。
しかし、16年8月にASUSの「ZenFone Go」がソフトウエア更新でauのVoLTEに対応し、au回線で利用できるようになったのを機に、auのネットワークに対応したSIMフリースマホが急増。UQ mobileが取り扱う端末も、今回発表した「AQUOS L」「HUAWEI P9lite PREMIUM」「IDOL4」「SHINE LITE」の4機種を加え、8メーカー・12機種へと大幅に拡大。ようやく最大の弱点を克服した。
さらにUQ mobileは、新料金プラン「おしゃべりプラン」の提供を17年2月から開始することを明らかにした。これは、現在の主力プラン「ぴったりプラン」と同じ月額2980円で、2GBの高速通信容量に加え、5分間の通話定額サービスが無制限で利用できるというもの。「イチキュッパ割」を適用することで、13カ月間は月額1980円で利用することが可能だ。
5分間の通話定額は、今年に入り、大手キャリアだけでなくいくつかのMVNOが提供を開始し、人気を高めている。UQ mobileも、高まる通話定額へのニーズに応えるべく、おしゃべりプランの提供に至ったというわけだ。
全ての都道府県に自社ブランドのショップを展開
また、UQ mobileは、新戦略として「節約モード」の拡充策も打ち出した。節約モードとは、通信速度が300kbps[注]にまで低下する代わりに、高速通信容量を消費しないので、事実上データ通信が使い放題となるモードのこと。これまでUQ mobileは、このモードに切り替えることで、SNSが無料で利用できることをアピールしてきた。今回はさらに、このモードの活用を広げるためのサービスを発表したのだ。
サービスの1つ目は、音声でSNSの投稿をチェックしたり声で返信したりできる「APlay」。ワイヤレスイヤホンと専用のアプリを用いることで、スマホの操作に慣れていない人でも声でSNSを楽しめるというもののようだ。
2つ目は、「レコチョクBest」「KKBOX」など音楽ストリーミングサービスの提供だ。これらのサービスは低速な節約モードでも十分楽しめるとのこと。SNS以外にも活用の幅を広げることで、節約モード自体の利用を拡大する狙いのようだ。
加えて、「UQ PLANET」も発表した。これは、UQ mobileのコミュニティサイトで、MVNOやスマホの基本的な事柄や使い方について、ユーザーの不安を解消するために設けられるもの。UQ mobileの端末を購入するユーザーの中には、MVNOやスマホについて詳しくない初心者も多いため、初心者をサポートするための場として提供するようだ。
また、ショップ展開に関しても、UQコミュニケーションズの専門ショップ「UQスポット」の全国展開を発表したほか、家電量販店だけでなく携帯電話ショップにもチャネルを拡大し、ユーザー接点を全国2000カ所にまで広げる計画だ。MVNOとして、全国に独自のショップを展開できる企業は現状片手にも満たないと見られるだけに、これはUQ mobileにとって大きなアドバンテージとなる。
楽天モバイルの新たな手は大容量プランと「シェア」
UQ mobileに次いで、10月27日には楽天の「楽天モバイル」が発表会を開いた。楽天モバイルは大手キャリアの資本が入っていない独立系のMVNOだが、ファーウェイの「Honor 8」の独占販売など多くのMVNOにはまねのできない数々の施策で人気を高めている。
今回新たに打ち出した施策の一つが、新料金プラン「20GBプラン」と「30GBプラン」の提供だ。これらのプランは、9月に大手キャリアが相次いで発表した、従来より安価な料金で20GB、30GBの高速通信容量が利用できるサービスを意識したものと思われる。
だが、大手キャリアよりも割安な料金プランを設定。音声対応の音声通話対応の「通話SIM」に、楽天でんわの「5分かけ放題」オプションを付けても、20GBプランは月額5600円、30GBプランは7000円で利用できる。楽天側の説明によると「大手キャリアより3割安い」とのことだ。
そしてもう一つの施策が「データシェア」の提供だ。これは12月下旬より開始されるサービス。楽天モバイルのユーザー最大5人のグループを作成し、前月使い残した高速通信容量の繰り越し分をグループ内で共有できるというもの。1回線当たり100円の支払いが必要になる。家族・友人を問わず利用できることが最大の特徴。楽天モバイルでは大容量のプランとデータシェアの活用で、ユーザーの利便性を高めたい考えだ。
また楽天モバイルは、現在100カ所を超える規模にまで拡大してきたリアル店舗でのユーザータッチポイントを、年内に150店舗にまで増やす。一方で、東北地方や中国・四国地方を中心に、13の県には未進出の状態だ。そうした未進出の地域に向けては、今後ショッピングモールなどに、期間限定のポップアップストアを設けることで知名度の向上を図り、今後の店舗展開につなげたいとしている。
MVNO初のAndroidフィーチャーフォンも投入
新端末からも新たな戦略が見て取れる。今回の発表会で楽天モバイルはスマホやタブレットだけでなく、フィーチャーフォンも発表したのだ。
これはシャープ製の「SH-N01」で、MVNO向けに発売されるSIMフリーのフィーチャーフォン。メーカー側の説明では「Linuxベース」とのことだが、実際に中身を見る限り、最近増えているAndroidをベースに開発されたフィーチャーフォンのようだ(AndroidもLinuxをベースに開発されている)。
SH-N01は、防水・防じんに対応するほかワンプッシュオープン機能、そして最近のシャープ製フィーチャーフォンに採用されている、キー部分をタッチパッドのように活用できる「タッチクルーザーEX」も搭載している。ただし、アプリの追加はできず、LINEも利用できない。こうした点で大手キャリア向けのAndroidフィーチャーフォンとは異なる。
MVNOの楽天モバイルが大手キャリアと同様のフィーチャーフォンの提供を発表したことには非常に大きな意味がある。なぜなら従来MVNOは、音声通話サービスに力を入れていなかったことや、メーカーから端末の調達がしづらいこともあって、フィーチャーフォンの導入には非常に消極的だったからだ。
しかし最近では、多くのMVNOが5分間の通話定額サービスを始めるなど、音声通話が主体のフィーチャーフォン利用者にとってもメリットのあるサービスを提供できるようになってきた。加えて、フィーチャーフォンを開発するメーカーの側も、SIMフリー市場の拡大で、MVNOに柔軟な姿勢を示すようになってきている。そうしたことから、楽天モバイルは、スマホだけでは獲得できないフィーチャーフォンを好むユーザーの取り込みにも注力し始めたと思われる。
両社に共通するポジションとターゲット
UQ mobileと楽天モバイルが打ち出した新サービスや端末は、一見すると大きく異なっているように見える。だが両者には共通の特徴がある。それはある同じポジションを狙っているということだ。
UQ mobileには大手キャリアの一角を占めるKDDIという後ろ盾が存在する。au回線に対応したSIMフリー端末の拡大や、全国でのショップ展開など他のMVNOでは太刀打ちできない施策を打つことができるのも、KDDIの協力があってこそだと考えられる。
一方の楽天モバイルも、楽天が持つ知名度と資金力をフルに生かした販売・プロモーションを進めている。UQ mobileほどではないものの、全国への販路拡大や、他のMVNOがまだ実現していないフィーチャーフォンの調達、そして多くのMVNOが嫌う銀行口座払いへの対応なども、そうした企業体力があるからこそ実現できたといえる。
両社の最新の戦略からは、企業体力の大きさという優位性を生かし、他のMVNOとは一線を画した存在になろうとしていることが見えてくる。両社が目指しているのは、現在ソフトバンクのワイモバイルブランドが獲得しているMVNOと大手キャリアの中間というべき「第3極」のポジションだ。
第3極を目指す企業やブランドが、獲得に力を入れているユーザー層も共通している。それは各社が展開するテレビCMからも分かる。
今回新CMを発表したUQ mobileは、新たに起用したCMキャラクターこそ、女優の深田恭子さん、多部未華子さん、永野芽郁さんと若いものの、CMの内容は1970年代後半のピンクレディーのヒット曲「UFO」のパロディーだ。また楽天モバイルが現在CMキャラクターに起用しているのは、1990年代に流行した人気バンド「X JAPAN」のYOSHIKIさんである。さらに言えば、ワイモバイルの最近のCMも「ディスコ」「なめ猫」「ザ・ベストテン」など1980年代に流行した要素を多数盛り込んでいる。
こうした点から、各社ともに獲得を目指しているのは40代以上、特に50代以上のフィーチャーフォン利用者が多い世代であることが見えてくる。大手キャリアのフィーチャーフォンを利用するユーザーに対し、より安価な料金で利用できることをアピールすることで、ユーザーを奪う狙いがあるといえそうだ。
一方の大手キャリアも、第3極を目指す企業やブランドにユーザーが奪われないよう、フィーチャーフォンユーザーの流出防止策を強化している。今後、大手キャリアと第3局、そして第3極同士の争いが激化することは確実であり、その軍配がどこに上がるのかは、今後の携帯電話競争を見据える上で大きなポイントとなる。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
[日経トレンディネット 2016年11月2日付の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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